※食べちゃう


 わたくしは貴女さまのお身体の、エエ、全てを知っているのでございます。マシュマロのように柔らかな唇に弾力のある頬、艶やかな髪は誠に美しい。瞳はいつもぱっちりと開かれております。滑らかな肌はボディソープの香り――わたくしと使っているのは同じはずなのですが、貴女さまから香るそれは大層甘美にございます――がいたします。きっと、わたくしは理解しているのです。わたくしがこれ程までに貴女さまに焦がれ、苦しくなるのは貴女さまのせいなのです。わたくしだけのものになって下さらない貴女さまが悪いのです。
 思えばわたくしは無欲な男でございました。クダリのように貪欲で、利己的な人間が近くにいると自然とそうなるのでございます。勿論クダリを否定するわけではありません。あれはあれで、必死に生きているのです。とにもかくにも、わたくしは堅実に日々を過ごしておりました。仕事を真面目にこなし、慈善に身を費やし、あまつさえ、他人の世話まで喜んで引き受けておりました。元来わたくしの性質といえば、奉仕の一点に尽きます。ですから、わたくしはそんな生活を唯謳歌しておりました。そのとき、貴女さまが現れたのでございます。それはわたくしにとって、唯一の誤算にございました。
 貴女さまは眩しすぎたのでございます。わたくしが欲しいと、胸中でひとり望んでいたもの、その全てを手にしうる素質が貴女さまにはありました。わたくしは貴女さまに焦がれた。わたくしだけの貴女さまにしてしまいたかった。嗚呼、多分、今回の衝動の理由は唯それだけなのです。わたくしは貴女さまがどうしても欲しかった。
貴女さまを彼女にし、結婚を誓い合った後もわたくしの気持ちに変わりはありませんでした。なにしろ貴女さまは他の男性、とりわけクダリと仲が非常に宜しかったのですから。クダリに貴女さまを盗られるのは、わたくしにはこの世で最も残酷な仕打ちのように思われました。わたくしが唯一手に入れた至高の女性を、世界で一番わたくしの反対側にいるクダリに奪われる。……考えるだけで、返吐が出るのでございます。貴女さまを信じたかった。ですが、わたくしにはもう、他人を無条件で信じることなど出来なかったのでございます。

 ここでひとつ、勘違いしていただきたくないのが、わたくしは貴女さまを憎んでいたわけではないということにございます。こういう結果になったのは残念ではありますが、これから先、わたくしは生涯独身を貫くつもりなのです。当然ではありませんか。わたくしは貴女さま以外要らなかったのです。唯、貴女さまに側にいてほしかっただけなのです。貴女さま以外の女性など、最早記号に過ぎません。他の人間も、とうに物体に成り果ててしまいました。
 貴女さまが返事をしないのはわたくしのせいだと重々承知しております。わたくしは罪を償うつもりです。貴女さまを失いたくない一心でわたくしはこの行為を正当化しようとしていたのかもしれません。ですが、これが許されないことだとは知っていたのです。それでもわたくしは貴女さまをわたくしの貴女さまに留めておきたかった。
それほど好きだといえば良かったのかもしれません。わたくしだけを見て欲しいといえば良かったのかもしれません。或いは、抱き締めただけでも、貴女さまは気づいて下さったかもしれませんのに。
 わたくしの手に残ったのは貴女さまが愛した日々の欠片。忘れ去られたひとつの平穏なのです。
 嗚呼、ですが……その。


「貴女さまのお身体は非常に美味しゅうございました!」


(独占欲は限りなく、)
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