露草02  [ 39/39 ]


 可愛い、ってなんだよ。
 あいつは性格は良い方ではないし、家での行動は非常にだらしない。朝だって俺が起こさないと起きねぇし、べたべたくっつきやがるから鬱陶しいし。
 ……のくせに顔は良いんだ顔は。あと俺に抱き着いてきたりするときとか、素直なときはそれなりに、おう。
 で、今だ。なまえが俺に尋ねてきた。曰く、わたしって可愛いかな。

「お前、それ答えて欲しいのかよ」
「そりゃあまあね」
「つうか俺に聞いてどうすんだよ。鴇に聞きゃ一発だろ」
「露くん最低」

 なまえは俺の頭を軽くはたき、なにそれ最低、ともう一度繰り返した。
 ソファに座っていた俺の身体はそのまま抱き着いてきたなまえの重みによって沈んだ。馬鹿か。俺に聞いたらんな答えにしかなかないことくらい分かってるだろうが。
なんか苛々してきた。なんで俺が怒られなきゃいけねぇんだよ。首の方に回された腕を振りほどいて溜め息をつく。

「うぜぇ」
「……そう、そっか」
「は?」

 あまりに聞き分けの良いなまえに違和感を覚え、後ろを振り向く。

「お、ま」

 ぼろぼろと涙を流したなまえは、無言で首を振った。なにやってんだよ。なんで泣いてんだよ。
 こっちにこい、と手を引いて俺はなまえをソファに座らせた。なまえは泣き止む気配もなく、俺の手をただ強く握った。
 かける言葉が見つからずに項垂れる。本当は分かっている。こいつが我が儘だってことも、俺が何を言えば良いのかも。

「露くんは別にわたしなんかどうでもいいんだもんね、そうだよね」
「なんかとかいうな」
「だってそうでしょ、露くんはわたしのことかわいくないって」
「そうとは言ってねぇだろ!」

 むしろすげぇ可愛い。こんなうぜぇこと言ってるのにキレないで話聞いてやって、更に心配までして。
 なまえじゃなきゃこんなことしねぇ。無視だ無視、流石に泣かれたら困るけど。

「怒ってる……」
「怒ってねぇよ」
「じゃあ可愛い?」
「話が繋がってねぇだろ」
「……」

 なまえは涙を流すのを止めて、頬を膨らませた。あ、こいつ嘘泣きしてたな。
 俺は首を振って、この馬鹿の頭をはたいた。びくり、と身体が動く。

「お前も叩いたろ、サイテー」
「!」
「謝れって」
「……ごめんなさい」
「おう」

 なは露くん、と眼を伏せて俺の肩に寄り添った。俺はそれを軽く流して、なまえの頭を撫でた。
そんな上辺だけの言葉なんて意味はない。過ごしてきた時間、作った思い出、俺のあいつに対する気持ちだけが大切なはずなのに。

「なぁ、お前さ」
「うん?」
「お前、……まあ、可愛いぜ。俺の中ではな」

 こいつを喜ばせるための言葉なら、仕方ない。
 なまえの笑顔に偽りはないだろうから。


20120526
オチない

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