静雄06  [ 37/39 ]



「なまえ? いねえのか?」

 今日は大分帰りが遅くなってしまった。いつもなら夕飯は食べ終わっている時間だし、なまえはテレビでも観ているだろうと思って帰ってきたのだが……。部屋のどこにもなまえの姿が見えない。
 あいつは夜更かしをいつもしているのに、今日に限って早寝をしたのだろうか。そう思ってリビングへ向かうと、案の定そこにはなまえがいた。

「……おい、帰ったぞ」
「ん〜……ぱっひょい……」
「どんな夢見てんだよ!」

 熟睡している人間にツッコミを入れても意味がない。俺もはやく風呂に入って早く寝よう、と立ち上がる。すると、寝ていたはずのなまえの腕が俺を掴んだ。

「起きてんのか?」
「…………」
「おい、なまえ。おいって――」

 揺さぶってみても、反応はない。
 しかし腕の拘束は強くなっていくばかりだ。無理矢理振り払うわけにもいかず、俺はなまえを刺激しないようベッドにもぐりこんだ。

 なまえの寝顔をこうして眺めるのは、久しぶりのことだった。
 そういえば最近時間がとれず、こいつには寂しい思いをさせていたかもしれない。その気持ちが俺をここに繋ぎとめているのか。
 なまえは可愛い。口には出さないけれど、俺よりも小さい身体だとか、透き通るような声だとか、幼さの残る顔だとか。全てが愛しくて、――壊したく、なくなる。
 俺がなまえにしている行為は到底許されるものではない。年齢差も大きな問題だが、俺となまえは根本的に違う生き物だ。俺みたいな化け物が、こんな魅力的な女を壊していいはずがないんだ。俺が抱きしめれば楽に呼吸はできないだろう。俺が頭を撫でてやって、力の加減を間違えればこいつは死んでしまうかもしれない。俺の隣にいるだけでも危険がつきまとう。
 なまえを本当に想っているのなら、俺はこいつから離れなければいけない。それができないのは、俺のわがままにすぎない。

「ごめん……」

 それでも、俺はなまえに触れることを止められない。
 好きなんだ。好きで好きで、なまえ以上に愛せそうな奴なんていないんだ。俺が壊してしまいたいと、壊したくないと思うのも、お前だけなんだ。

「ごめんな、なまえ……」

 彼女はいつだって笑って許してくれる。それに甘えて、俺は生きていく。
 きっともっと素敵な日々があった。きっともっと幸せになれる道があった。それでも俺を選んでくれたなまえに、俺は。

 掴まれていた腕をはなし、代わりに小さな手に俺のそれを重ねた。
 ゆるやかな呼吸と心地良い体温が伝わってくる。なまえの、生きている証。
 それだけは決して侵さないように。
 少しだけ、俺は手に力を込めた。

(罪が増えていく)
(それでも、わたしたちは)




 こういうことしてたら可愛いよねっていう.


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