静雄02
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何でこんなに好きなんだろうね。わたしは首を捻る。静雄さんは見た目不良っぽいし、怒りんぼうだし、怖いらしいし(みんな化け物とか言うけど意味分かんない)。
何でこんなに好きなんだろう。
静雄さんの大きな手だとか、サングラスの下の綺麗な瞳だとか、笑ったらすごく可愛いんだとか。良いところはもちろん沢山ある。でも嫌なところがないわけじゃない。わたしにあまり甘えてくれないところは嫌。
けれどそれだって静雄さんが好きだからこその気持ちだ。わたしの感情は今、静雄さん中心に回っている。
「なまえ、なまえ、なまえ、なまえ……」
わたしをぎゅうと抱き締める静雄さんは冷たい。雨に濡れてしまったんだね。外は寒かったでしょう。はやく、はやく、わたしから熱を奪って下さい。
未だ玄関に立ち尽くしているわたしは静雄さんの顔ではなく止めどなく流れる青を見ていた。
抱き締めてばかりじゃあ、あなたの顔が見えません。
「俺は、なまえにちゃんと優しくできてるか? なあ、怖いんだ。馬鹿みたいだろ。池袋最強なんて……本当は、こんなに弱い奴なのに」
「――――」
静雄さんの腕に力がこもっていく。痛くはないのに、静雄さんは何かを恐れるようにぱっと手をはなした。
「ごめん。ごめん。なまえ、お願いだから、俺を怖がらないでくれ。俺はお前のことが好きなんだ」
「静雄さん」
わたしの瞳に映る青、それが涙ではないなんて誰が言えるだろう。
一歩後ろに下がって静雄さんを見る。彼は泣いていないのに泣いていた。わたしはそんな彼すら愛しているのだ。弱いからって嫌いになるわけがない。強いだけの静雄さんは、静雄さんじゃない。弱いところも強いところもずるいところも情けないところも全部が全部、彼の糧となる。それならわたしは全てを包み込みたいのだ。
「わたしの目の前にいるのは、わたしに笑顔をくれる優しい静雄さんです。間違いないです。だから、怖がらないで」
何でこんなに好きなんだろう。静雄さんはすぐ凹むし、すぐ復活するし、色々なひとに心を割いているのに孤独なひとだけれど。物を壊すし今だって泣くという行為でわたしの心を壊しているのに。
何で、何で?
「ねえ静雄さん。わたしに話してください。あなたの悲しみも痛みも、なまえちゃんが食べちゃいましょう」
わたしはこんなに叫びたいくらいオレンジ色の気持ちになれるんだろう。
「……いつか、お前が何かに怯えてたら、俺が全部食ってやるから。だから今は」
あ、そっか。 わたしが静雄さんを好きな理由はそれしかないんだね。
「好き」
(理由なんてそれで十分なのであなたの痛みをわたしが食べてやりましょう)
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静雄さんは誰かにそんなんじゃいつか大切なものまでぶん投げちゃうねとか言われたんだと思います。力に怯える静雄さんが愛しいのです。
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