あの後自室に戻った私は直ぐ様携帯を手に取り、ワンプッシュして耳に当てた。今あちらで彼は学校にいる時間帯なのだが、そんなの気にしてはいられなかった。この事をはやく、はやく彼に伝えたかった。


通常よりも長いコールの後、今一番聞きたかった声が聞こえた。



「もしもし」

「あ、征十郎?いきなりごめんね。」

「いや、構わないさ。この時間帯にかけてくるということは、よっぽどのことなんだろう?」

「うん、そうなの!あのね、九代目とボスからの許可が出たんだ!」

「…そうか。思ってたより早かったな。」

「ね、私もびっくりした。でも嬉しいよ!征十郎と同じ学校に通えるなんて!!」




そう。私が九代目とボスに頼んだのは、征十郎と同じ中学校に通いたい、ということだった。

本来ヴァリアーに所属する私は学校に通う(というか普通の教育を受ける)必要はないのだが、私は仮にも九代目の娘な訳で。如何せん何にも教育を受けない、という訳にもいかず並中に編入させようかと言われていたところで私がどうせなら征十郎の通う帝光に、と頼んだのだった。




「あ、でも条件があるんだって。」

「条件?」

「うん。





"楽しんでこい"だって。」






電話越しの彼がくすりと笑ったのがわかった。




「あの人らしいな」

「うん、素直に言えばいいのにね。…でも、すっごく嬉しかった」




征十郎につられて私も頬を緩め笑みを溢す。
素直に口には出さずとも、わざわざ条件だなんて理由をつけてまでそれを伝えてくれるあの人は、やっぱり優しいのだ。




「そう言われたからには、ちゃんと条件を果たさなきゃいけないな。」

「うん!でも、征十郎がいるならきっと何でも楽しいと思うんだ!」

「それは嬉しいな。いつ此方に来るんだ?」

「明後日だよ。ちょうど12時くらいに空港につくと思うから、迎えよろしく!お昼も一緒に食べよ!」

「わかった。さくらの好きそうな店も探しておくよ。」

「Grazie!楽しみにしとく」

「ああ。俺も待っているよ。…じゃあ、すまないがそろそろ切るよ。」

「あ、うん。ありがとね。………ってあ!大事なこと忘れてた」



一度深呼吸をしてから、その言葉を紡ぎだした。




「―――Ti amo.(愛してるよ)」



「……ああ。俺もだよ。」

「うん。それじゃあね!」



電話を切ると、私は携帯を両手で胸に抱き締めふかふかのベットの上に倒れ込んだ。枕に顔を沈め温かい気持ちのまま夢の世界に旅立たんとするが、どうにも目が冴えてしまっている。色んな嬉しいことがありすぎて、今日は眠れそうにない。まるで遠足前夜の小学生だ。

そんなに自分に苦笑いをしながら、目を閉じてついさっきまで会話をしていた愛しい彼のことを思い浮かべた。


(君が愛しすぎて眠れない、なんて)




***




――彼女からの電話を受けたのは、丁度授業と授業の間の休憩時間だった。


震えた携帯を開き表示されていた彼女の名前を見たときは何かあったのかと心底心配したものだが、そんな心配は必要なかったらしい。






「―――Ti amo.(愛してるよ)」



耳から伝わるその言葉がじわりと身体の中に溶け込んでいくのを感じながら、口角を上げた。



「……ああ、俺もだよ。」

「うん。それじゃあね!」



これほどまでに元気で明るい声は(まあ俺と話してるときはいつも元気なのだが)あまり聞いたことがなかった。余程嬉しかったのだろう。まるで無邪気にはしゃぐ子供のような、そんな彼女を愛しく思いながら通話が切れた携帯を折り畳む。




彼女が日本に、ましてや自分と同じ学校に通うのだと思うと自然と気持ちが高ぶった。

今日は筋トレを減らして試合を多く出来るようにしてやろう、なんてことを考えながら教室へ戻るためにゆったりと足を進める。ふと腕時計を見るとチャイムが次の授業の開始を告げるまであと一分しかない。携帯をポケットに押し込んで駆け足で教室へ急いだ。この頬の緩みはそう簡単に治りそうにない。


(はやく、俺のもとに戻っておいで)





嗚呼、こんなにも

(貴方が愛しくて堪らない)
(君が愛しくて堪らない)





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