次に向かったのはカイの部屋。カイは風護と一緒に寝ているので、はじめのうちは風護が起きた時にカイを起こすようにしてたが、彼はマイペースでよく寝る子なのでどんなに揺すっても、大声で声を掛けても起きる気配はないため最近では風護も諦めて、カイを起こさないようになってしまったのだ


「おい、カイ、起きろ。朝だぞ。学校に遅刻するぞ、おい」
「ん〜〜…あと…じゅうごふーん…」


むにゃむにゃと気持ち良さそうに眠りに入っていくカイ。十五分ところか後、一、二時間は余裕で寝るだろう。清斗は二回目の溜め息をついてから耳元でこっそり声を掛けた


清「布団に虫が入ったぞ」
カ「んぎゃあああああああああああああああああッッッ!!嘘だろおおおおお!!ふざけんな!消えろ!!!!キモチワルイー!!」


途中で言葉使いが荒くなった叫び声と共に彼はすごい勢いで布団を抜け出し、部屋を出て行き、ドタバタとテツが降りて行った時のようにすごい音をたてて一階へ降りて行った
今日初めてこの手を使ったが…ちょっと近所迷惑だがなかなか使えるな、と思いつつ、最後の部屋へと向かう

最後の部屋と言うと魔王の部屋を連想するが、まさにその通りだと思う。次の部屋はキドと鈴希の部屋だ。彼らは寝起きがとんでもなく悪い。子供がその場にいたら絶対に泣き出すだろうと言うくらいオーラや顔など怖いことになっている。


清「おい…お前たち起きろー」


ガチャリと開ければ、まず顔の真横に何かが飛んできた。そっと視線をズラせば、壁にビーンと突き刺さっているコンパス。清斗は汗をダラダラと流しながら、今日もかと心の中で三度目の溜め息をこぼす
視線を戻し、布団に入っている二人を見れば、それはそれは恐ろしいオーラを発しているキドがいた


キ「さっきからドッタンバタンと…うるせぇ…んだよ」


低い声でそう唸るキドはとても恐ろしい。一般人が聞いたら泣きながら逃げ出すんじゃないのかと言うくらいに。しかし、長年ともにすごしてきたためそれに慣れてしまったのか特に恐れること無く、清斗は部屋にズカズカと入ってきてカーテンを開ける。日差しがもろかかったのか鈴希が眉間にシワを寄せてから布団を頭までかぶせた
ちなみにキドと鈴希はベッドとベッドの間に人ひとりが入れるスペースを開けての隣同士である

起きようとしないキドと鈴希に少し呆れつつ、腰に手をあてて二人を見る


清「朝飯出来てんだよ。みんな待ってんだから早くしろ」
キ「うっせえ…黙れ…おれは…寝るんだ…いえす…スリープ…」


まだ少し寝ぼけているのかコックンコックンと船をこいでから、スッと自然の動作で布団に入っていく。そう、あまりにも自然すぎたので清斗もすぐに反応出来ず、ただボーと見ていた。そしてキドが布団を頭までかぶって寝息が聞こえたと同時に清斗は、ハッと意識を取り戻して慌ててキドの布団をはいだ


キ「う、ううー…」
清「いやいや!寝るな寝るな!起きろって!学校に遅刻するぞお前た…あだっ!」
キ「ごぶっ!」


少し唸るがそれでも眠気に勝てず、再び夢の世界へ飛びたとうとしているキドを起こすべく、キドを揺すってたら背中とゲシッと蹴られて、そのままキドの上へとダイブしてしまった。痛む背中を手でおさえつつ後ろをみれば


鈴「ギャーギャーやかましいんだよ。静かに寝かせろ」


ベッドの上で腕をくんで立ってブチ切れている鈴希がそこにいた。彼は黒いオーラを発しつつ清斗たちをギラリと睨みつけた。これもキドに負けず劣らず怖い。もうヤーさんもめじゃねぇぜ!ってくらいには怖いと思われる。ちなみに先ほど清斗の背中を蹴ったのも彼である。そんな彼は痛がる清斗を見ても特に反省することなく、逆に鼻でフンっと言って、自然の動作で布団に戻っていく
てか俺、どんだけ弟に鼻で笑われてんの?


清「いやいやいや!お前もまた寝ようとすんな!起きろって!」
鈴「うっせぇ黙れヘタレ」
清「だーかーらー、ヘタレじゃー…いだっ!」
鈴「げぼっ!」


今度は布団に戻っていった鈴希を起こすべくキドの反対側で寝ている鈴希を揺すっていると、またもや背中にドゲシッと蹴られて、次は鈴希の上へダイブしてしまった。同じところを蹴られ、痛さのあまりすこし涙目になりながらも後ろを見る。
そこにはキドがこめかみに青筋を立てて、ベッドの上に立っていた


キ「鈴希…てめぇ…お兄様に向かって何をしたァ…?」
鈴「お前こそ可愛い可愛い弟に向かって何をした」
キ「どこにも可愛い弟なんかいねぇけど?」
鈴「どこにもお兄様なんかいないが?」


二人の間にバチバチと激しく火花が飛び散る。一番痛い思いをしたのは清斗だがそれも言わせない雰囲気になっていた。そしてこれはまた朝から喧嘩勃発の展開だなと思った清斗は慌てて二人の間に入り込んで、落ち着かせようとした
しかし二人の言い争いはヒートアップしていくばかりだった。しまいには胸ぐらを掴むところまできてしまった。もうこれもう俺一人じゃあ無理だわ…と諦め掛けた時に、降りてくるのがあまりにも遅かったためか様子を見にきた恋と堯によって殴り合いなどには発展せず、その場はおさまった


***


清「お前たち…毎度毎度喧嘩するくらいなら部屋分けろよ…」
キ「面倒くせえからパス」
鈴「右に同じく。キド、醤油とってくれ」
キ「ん」
鈴「さんきゅ」


それから下に降り、みんなが揃ったところで朝食を食べ始める。先ほどの喧嘩が嘘かのようにキドと鈴希は仲良く隣に座ってご飯を食べている。元々仲は悪くないので普段喧嘩をすることは滅多に無いのだが、二人揃って寝起きが悪いため、ああやって喧嘩をしてしまうのだ。本当に同じ部屋で寝ないで欲しい

もぐもぐとご飯を食べていた零が何かフッと思い出したのか、俯いてた顔を上げて風護にたずねた


零「風護、お前今日は仕事ねぇのか?」
風「あるよ。午後から撮影。その後に取材とかね。あ、今日食べに行くから夕飯いいや〜。あと兄さんを付けな」
零「…はぁ?」
風「ほーら、早く!」
零「……………風護…に……兄さん…」
風「うん。よし、ごーかーーく」


なんでかよく分からないが風護にあまり逆らえない零は少し恥ずかしがりつつも、風護のことを兄さん付けで呼んだ。それに満足したのか風護は満面の笑みで零の頭を撫でた。もちろんすぐに「撫でるな」と手をはじかれてしまい、風護はケチーと言いつつ再度ご飯を食べ始めた


恋「俺も飲みに行くから夕飯大丈夫だ」
堯「俺は遅くなるから先に食べててくれ」
零「了解」


そんな和やかな雰囲気を微笑むようにして見守っていた兄二人も、あっと何か思い出し、要件を零に伝えた。何故零かと言えば、夕飯を彼が作るからである。いらないことを早めに言わなければ、余分に作ってしまう。そうなると勿体無いし、彼の労力を無駄にしてしまう気がするので早めに伝えることは兄弟の中で暗黙のルールとなっている


蒼「ねぇー今日誰か部屋代わろうよ…そろそろ寝不足で死ぬ…」
キ「Mのお前には嬉しいことだろ?」
蒼「Mじゃないよ!」
鈴「うわっ、てめっ口に食いモンいれながら喋んな!」
蒼「あだばっ!」


行儀の悪いことをした蒼空は罰だと言わんばかりに鈴希の平手打ちをくらう。しかもかなり本気で。蒼空のほっぺには赤い手形の跡がくっきりと残ってしまった


蒼「ううう…痛いよ…手形残ってるし…学校恥ずかしくていけないじゃん!うわあああん!」
零「うっせぇ喚くな害虫」
蒼「…もう立ち直れない」
カ「手形の跡wwwwやばいね蒼空兄さん!」
蒼「せめて慰めよう?」
カ「だが断る」


泣き真似してるところにすかさず零の毒舌爆弾をくらう蒼空。どんよりと落ち込む彼を誰も慰めることをせず、むしろ手形の跡に大笑いしているカイの姿がそこにあった。
そして慰めることを断固拒否された蒼空は「分かってる…分かってるさ…ふふ…」と涙目になりながら落ち込んでいた。その隣ではカイは普通にご飯を黙々と食べていく
そして更にその隣ではガツガツとご飯を胃袋に掻き込むテツの姿があった


清「あーほら、そんなに急がなくてもご飯は逃げないから」
テ「でも美味しくて!いっっぱい食べたいんです!零兄ちゃんおかわり!」
零「おう、たんと食え」
テ「うん!」
清「だからそんなに掻き込むと喉につまるぞ…たくっ」


にこにこと笑顔で食べていくテツを見て悪い気がしなくなった零もつられて小さく微笑む。珍しいこともあるんだなーと横目で見つつ、これを指摘するとどんな悪態が飛んでくるか分からないので清斗は言わないで置いた。
しかしそこで蒼空が「嘘!零が笑って…」と驚くモノだから、零がすかさず蒼空の背後にまわり、そのまま綺麗にバックドロップを決めた。周りのみんなは、おお〜と感心した声を上げた


恋「ん?零音…お前、また食べてないじゃないか」
零音「だって〜〜…」


不貞腐れたような声を上げて、床についてない足をバタつかせる零音。彼はたくさん食べるテツとは反対で全くと言っていいほど、ご飯を食べない。不眠症かつ食欲不振と不健康すぎる体のに、彼は全然元気である。これは七不思議の一つに入れるレベルである
しかし、いくら元気と言えど、みんな心配なモノは心配なので少しでもいいから、何か食べさせようと必死である


堯「今日はこのヨーグルトだけでもいいから食べろ」
零音「うええええ…うむぐぐ…」
蒼「あーんしてあげよーかー?」
零音「あーんはお兄ちゃんがいいから蒼空はだめー!」
蒼「一応僕もお兄ちゃんだけど?!」


ヨーグルトでさえ食べることを嫌々と拒み続ける零音に蒼空はニコニコと笑顔で片手にスプーンを持ち、そう尋ねれば、零音はニコーッと明るい笑顔でそれを拒否した。ついに零音にまでお兄さん扱いされなくなった蒼空は本当に落ち込み始めた。これには可哀想だと思ったのか、兄二人は蒼空の肩をぽんと優しく叩き、フォローの言葉を投げかける


恋「あしーたがあるーさ」
堯「明日があるー」
蒼「なんで歌い始めるの?慰める気ないんでしょおおおお!」
零音「あっ、朝でおはようキチキチ体操だ〜!」
蒼「少しは気にかけようよ!」
零音「………蒼空も一緒に踊ろ!」
蒼「間が気になるけど…」
キ「ガタガタ言うんじゃあねえ!さっさと踊れやアア!」
鈴「早く踊らないと小指つめるぞ」
零「踊らんかいイイイ!」
蒼「なんでヤーさん風になってんの?!もうこの兄弟怖いよおおおお!!」


うわああああん!と涙目で席を立ち、テレビの前に零音と一緒に立ち、愉快な音楽とともに合わせて、奇妙な体操をやり始めた
そんな奇妙な体操をやってる二人をほっといてあとの兄弟たちは再びご飯を食べ始める。すると風護がニヤリと笑い、向かい側にいるキドのお皿からエビフライを奪い取ってしまった


風「えーい、とったりー!」
キ「あっ、てめ!俺のエビフライ!」


あとで食べようと思ってたんだ!返せ!とガタンと席を立ち喚くキドに対して、長い足を自慢するかのように足を組み、そしてエビフライをプラプラと揺らしてドヤ顔を決める風護



風「はっはっはっ!足が長くてスタイルが良くて頭も最高にきれるこの僕から無事エビフライを奪い返せるかな〜?」
キ「HA RA TA TU ☆」
鈴「キャラおかしいぞ」


キドが風護からエビフライを取り返そうとしている横で鈴希は自分が巻き込まれないうちにさっさと自分のおかずを食べていくが、現実はそんなに甘くない。風護が鈴希からもエビフライを奪い取ってしまったのだ。そこからは風護とキドと鈴希によるエビフライ争奪戦が繰り広げられた

それを背景に奇妙な体操をしていた零音と蒼空を見て、今まで黙々とご飯を食べていた堯が箸をおき、椅子から立ち上がると二人のそばに行って、なにやら振り付けの指導をし始めた


堯「零音と蒼空、そこの腕の振り違う。もっと…こうだこう」
零音「えー?」
蒼「違うよー、こうでこうだよ!」
零「うるせえ」
蒼「うぎゃあああッッ目つぶし痛っ!!」
零「あとそこはもっと頭をだな、縦とか横に振るんだよ。こうやってな」


堯の言ったことに反論する蒼空にいつの間にかそばに来ていた零が容赦無く目潰しをした。あまりの痛さに泣き叫びながら床に転げ回るが特に誰も気にもとめなかった。
そんな蒼空をよそに堯と零は振り付け談義を始めた。堯は真正面を向いたまま首を横に振りながらハピバリをするのだと言い張り、それに対して零はヘドバンを決めるのだと言い張る。零音はそんな二人の間に挟まれつつもテレビに流れている体操を楽しそうにやっていた


恋「今度ソーラン節踊るか」
風「おっ、いいねー!踊るならカッコいくアレンジしたソーラン節踊ろうよー!僕が振り付けしてあげる」
恋「よし、頼んだぞ」
カ「ぐぅ…」
テ「ガツガツがっ、ごぼっ!つまっ…!」


一方、平和にご飯を食べてる組は体操をしているのを見て、ソーラン節を踊ろうと言う話をしていたり、ご飯を食べながら寝ていたり、あまりにも勢いよく食べていたものだから案の定と言うべきか、喉に詰まらせたりと様々な事をしていた

そして今まで黙っていた清斗はワナワナと震えてはパキッと箸を片手で折り、テーブルをバンッと叩いて勢いよく立ち上がった


清「お前ら本当に自由だな!そこ、エビフライで喧嘩するな!俺のやるから!そこは踊るな!なんで堯や零まで踊り出すんだよ!てかなんでヘドバン?!朝から激しすぎだろ!そこからのソーラン節の意味が分からない!アレンジもしなくていいわ!つかカイ食べながら寝るな!器用すぎだろ!あとテツー!水!水飲めえーッ!そして静かに!ご飯を!食え!馬鹿野郎共!」


朝から自由気ままに騒ぎ始めた兄弟たちに怒鳴り散らした。そうすれば、みんな渋々とだが、席に座り、ご飯を食べ始める。ちらほらと「うるさいなー」「あれ将来ハゲるぜ」「怒るとすぐ老いるんだぜ」「ケチんぼだな」などといった不満な声が聞こえてくる。これには本気で切れそうになり、今こいつらを殺しても構わないかなァ?!とまでいったが、怒りで震えている手でお茶の入った湯呑を持ち、そっと飲むことでなんとか落ち着かせた

そうしてみんなが少しずつ食べ終わったころに、チラッと時計を見ればいつの間にか八時ちょい前。これには清斗は目が飛び出るくらい驚き、慌ててみんなに時間を告げた。みんな一瞬間を置いてから、何ィ〜〜ッ?!と大声をあげてから一斉に「ご馳走様!」と述べてから、ドタバタと支度を始めた。


堯「恋、ネクタイが緩いぞ」
恋「いやいや時間が…ないから…」
堯「許さんぞ!」
恋「もうお前、何キャラ?!」
蒼「うわーっ、僕の筆箱どこー!あっ、頭に乗ってたわー」
キ「やべっ、今日約束があったんだった」
零「また喧嘩のか?」
キ「いんや、今日はサークルのでな。おい清斗!俺もう行くからあとで弁当届けろよ!」
清「…は?!ちょ、自分で…」
キ「いってくるわー!」
清「話をきけー!」
零音「ま、まだ朝でおはようキチキチ体操が…」
鈴「んな体操いいからとっとと学校の準備しろ!」
清「てか体操長くね?!どんだけやんの?!」
零音「1時間」
清「長すぎだろ!」
蒼「あれっ僕の数学の教科書どこ?!」
零「あっ、借りてたわ。返す」
蒼「がごすっ!教科書を投げないで!」
鈴「てかてめぇもいつまで寝てんだよ!おら、起きろ!遅刻だぞ!」
カ「んんー…おんぶしてよー」
鈴「ふ ざ け る な」
零「お前ら弁当忘れんじゃねえぞ!」
風「ふはは、みんなドタバタしちゃって!余裕持って行動しようねーん」
零「腹立つ!」
鈴「でも言い返せないのが辛いな」
堯「いいか、ネクタイの結び方はな…」
恋「ヘルプっヘルプ!」
テ「準備出来たー!それじゃあ、行ってきまーす!」
鈴「俺たちも行くぞ!いってくる!」
零音「ムッキムキーしゅわーち!いってきまーす」
カ「んーいってきますー」
蒼「僕もいってきま…ごぶっ!えっ、なんで平手打ちなの零?!」
零「俺より先に行ってんじゃねぇ!」
蒼「なにこの俺様?!」
零「行ってくるわ」
蒼「あっちょ…いってきます!待ってよ〜!」
恋「もう行く時間だから!帰ってから聞くから!」
堯「だめだ。ネクタイを結べないなど社会人失格だぞ」
恋「ネクタイのなにがお前をそんなに動かす?!ええい!行ってくる!」
堯「待て恋!ネクタイとはな!あ、行って来ます。おい、恋!」
清「鍵はポストにいれといてな!じゃ、いってきます!」
風「ほほーい、いってら〜」


落ち着き無く、ドタバタと家を出て行く兄弟たちを風護は呑気に手を振って見送っていった
みんなが出て行き、家に風護だけが残った。部屋は先ほどまで騒がしかったのが嘘かのように、しん…と静まりかえっていた。風護は椅子から立ち上がり、ググッと背伸びしてから「毎日騒がしいことやら…」と呟いて、自室へ戻っていった


大兄弟の朝の風景
朝からとんでもなく騒がしいです!
でもそれがまたいいのです!


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