朝の風景


いつも愛用しているエプロンを着用し台所に立っているのは兄弟の中で一番料理が出来る零だった。彼はトントンとリズミカルな包丁さばきで野菜を次々と切っていく。火にかけていた鍋がこぼれないよう強火から弱火にさせて、中身をお玉でかき混ぜる。毎度思うが、この朝食&弁当作りは本当に大変である。なんせ十一人分の朝食と十人のお弁当作り。最初は手が回らずしっちゃかめっちゃかなモノだったが、最近ではだいぶ慣れ、時間内に作り終えることができるようになった。そうなったが、やはり大変なモノは大変だ。みんな気を使って買い弁するからお弁当大丈夫などと言うが、やはり栄養あたりを考えるとどうしてもお弁当を持たせたくなる。そう思考を巡らせているあたりがオカンと言われるようなところなんだろうな…と思いつつ、卵をといていく

ギシギシと誰かが階段を降りる音が聞こえてきた。こんな朝早く起きるやつの可能性として四男の清斗だろう。あいつは特に朝早く行かなくてはいけないと言う日は無いのだが、早く起きてきては料理の手伝いなどをしてくれる。清斗も料理は出来るのだが、零の方がプロ並に上手いのでいつの間にか零が料理担当になっていた
案の定、零の予想は見事あたり、一つあくびをしながら清斗が「おはよう」と言って降りてきた


零「ああ。あと手伝え」
清「起きてきてそうそうかよ…顔洗ってくるからちょっと待ってろ」


そう言って彼は洗面台に向かい、顔を冷たい水で洗ってから、綺麗な水色の長髪をくしでとかし、後ろを一つに束ねて洗面台から出てきた。着替えは降りてくる前に済ませている。清斗は零に手伝えと言われたのでエプロンを身につけてから台所へ向かう。


清「それで、なにを手伝えばいいんだ?」
零「卵をといたからそれを焼いてくれ。甘いのと普通のな。」
清「分かった」


二つのボウルに入っている卵に片方は砂糖、片方は塩を入れて、もう一度といてからフライパンへと流し込む。じゅーっと音と共に卵の良い香りがフワリと漂う。砂糖入りの卵はすぐ焦げてしまうのでそうならないよう早めにくるりと巻いてお皿にのせた。チラッと視線を動かせば零が十人分のお弁当を作っていた。次々とお弁当箱に具材を入れ込むその様子は無駄な動きがなく、だいぶ慣れたんだなーと思うと同時になんだか申し訳ない気持ちになり、すまんと一つ心の中で謝り、次の卵をフライパンに流し込んだ


***


朝食と弁当の準備が終わり、一息ついた頃にまたギシギシと階段を降りる音が聞こえてきた。しかも一つでは無く複数。階段の方を見れば、恋に続き、堯、風護が降りてきた。恋と堯は上で着替えてきたのかワイシャツとズボンで来たが、風護はパジャマのまま降りてきて、そのままソファーに寝転がってしまった


清「おい、風護、さっさと着替えて顔洗ってこいよ」
風「うるさいなーヘタレー。あと僕、君より年上なんだからお兄さんって呼びな」
清「ヘタレじゃあねえ!ぐぅ…兄だなんて認めたくねぇ…!」
恋「清斗…年の差はどうやっても変えられないぞ。あと風護、言われたら動く」
風「はーい、りょーかーい恋兄ー」
清「なんで俺との態度が違うんだよ…」
零「そりゃあ、お前が年下だしヘタレだからだろ」
清「ヘタレ関係ねぇだろ!あと俺は年上なんだから兄さんって…」
零「絶ッッッ対にやだ」
清「……」


零はそう述べてから鼻で笑い、恋と堯と一緒に料理を盛ったお皿をテーブルへと運んで行く。清斗は弟に鼻で笑われたことと拒否されたことに少し凹んだが、気持ちを入れ替えて自分も零たちと一緒に料理を運ぶ。その背後で風護が「だせぇww」とか「拒否ww」などとめっちゃ爆笑しながら洗面台に向かった。清斗は今すぐ風護に攻撃したくてたまらなかったが、そんなことしたら兄二人と弟一人に怒られるのでやめることにした。てか、弟を恐れてる俺って…などと考えたが、なんか深く追求したら負けだと思うのでそれ以上追求することをやめた
チラッと時計を見れば、針は七時を示していた。我が家は十一人兄弟なのだが今起きているのは五人。まだまだ寝ているあとの六人の兄弟を起こさなくちゃな…と思い、零たちに「あいつら起こしてくる」と告げてから、二階へと上がっていく。

階段を登るにつれて少しだけ、気が重くなる。今寝ているやつを起こすのが、これまた大変である。すぐには起きないし寝起きが悪い。この前、零が起こしに行ったら喧嘩が勃発したくらいだ。あれを止めるのもとても大変だった…
そんなこんなでまずは末のテツの部屋に来た。彼は兄弟の中で唯一の小学生で、結構な年の差である。
ちなみに部屋割りが、恋と堯とテツ、零と清斗、キドと鈴希、蒼空と零音、カイと風護となっている。恋と堯が自分たちが起きる時にテツを起こせばいいじゃないかと思うかもしれないが、二人は今日は遅めの出勤だがいつもならもっと早く起きるため、そんな朝早くから起こすのは可哀想だと言うことで二人はテツを起こさない。なので今日もその習慣で起こさなかったのだろう。自分たちが遅めの出勤だということを忘れて。
清斗は軽くドアをノックしてから部屋へと入る


清「テツ、朝だぞ。起きろー」
テ「む、ううぅ…」


一言声を掛けて様子を見たが全くと言っていいほど起きる気配は無い。先ほども言ったが奴らはそう簡単には起きない。何度か声をかけたり、揺さぶったりして、ようやく起きるのだ
テツも大きく揺さぶって、耳元で少し大きめな声をかければ、流石にうるさかったのか、うううー…と声をあげながら、むくりと体を起こした


清「おはよう。ご飯だぞ。着替えて、顔を洗って来い」
テ「…んー、ふぁー…い…」
清「のんびりしてていいのか?競争はすでに始まってるんだぜ?」
テ「!!僕が一番になるのですー!」


そう言ってテツは急いで着替えて、そのままドタバタと階段を降りて行った。それを見送って清斗は苦笑を浮かべた。だんだんとだが、起こすコツを覚えてきたみたいだ。早く自力で起きるようになってくれないかなと思いつつ、次は蒼空と零音の部屋と向かった。
彼らは特に起こすのに大変なわけではないのだが、ちょっとした問題がある


清「お前ら起きてるかー…」


ドアを開ければ、もちろんだが部屋は真っ暗。そしてベッドには頭まで布団を被ってる蒼空と目をギンギラギンに開けて、呪文を唱えるような声でぶつぶつと羊を数えている零音の姿があった。布団の中から蒼空と目が合った瞬間、彼は人間だとは思えないスピードで清斗の方に向かい、そして抱きついた


蒼「ぜ、清"斗"お"お"お"お"お"!!"助"げでよ"お"お"お"お"お"!"!」
清「お前はどこの藤原○也だよ」


涙目で助けを求める蒼空と未だに羊を数えている零音に一つため息をついて、閉じ切ってたカーテンを開ける。朝の日差しが部屋に入り込み、その日差しが零音にさしたことによって漸く零音が羊を数えるのをやめた。


零音「あれ?もう朝〜?」
清「ああ、もう朝だぞ。早く着替えて下にいけよお前たち」
零音「はぁーい。うーん、今日も寝れなかったな〜」
蒼「は、はは…僕も零音のおかげで、寝れなかったな…」
零音「えっどーいたしまして?」
蒼「うん、褒めてないよ?」


目の下に薄くだが隈が出来ている蒼空を見る限り、今日も寝れなかったらしい。そう…ちょっとした問題とはこれなのだ。零音が全くと言っていいほど眠くならないらしく、ほぼ毎日目をギンギラギンに開けて羊を数えているのだ。その度に零音と一緒に寝る者はその呪文を唱えるような声があまりにも恐ろしくて、寝るにも寝れない状況を作っていた。兄弟の人数が多くて部屋も残っていないため、今、物置となってる部屋を片付けるまで誰か一人犠牲となってもらっているのだ

もう眠くて仕方ない蒼空と寝ていないのにピンピンな零音が下に降りていくのを見送ってから、次なる部屋へ向かう



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