頂き捧げ | ナノ



スッと誰かがなめらかなラインを一本、引いた。それが空と海の境界線となったかのように、空の青さと海の青さは違う顔をもっている。その狭間から姿を現した太陽。暖かい色味を伴ってまばゆく光り、さざ波がそれに応えてキラキラと反射する。
風は涼しげに頬をなでて通り過ぎていく。
朝早くに叩き起こされた甲斐があるというものだ。重力に従って落っこちていきそうな瞼も、今ではお役御免。頭もすっきりと冴えている。


「きれいだね」

「フム。見事な朝日だ。……して、」


やわらかく包まれているような心地よいまどろみも全力で逃げ出す冷ややかな目。それが今、ライラに思い切り突き刺さっていた。心当たりがありすぎるがために受け止めきれず、さらりと視線を逸らす。


「現実逃避している場合ではないのだぞこのゴミクズめが」

「わかってます…私はゴミクズです…ミジンコ以下です…うえええ……」


榮輝に髪を鷲掴みされて首をやむなく捻ることとなり、無理やり突き刺さる視線を浴びるライラ。わりといつものことだが少し違うとすれば、ライラが妥協どころか自らのけなされ具合と罵詈雑言とを享受しているという点だろう。ツッコミもなく覇気もない。
それはそれでつまらないものだと思う榮輝であったが、今回はライラがそうなっても仕方がない状況だった。

…ので、ねっとりいじめることにした。最大限の恨みをこめて。


「昨晩も訊いたが、理解の足りない貴様の豆腐以下の脳みそにもう一度訊こう。この船は、どこへ、ゆくのだ?」

「……イッシュでございます…」



じっくりねっとり炙り尽くすように話す榮輝に反論する力もなければ気もないライラ。先ほどのの発言通り、そもそも榮輝にこうして尋問される原因がライラ自身にあるものだからもはや抵抗のしようがないのだ。

そう、この船はイッシュ地方へ向かっている。



そもそも、彼女たちには目的地がなかった。ただ単純に、大きな船に乗ってみたかっただけなのである。だから、ホウエン地方のとある港から出港し、船内や船から見る景色を楽しんだのちに同じ港に返ってくるというコースを選んだ。はずだった。

どうやら乗り場を間違えてしまったようである。


「12番乗り場に行けばよかったん…ですよ、ね?」
「う、うん…そこに行ったはず、なんだけど」

眠い目をこすっている雷瑠。その手を引いた瑞稀が苦笑いしながらライラに尋ねる。ライラの記憶では、確かにチケットに書かれていた乗り場へと向かったはずだったのだ。おかしいなあ、とぼやくも船がイッシュ地方に向かっているという事実が変わることはない。
瑞稀に起こされたらしい雷瑠はふわあぁ、と大きな欠伸をひとつ。寝ぼけて瑞稀にぎゅっとしがみつく様が何ともかわいらしい。

「涎を垂らすな気持ち悪い」
「つ、つい…」

げしげしと容赦なく主の頭を踏みつける榮輝。
何も言い返せない。はい、私が悪うござんす。

ライラのもとへ近づく足音がして顔を上げると、咲闇が「ああ…」と悟りきった顔で目の前に立っていた。手のひらの中にいる泰奈は、すやすやと寝息を立てている。

「チケットば船員に見せてから、乗ったとよね?」

「あったりまえじゃん!!ばっちり見せたもん!」

力強くうなずくライラだが、今の顔の位置では甲板にぞりぞりと頬をこすりつけるだけだった。ひりひり痛む頬を押さえつつ立ち上がれば、朱羅と麗音もやって来ていて、全員集合していることがわかった。まだ泰奈は寝ているけれど。


「さて、あっしらがまずやることは…」

「朝ごはんでしょ!僕お腹すいた」

「いやいや乗り越し精算やろ」


冷静に、現実的に突っ込む咲闇。さすが主夫である。
しかし、いったいどれだけの額を払わなければならないのか。
せっかく来たイッシュ地方だというのに、初っ端から壁にぶつかってしまった。

水平線上にうっすらと見えた都会的な景色に、ライラはふっとため息をつくのだった。




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