頂き捧げ | ナノ

 ぱちり。そんな擬音が付きそうな程にしっかりと交わった視線を、マツリは逸らすことができなくなった。
 視線の交わった相手は目測ではあるがマツリよりも小柄で、活発そうな顔立ちに明るめの茶髪がとても良く似合っている少女だった。

 マツリがその少女と見つめ合っていると、少女の隣にいた蜜柑色と鳥の子色の二色の髪色が特徴的な男性が笑顔を浮かべながら歩み寄ってきた。そして、詩音の手を取ると彼は話始める。

「いやあ、まさかこんなとこで君みたいなかわええ子と会えるなんて嬉しいわ。そや、名前教えてもろてもええ?」

 彼が口を開く事に歪んでいく詩音の表情に幽も疾風も苦笑を浮かべた。和泉は馬鹿にしたように笑い、太陽は活発そうな少女をじっと見つめている。マツリと玻璃は、そんな仲間達に呆れたような、疲れたような乾いた笑みをもらした。

 詩音の我慢が限界まで達しようとしていた時、思わぬ救いの手が差し伸べられた。
 関西弁で話す彼に、後ろから拳骨が振り降ろされたのだ。そして、頭を抱えて踞った彼の後ろから現れたのは先程の少女だった。マツリと同じくらいの少女が拳を握り締め、踞っている男性を見下ろしている、という何とも言えない状況にマツリ達の頬がピクリと引き攣る。しかし、その事にはどうやら気付かれずにすんだようだ。
 少女の後ろから歩いてきた金髪の少年と青年、そして桜色の仮面を被った青年と思しき人物にマツリが視線を移すと、少女も釣られたように視線をそちらに移す。

「ナマエ!」

 少年が少女に抱き着くと、抱き着かれた彼女はゆるりと頬を緩めた。マツリの頬もその和やかな雰囲気に釣られて緩んでいく。
 うちの馬鹿が悪かったな、と詩音に告げた金髪の男性に、詩音も流石にいつもの嫌味を言う気分にもなれなかったのだろう。別に、気にしてないとだけ返した。悪い、ともう一度言われたのは、簡単に許してくれた事に対するお礼だったのだろう。

 希色という名前だという色違いのコリンクと、玻璃と太陽の三人が楽しそうにじゃれあっているところを眺めてから、マツリは隣に座る少女改めナマエをみた。ナマエはそのまた隣に座る恋と笑いながら話しており、とても信頼しあっているのだという事がよく分かった。
 いいなあ、と呟くと、マツリの後ろに立っていた和泉が少しだけ寂しそうに俺では役不足でしょうか、と訊ねてきた。マツリが焦りながら首を横に振ると、和泉は目に見えて分かるほどの安堵の笑みを浮かべた。

「何か、マツリちゃんと和泉さんって凄く深い関係って感じがするよね」

 今度はナマエが二人のやりとりを見ていたのだろう。そうもらしたのに、マツリは曖昧な笑顔で答えた。

「うん、まあ、色々あったから……」

 色々?と首を傾げたナマエと恋に今度はマツリだけではなく和泉も曖昧な笑顔を浮かべた。二人も、それ以上追求するのは無理だと判断したのだろう。ナマエの父親の話や、チョコ飯という得体の知れない食べ物の話になった。
 もしやこの地方にはそんな食べ物があるのかとマツリが怪訝そうに眉を寄せると、恋がマツリの考えた事を予想し、少し困ったように違うと苦笑した。


「あれ、花火は?」

 ふと、ナマエがそう声をあげた。え、と声をもらすと、ナマエがほら、あの虎柄の、と説明を入れてくれた。マツリが思いつくと、それを見計らったかのようなタイミングで桜色の仮面を被った青年改め、夢が会話に入ってきた。

「あそこでナンパしてるよ」

 指さされた方向を見ると、なるほど。確かにナンパをしていた。幽の腕を掴んで。
 巻き込まれている幽の表情は明らかに面倒くさいと思っているもので、どこか焦っているようにも見える。マツリは雫の事を思い出し、彼女が此処に居たら絶対に泣き出して幽に別れを切り出そうとするだろうと言うことまで予想できた。
 和泉も同じようなことを考えたのであろう。苦笑を浮かべると、まあ、この地方には居ないでしょうし、と零した。

 幽を巻き込みナンパしていた花火を無理矢理引き戻し、大人数でポケセンまで行く。ジョーイさん相手にまた話しかけようとした花火を夢が引き止め、ナマエが困ったように笑う。歪んだ笑みになっているナマエを慰めようとしている希色が、とても可愛らしい。
 マツリは時計を確認し、そろそろ別の街へ行かなくてはいけないと零す。寂しそうな表情を浮かべたナマエに、マツリは困ったように笑い返した。別れ難いが、もうそろそろ行かなくては観光場所を周りきれなくなってしまうのだ。

「ナマエちゃん、また、会えるかな」

 マツリがそう訊ねると、ナマエは少し目を見開いた後、花が咲いたかのようにふわりと笑った。

「うん。きっとまた会えるよ!」

 マツリも笑って頷くと、手を振った。振り返してくれるナマエと、彼女の仲間達にまた会いたいと考えながらマツリは仲間達とポケセンを出た。

 言霊、という物が本当に存在しているのならば、また会えるだろう。そしてそれは、きっと偶然ではなく必然なのだ。





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