「ありがとうナマエたち!あ、そうそう、みんなのことも紹介するね」
309号室は大部屋だった。ナマエたちが予約した時にも、ポケモンセンターはすでにほぼ満室状態だったそうで、彼女らの人数にしては大きすぎるこの部屋が割り当てられたのだという。
今思えば大変ラッキーなことで、結果オーライだといえる。
ライラが両手に抱えたボールを放つと、赤い光と共にライラの仲間が姿を見せる。しかし、そのうちの2つが、ろくに姿を見せないままに素早くライラの後ろに隠れてしまった。
「雷瑠、泰奈、大丈夫だよ」
そろりとライラの肩から顔を出したのは、真っ白な身体に水色のラインに、くるりとした尻尾が印象的なリスのようなポケモン。それから、透き通った緑が鮮やかな、丸いフォルムのポケモンだった。どちらも黒くて丸い瞳がかわいらしい。
「こっちがパチリスの雷瑠で、こっちがユニランの泰奈。どっちもちょっと人見知りなんだ」
「かっ、かわいー!!」
『!?』
『ふ、ふわわっ!?』
ナマエの目が完全に雷瑠と泰奈に釘付けだ。ほほえみかけた彼女に、雷瑠も泰奈も、遠慮がちに小さく笑い返した。
いきなり大声を出されてびくびくとはしていたものの、再び姿を隠さないあたり、どちらも少しは警戒の色が薄くなったようだ。
すぐに仲良くなれるかな、とライラは他の仲間も紹介する。こうしていると、うちは大所帯だな、と今更ながらな感想が頭をよぎった。
目配せをすると、ぐぐっと雲のような羽を伸ばしながらチルタリスが進み出た。
「こっちが麗音、んで、そっちがバシャーモの榮輝。榮輝が私のパートナーなんだ」
『わ、ふかふか…?』
『そうだよー!僕はふっかふかのふっわふわだよー!』
黄色い髪の少年が、ナマエの後ろからそっと顔を出して、それから擬人化を解いた。ぴょこん、と麗音の前に現れて、興味津々といったふうに、真っ白な羽を見つめている。
「希色はね、色違いのコリンクだよ」
『よろ、しく!』
それを皮切りに、ナマエの仲間たちが次々と擬人化を解いていく。
麗音は自分の羽を希色に触れさせて、その感触を堪能させていた。反対側の羽では雷瑠がぽんぽんとはずんでおり、電気タイプ同士通じるものがあるのか、時折様子をうかがっては微笑みかけていた。ほっこり癒し空間、ここに極まれり。
『うわーやっぱお姉さんめっちゃキレイやんかー!!』
『水の波動とアクアテール、どっちか選ばせてやる』
「瑞稀、口調」
ガーディの花火が、初対面の時と同じテンションで絡み、瑞稀もそれに同じテンション(と口調)で返す。
つまりは今、瑞稀の周囲にどす黒いオーラが渦巻いているのである。
「ご、ごめんねナマエ…瑞稀が花火君と相性悪いみたいで…。タイプ的にも」
「うーうん。いーのいーの!花火なんてもんはあんなんでいーのっ!!」
『ナマエちゃん酷い!!辛辣!!辛ァ…』
「あ、こっちがムンナの夢。いっつもお面被ってるの」
『よろしく、ライラさん』
『ブハ!!俺のこと、無視!』
この時点で、ライラは早くも自分が花火をフォローしていたことを後悔していた。
花火はこういうキャラだとようやく悟ったのである。
というわけで、ライラもナマエに倣って華麗に花火をスルーすることにした。
視界にオレンジと黒の縞々がちらついているような気がするがもう気にしない。
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