ポケモンセンターは、港に面した通りにあった。これだけ聞いたならば、じゃあ最初に迷わずとも見つかっていそうなものだと思われるが、この街の港はいくつかの乗り場に分かれていて、ライラたちが降り立った港はポケモンセンターからは少し離れていたのであった。
「ねえねえ、ホウエンってどんなところ?」
「うーんと、あったかくて、所によっては雨が多い、かなあ…。自然が豊かだよ!」
「へー!南米みたいな感じかなあ…」
「なんべえ?」
「あっいやっ!な。何でもないよ!!何でも!」
「う、うん?」
意味の分からないワードが出てきたので聞き返すと、しまったという風に、慌ててごまかすナマエ。両手を顔の前でぶんぶんと振って、顔面は冷や汗だらだらである。
なんだか深入りしてはいけない雰囲気なので、ライラはそれ以上追及しなかった。
「もしかして、あれがポケモンセンター?」
「そうだよー!レッツゴー!!」
「う、わっ」
かわりに、ポケモンセンターらしき建物が見えたので指をさす。
ナマエは勢い良くうなずき、ライラの手を引いてポケモンセンターの自動ドアをくぐった。
見たことのないポケモンたちがたくさんいるその建物は、ライラたちにとってはとても新鮮だったが、それと同時に、ホウエン地方のものと変わらないポケモンセンターの雰囲気に、どこか安堵を感じた。
建物の一角には、見慣れないカウンターがあった。
あれは何なのかと尋ねると、ナマエは、お店だよ、と答えた。
「モンスターボールとか、傷薬とか売ってるやつ!」
ホウエン地方ではポケモンセンターとフレンドリィショップが独立した建物になっているが、こちらでは統合されているようだ。
他にも違うところはあるのだろうか、こっちにもジョーイさんはいるのかな、と思い正面のカウンターを見てみると、それらしき人がいた。
「すみません、空き部屋はありますか?」
「あら…すみません、今日はもう満室なんです…」
こちらでもジョーイさんはジョーイさんというそうだ。髪型に多少の差異はあれど、雰囲気は変わらない。申し訳なさそうに詫びる彼女の前で、がっくりとうなだれるライラ。
野宿か。野宿しかないのか。
ライラの胸中にはそればかりが渦巻いた。この周辺には野宿に丁度いい場所があるのだろうか。いやしかしここは大都会。そんな自然あふれる場所なんて遠いところにしかないだろうし、そもそもそんな場所があるのかすらわからない。
「こ、公園で寝るしか…」
もはやホームレスのような発想に至ったライラに、ジョーイさんが言葉を続けた。
相部屋でよければ探しましょう、と。
うなずかないはずがない。
頭を抱えていた両手をびしっと両脇にそろえてきをつけをして、斜め45度。
「よろしくお願いしますっ」
ジョーイさんの返事と、それから「タブンネー」という何とも無責任な声も聞こえてきた。
そこでライラは、ジョーイさんのわきにいるピンク色のポケモンの存在に気が付いた。
ナマエによると、あれはポケモンセンターでジョーイさんのアシスタントをしている、タブンネという種族のポケモンだそうだ。ホウエン地方でのアシスタントは、ラッキーだったから、どっちも人間からしてみれば面白い名前だと思った。
「相部屋の候補、いくつか見つけたのでお知らせしてみますね」
パソコンで相部屋に具合のよさそうな部屋を探してくれていたジョーイさんが、奥へ引っ込んでいく。アナウンスをしてくれるらしい。
≪309号室のナマエさん。いらっしゃいましたら正面カウンターへお越しください≫
「「へ?」」
『もうお越ししているようだな』
ボールの中の榮輝が言うとおり、呼び出されている対象はライラの目の前にいる。ついでに言うと、すでに正面カウンターの前にいる。
茶髪の少女と金髪の少女、呼び出された方と、呼び出しを頼んだ方。互いにぽかんと顔を見合わせた。まさか。
あまりの巡り会わせに、驚きで言葉が見つからない。
『フハハ、随分な間抜け面だな』
「ぶっ、ホント、口開きすぎ…ははっ」
越に下げていたボールの中の榮輝と、ナマエの背後にいた恋に突っ込まれて、ハッと我に返った2人。
それからナマエは、ものすごい勢いでカウンターへと突進していった。アナウンスから戻ってきたジョーイさんが気圧されるほどの勢いである。
「あ、あああ相部屋しますっ!!ぜひっ!!」
こうしてライラたちは公園で一晩を過ごさずに済んだのであった。
< >