船から降りる際に船員に事情を離したところ、チケットの確認がずさんだったこちらの不手際でもあるといって、いくらか割り引いてくれた。思たよりも安くついたそれに、みなはまず一安心。
「こっちってさ、ポケモンセンターあるのかなあ」
「麗音、そういうのなら貴様、ちょっと飛んで見つけてこい」
「無理無理!こんなとこ、絶対に無理!」
何かを探す際、空からというのはなにかと都合がいいものだが、今回ばかりは分が悪すぎるようだ。
港に降りると、そこは想像をはるかに絶する大都会だったのだ。建物という建物が所狭しと立ち並び、高くそびえ立つ。
圧倒されることしばし。とりあえずは宿の確保、ということでポケモンセンターを探す。こんなことならさっきの船員さんに場所を聞いておくんだった、と歯噛みするも時すでに遅し。あれよあれよという間に人混みに流されて、ライラたちははぐれないように固まるので精一杯。知らない通りにたどり着いていた。
たくさんの人たちが足早に通り過ぎていく。うっかりすると再び流されてしまいそうだ。そんな忙しない様子だから、誰かを呼び止めて道を尋ねようにも、それがためらわれる。
これか。これが都会の冷たさってやつか。
ただ、通りの一角に、人が集まっている場所があった。眺めているあいだにも、1人、また一人、と行列が長くなっている。先頭を目で追うと、小さな屋台が一つ。
みんな嬉しそうに小さなカップを買い求めている。ちらりと見えたその中身は、真っ白な…。
「あれ、アイス?」
「もしかして、ひ、ヒウンアイスじゃなかね…」
咲闇が反応を示したので聞いてみたところ、あれはヒウンアイスというもので、、イッシュ地方で人気の、割と珍しい食べ物だということだ。ポケモンの状態異常を回復させる効果もあるらしい。
よく知ってたねーと感心しきりのライラに、咲闇はあいまいに笑ってみせた。なにかあれに対して思うところでもあるのだろうか。
深く突っ込むことはせず、とりあえずはあの行列付近の、比較的ゆっくり歩いている人たちに狙いを定めることにした。道行く人々よりもいけそうだ。
「ご主人、わたしが行きましょう」
スッと瑞稀が進み出て、わいわいと談笑している集団に近づいていく。
瑞稀が物怖じもせず、赤の他人に話しかけようとしている。その事実がうれしくて口を半開きにしているライラに、容赦なく榮輝は道端の空き缶を突っ込んだ。いつものことだ。
「あの、すみません、」
「ん?うお、お姉さんめっちゃ可愛いやん!どうどう?俺とデー…」
「うせろ」
「ウィス」
「榮輝何するのこれ空きか…って、ええええええ!?み、み、瑞稀!?」
ちょっと待ってちょっと待って。瑞稀さん、口調!!いやそれ以前にその手を離して!めりこんでる!少年の顔面にしっかりがっちりめりこんでるから!!しかも、その少年初対面だから失礼!
瑞稀の前向きな成長を喜んでいる場合ではなかったし、口に突っ込まれた空き缶に対してコメントしている場合でもなかった。
ガッとオレンジ色の髪をした少年の顔面を鷲掴みにして暴言を吐く瑞稀。笑顔なのが何よりも怖い。
そして不安要素が現れる。向こうの集団の方々が怒って殴りかかってきたらどうしよう…!
「ちょ、瑞稀、ストッ…」
「だめでしょ花火!」
「うん、花、くん、が、悪い!」
杞憂だったようで、花火と呼ばれた少年が囲まれて怒られていた。彼に睨みをきかせているのは、茶髪のはつらつとした少女と、その後ろに隠れている黄色い髪の少年だ。
その間に、ぱんぱんっと手をはたき、一仕事終えたという風な表情をした瑞稀が颯爽とライラのもとへ戻ってきた。普段と変わらない笑みを浮かべる瑞稀は麗しい。先ほどとはまるで別人である。
「ご主人、あの少年よりもあちらの少女の方が話ができそうです」
「あ、ありがとう…?」
「いえいえ!ご主人のためですから」
まあ、瑞稀が進んで声をかけてくれたことに感謝はしている。
ぎゃいぎゃいと騒いでいる向こうの集団に、今度はライラが進み出た。
「あの、すみません、」
「あ!こ、ここ、こっちこそすみませんでしたあああ」
茶髪の女の子に声をかけると、彼女がものすごい勢いで謝ってきた。そのうしろにいた、背の高い金髪の青年は必死に笑いをこらえているが、いまいち堪えきれていない。笑い声がダダ漏れだ。
お互いに頭を下げっぱなしなのも気まずいので、顔を上げて事情を説明した。ホウエン地方というところから、あやまってイッシュ地方へ来てしまったということ、この街の港に着いたはいいものの、迷ってしまってポケモンセンターを探しているということ。
「ナマエ、俺たちもポケモンセンターに戻るところだったし、丁度いいんじゃないか?」
「そうだね、恋。うちの花火が迷惑をかけたんだし。えーと、あたしはナマエっていうの!歳も近そうだし…その、敬語じゃなくても、いいかな?」
「うん、私はライラ!よろしくね」
歳の近いポケモントレーナー同士、ということで親近感がわいたらしく意気投合の様子を見せる2人。恋と呼ばれた青年は、ナマエのパートナーだという。背が高すぎて、話すときには見上げねばならない。
ヒウンシティの街並みといい彼といい、今日は首が痛くなりそうだ、とぼんやり空を仰いだライラ。今日もいい天気だ。
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