「それにしても、ここはイッシュのどこら辺なんだろう?」
辺りをくるっと見渡すが、やはりと言うべきか辺り一面木で覆われてる森。ハルがいるのは森の中にあるちょっとした草原だった。森の付近を見るが出口への看板はもちろん、ここがどこら辺の場所なのかすら手掛かりがなに一つ無い
あると言えば、ハルのいた世界で愛用してたエナメルバックと宝石のみ。うーん、うーん。と頭の悩ますがなんもいい案が出てこない。
『…とりあえず歩いてみたらどうだ?歩いて行くうちに何か見つかるかもしれないしな』「あ、そっか。そうしよう!さっすがだね恋!」
幸いなことに愛用しているエナメルバックの中には少量ながらも食べ物と水があるため、多少歩き回ったり、時間がかかっても平気そうだと…思う
自分の両頬をパシンと軽く叩き気合を注入して、いざ出陣!などと言って森の中を探索することになった
*****
あれから歩き続けて約三十分
一向に出口が見当たらないし、手掛かりすら掴めてない。なんだこれは…いじめか…と思うほどハルはげんなりしていた
こんなに歩いて何も無いとか…そんなに私をいじめたいのか。よろしい。ならば戦争だァ!
あたしをこの森に放り込み、迷子にさせた犯人を許さない。絶対にグーパンしてやる
心の中でそう決意する。いつ犯人が現れてもいいように拳は作ってある。こんなことならボクシングでも習えば良かったなどといらない反省をしていると
『おいっ!』
後ろから誰かに呼び止められた。ハルは救世主ここに現る!と期待と希望を胸に抱き、後ろを振り向いた。
しかし、そこには人間などおらず、その代わりに二羽のマメパトが目の前で軽やかに羽を上下にバタつかせながら飛んでいた
「あ、マメパトさんだ〜。焼き鳥にするぞ」
ハルの期待と希望がガラガラと崩れ落ちる。それにより、ハルの機嫌は急行落下し、表情でわかるほど不機嫌になった。
しかも、目の前にいるのがマメパトだと知った途端、焼き鳥にするなどと言ってはならぬことを発言する
それにより恋はブフッと笑い、マメパトはギャーギャーと騒いだ
『やめろよ!焼き鳥とか言うなよ!』
「冗談だよ〜」
『目がマジだったけど?!』
「それよりさ、ちょっとこっちに来てよ」
『絶対に嫌だ!』
『正直何をするのか知りたい』
「グーパンするに決まってんだろ!?」
『『怖っ!!』』
いきなり怒鳴りながら答えるものだからマメパトたちは体をブルリと震わせてそう叫んだ。しかしハルは、マメパトたちを見てハッと重要なことに気づく
「あ、やっぱり焼き鳥にしていい?」
『ダメに決まってるだろ?!それで、うん!いいよ〜なんて言う奴いないからね?!』
「言えよ!」
『言わねえよ!』
『正直この人間…おかしい…』
「え、どこがおかしいのさ!」
酷いな!と言うハルにマメパトたちは酷いのそっちだろ…と思う。ただそれは口に出さないでおいた。それを言って、また何かややこしくなったら嫌だったので、言葉を飲み込む
ちなみに恋は爆笑してたとか……
漫才のようは流れを繰り広げていた中、一羽のマメパトが、はっ!と意識を戻す。そして重大なことに気がつき、ハルに問い詰める
『つか、人間!おま、俺たちの言葉わかんのか?!』
「えっ、あー…うん。そうなんだーすごいでしょー?」
『正直すごい』
えへへーと頬を人差し指でカリカリとかいて照れるように笑うハルに対して、キラキラと尊敬の眼差しを向けるマメパトたち。
そんな和やかな雰囲気に包まれた中、再び一羽のマメパトが、はっ!と意識を戻した
このマメパトたちは何かと流れやすいことが判明した
『って違くて!そこの人間!ここは俺たちの縄張りだぞ!なに無断に入って来てんだ!』
「え?いやいやいや…縄張りって言われてもあたしここにくるの始めてだから、この場所が君達の縄張りとか知ら……」
『問答無用!』
『正直痛めつける』
そう言ってマメパトたちはハルの言葉に聴く耳を持たず電光石火で襲いかかってきた。
それにギョッと目を見開き、マメパトたちの電光石火を超ギリギリで避けた
先ほどまでいた場所に2羽のマメパトが凄まじい勢いで飛んで行った
ヒュンッと風を切る音を聴き、ハルは顔を青くさせた。
もしも、避けることが出来なかったら、あのままお陀仏だったんじゃないだろうか。腹とかに風穴が開くんじゃないだろうか。
そう考えると今度は汗が滝のように溢れ出てくる。ハルの目はマメパト達を捕らえようとするが、動揺と恐怖で目が泳ぎ、定まらない
そんなことなど気にもせず、ただ自分らの縄張りに入ってきた余所者を攻撃するため、マメパト達は再度構える。視線が定まらなくともマメパト達の行動を把握したハルは震える足に喝を入れ、全力で走り出す
「ちょっ、まじっ、待ったァアア!」
『待った』
『なし!』
「素晴らしいチームワークですねちくしょう!」
なんとか話合いで済ませようと思い、マメパト達の攻撃を避けつつ待ったをかけた。だがマメパト達はもう人間の言葉なんて耳に貸さないぞと言わんばかりに、その待ったを拒否した
彼らの素晴らしいコンビネーションには拍手喝采ものだったが、今はそれどころじゃない。まずは、あたしの話を聞け!と怒鳴りちらす。
一心不乱にマメパトたちの電光石火をかわしては森の奥へと逃げ続けるハル。運動部の体力なめんな!っと意気込んで走っていた。しかし、木の根などが地面から出ており非常に走りにくいこの足場のせいで、普段より早く体力がなくなり、今では片っ腹が痛くなってきた
それでも逃げ続けていたら木の根に足を躓かせ見事なまでにすっ転んでしまった
「わっぶあ!」
『ハル!大丈夫か?』
なんとも女子らしくない声を上げてズシャーーッと派手に転ぶハル。そんなハルに対して宝石がガタガタッと激しく揺れて、恋が焦った声で心配の声をかけてくれた
あいててて…と零しながらぶつけて赤くなった鼻を手でおさえつつ体を起こした
「う、うん。なんとか…って、あっ…」
不意に後ろから気配を感じて、バッと振り向くと二匹のマメパトがニヤリと笑った気がした。それを見て、やばっと思った時には遅かった。二匹のマメパトはハルに向かって襲いかかって来たのだ
あ、もうだめだ。と悟ったハルはくるであろう痛みに覚悟を決めて目を固く瞑った。
『ハル…!くそっ…!』恋の慌てた声を聞きながら、さぁ来い!と構えた。
「ポー、ひのこ!」
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