はぁはぁ…!

無我夢中で走る。全身が、イタイ
でも、止まらない、止まれない、止まりたくない
脳裏に浮かぶのは、たくさんの人


「おい、どこに行った!」
「あいつを捕まえて売ろうぜ」
「高い値がつくだろーなー!」


やめて。お願い。来ないで。怖い
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い…!!



『お前は仲間じゃない!』
『でていけ!ここからでていけ!』
『消えろ!』


たくさんの仲間

どうして?どうして…どうしてどうしてどうして!!!

みんな…おれを、



そんな目で見るの…





****


プーンといい匂いが鼻をかすめてハルの意識は徐々に浮上してくる。ボケーと曇りかかった思考で体を起こして、目を軽くこすり、大きな欠伸をした

頭が覚醒したころには、ハッとなって自分の身の回りを見渡した
そこは自分の見慣れた部屋ではないと悟り、昨日のことは夢じゃないのかと思い知った
ふぅ…と息を軽く吐き、ベッドから降りる。事前に用意しておいた服に着替える

ちなみにハルの服装は半袖のワイシャツに茶色のベスト、そして黒の無地のスカート。つまり、制服姿である。
なんだかトリップ感ないよな〜と全身鏡に映った自分を見ては、そう思いつつ着替える。他に着替えないのかと昨日の夜に創に聞いたところ、まだ調達してないとのこと。暫くは制服の姿でいろっと言われた

まぁ、別にいいんだけどね。慣れ親しんだ服の方が安心感あるもんね!
ぶちぶち思いながらも着替え終えて、宝石を手に取り、首につけた。


『ふぁ〜……はよ、ハル』

「おはよー。あれだったら、まだ寝てていいよー?」

『…ん、いや、大丈夫…だ』


ふあああ、なんて豪快な欠伸が聞こえるから、恋はまだ眠いらしい。どうやら朝は苦手の様子だ
たぶん気が付いたころには寝てそうだなーなんて思いつつ、自室を出てリビングに向かう。リビングに着けば、すでに創が椅子に座っており、優雅に珈琲を飲みながら新聞を読んでいた
この世界にも新聞なんてあったんだ…


「…ん?あぁ、ハルおはよう」


ハルの存在に気づいたのか、新聞に向けていた視線をこちらに向けて微笑む。ハルも、おはよーと朝の挨拶をした。創は新聞を綺麗に畳んでテーブルの上に置き、朝食の準備をし始めた

洗面所に行き、顔を洗ってから宝石をテーブルに置き、椅子に座る。するとタイミング良く、ココアの入ったマグカップと目玉焼きが乗ったトーストが目の前に出された。ハルはペロリと舌を出し、手を合わせる


「いただきまーす!」


元気よく言ってから、ハルはトーストを食べ始めた。いい焼き加減でとても美味しい!
もぐもぐと食べつつ、テレビを見る。テレビの内容はニュースで、ポケモンに関するニュースがピクトアップされていた。一旦CMに入ると、ツタージャ、ポカブ、ミジュマルが元気よく踊っているCMが流れる。それを見てハルは、あっと何か思い出した


「そうだ!今日ちょっと出掛けてくる!」

「え、どこに行くんだ?」

「メイちゃんがポケモン貰うらしくて、それに同行するの!」

「ふーん。何時に待ち合わせしたんだ?」

「えーと…」


チラリと時計を見て、ハルは固まった。時計の時刻はただいま10時55分。待ち合わせ時間は11時。やばい、遅刻だ。顔の血の気がサーと引いていくのが分かる。
その様子を見ていた創は事情を察したのか、あー…と言葉を濁した後に、早く準備をしろ!と声をかける
ハルは勿体無いけれどトーストを急いで食べて、宝石を乱暴に掴み、玄関へ向かう

「気をつけてなー!夕飯までには帰ってこいよー!」

「りょうかーいっ!」

ドタバタと家を出れば、寝ていた恋は乱暴に掴まれたせいか、何事だ?!と飛び起きた。そして、この状況を見て、何もないと理解し、胸をなでおろす。



****



「はぁ…はぁ…こ、ここか…?」


キョロキョロと辺りを見渡すと、待ち合わせである見晴台がそこにあった。そしてメイとヒュウが見晴台のところにいた。なんとか間に合った…と思い、安心する。乱れた呼吸を深呼吸して落ち着かせる。
幾分か落ち着いた頃にハルは顔を輝かせて見晴台の方に進もうとすると、草むらがガサリと動いた

ビクッと肩を震わせてそちらを見るや否や、ハルは目を大きく開けて固まった。その視線の先には



「…コリ、ンク?」


傷だらけの色違いのコリンクが横たわっていた
その姿があまりにも痛々しくて顔を歪めては、体が石のように硬直していた。思考もぐちゃぐちゃで何も考えられなかった



『ハル!』


恋に名前を呼ばれたハルは、ハッと意識を取り戻した。そして、コリンクの元へ駆け寄り、震える手で優しく抱きかかえた。
しかし、コリンクは目を開けることはなく、浅い呼吸をして力なく横たわっているだけだった。

危ない…!そう察知したハルはコリンクを抱えたまま急いでポケセンを探す。そして、目の先に赤い屋根が目にとまる
メイとヒュウに背を向け走り出す。約束破ってごめんと心の中で謝り、ポケセンに向かう

ウィーンと自動ドアを抜けて、急いでカウンターにいるジョーイさんに駆け寄る


「すみません!」

最初はにこやかに笑って振り向いたが、ハルの急ぎ用とその腕に抱えられているコリンクを見るなり、顔を険しくさせた。そしてタブンネを呼び、タンカーにコリンクを乗せてすぐに治療室へ運んで行った

ハルは治療室の近くにある椅子に腰をかけてコリンクの無事を祈っていた


「ねぇ、恋…」

『…なんだ?』


「大、丈夫だよね?」

声が震えている。情けないと自分でも思う。けれど、あんな大怪我を負ったポケモンを見るのは当たり前だけど初めてで、怖くなってしまった。



『…大丈夫だ。大丈夫。』


「う、ん…」


ハルの心情を察した恋は、安心させるかのように、大丈夫と言い聞かせてくれた。ハルもきっと大丈夫と信じて、己の拳を作った左手を右手で包むかのように握る

そうこうしている内に、治療中のランプが消えて治療室からジョーイさんが出てきた。ハルは勢いよく立ち上がり、ジョーイさんのところへ向かう


「あの、ジョーイさん!コリンクの容体は…?」

「えぇ、命に別状はないわ。2日ほど安静にしてれば大丈夫よ」

「よ、良かったああああ……」

「ふふ、あのコリンクは幸せ者ね。野生であるのにこんなに心配してくれる人がいるなんて。…でも」

「?でも…なんですか?」


頭にクエスチョンマークを飛ばしてジョーイさんに聞けば、ジョーイさんは少し考えてから悲しそうな顔をして話した。


「精神的にどうなのかしら…」

「え」

「あの子みたいに色違いの子は、人間にも仲間からにも邪険に扱われてしまうの。しかもあのコリンクはまだ幼いから…心のダメージは相当大きいと思うわ。もちろん私たちも心と体のケアをしていくつもりだけど…」


心の傷は治せないかもしないわ。
そう言われたがハルにはすぐに理解出来なかった。何を言われたのかも分からない。ただ、ただ、呆然とジョーイさんの話を聞いていた


「そ、うですか…えっと、ありがとうございます」

「いいえ」


ニッコリとエンジェルスマイルを繰り出して、タブンネとともに治療室をあとにした。
ハルはジョーイさんに教えてもらい、コリンクのいる病室へ足を運んだ

病室に入れば、ベッドの上に傷のところを綺麗に包帯で巻かれて寝ているコリンクがいた。表情を見る限り先ほどよりか全然良くなっていて、ホッと息をついた。


「あとでメイちゃん達に謝りに行かなきゃ…」

『そうだな。あと、一応家に連絡を入れた方がいいと思うぞ』


「うん、分かった」


宝石からコリンクに視線を移す。最初に見た時よりも綺麗になっていた。しかし、身体中に巻かれている包帯が何よりも痛々しくて、ハルは顔を歪ませた

この怪我は人間と同族たちにやられたのだろうか。幼いのにこんなにボロボロになるまで…?そう思うとハルはやるせない気持ちになり、膝の上に置いてあった手を強く握りしめた


『…うっ』

「!!」


考え事をしていたら、コリンクが小さな声をあげて、目をうっすらと開けた。
それに気がついたハルは身を乗り出してコリンクの顔を見る。コリンクはゆっくりと病室内を見てから、ハルがいることを知る。


「大丈夫?どこか痛いところない?」

『っ!!!』


コリンクに傷など痛まないか問いかける。しかし、コリンクはハルを見るや否や、目を大きく開けてビクッと体を震わした

ハルが「えっ」と思った瞬間、バチバチと言う音とともに目の前が赤く染まり身体中に鋭い痛みが走った




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