夢を、見たの

男の人がね、こっちを見て優しく微笑み、あたしにこう言ったんだ




「         」





****




「ぶえっくしょーーん!」


ふわふわと暗闇から意識が浮上し目が覚めそうになった途端、ハルは鼻にむず痒さを覚えて盛大にくしゃみをかました。そのくしゃみのおかげで、ハルは勢いよく飛び起きた
人差指で鼻を軽く摩り、むず痒さの原因を探ると鼻には草がついていた。
ああ、道理でむず痒いわけだと一人納得する。その草を人差指と親指で軽く摘み、その草をぼうと眺めた


「えっと…何が起きたんだ?」

そう思い状況確認のためハルは俯いていた顔を上げて辺りをキョロキョロと見渡した。周りには風に揺れてサワサワと草や木の葉が揺れる心地よい音と、共に目の前一杯に広がる豊かな自然、耳を澄ませば海の音も聞こえてくる
ハルはその自然の音があまりにも綺麗で目を瞑り、つい聴き入っていた。そして、だんだんと眠くなり再び草むらの上にゴロンと寝っ転がった
転がれば草独特の匂いが鼻に入り、さらに眠気が襲ってくる


「あー…自然さいっこう…」

海の音、風によって揺れる草の音、鳥のたぶん鳩だと思われる鳴き声、広がる青空、暖かい日差し…
なるほどね。これが文字通りのお昼寝日和ってやつか。素晴らしいね!
あ、そんなこと考えてたら本格に眠くなって来たから寝ようかな…うん、おやすみなさーい…



「じゃっなぁああああい!」

そう叫びながら寝ていた体を再び飛び起こした
しかしさっきと違うのはハルの顔はあの自然最高愛してると綻んだモノでは無く、脱水症状になるんじゃないのかと言わんばかりにダラダラと滝のように汗が流れていることである。

ちょ、ちょっと待ってマジで待って。どうなってんの?え、だってあたしさっきまで家にいたじゃん。パパと一緒にいたじゃん!?
なのに…なのになんで…こんな自然豊かなところにいんのぉおおお?!


いや待て。落ちつけ、まだ慌てる時じゃない

自分にそう言い聞かせて、一先ず深呼吸する。緊張した時、混乱した時、驚いた時は深呼吸に限る。
これをすることで幾らか気持ちが落ち着くんだ。深く息を吸っては深く吐き出す。それを数回繰り返すと幾分か気持ちが落ち着いた。ハルは、よしっと気合いを入れて、この状況の整理をし始めた

「えーっと…確か、チャイムが鳴って…パパに呼び止められて…えー…と、玄関に行って、扉を開けたら…ここにいたっと…」

なるほどなるほど…そう言うことか。謎は全て解けたね!


「解けてねえええ!何一つ解決してねぇよ!どこだよここ!もー!なんなのさー!」

先ほど深呼吸して気持ちを落ち着かせたのにまたもや乱れてしまった。また自分を落ち着かせようと深呼吸をするが、この状況のことを考えると頭がこんがらって何をどうしたらいいのか、もうさっぱり分からなくなってきていた
ハルの頭はもう、ショート寸前だった

そんな時にふっと創の言葉が脳裏を過った


"何かあった時はこれに話しかけてみろ。そしたら、きっと…助けてくれるはずだから"


「ほ、うせき…」


ハルは慌てて首元にぶら下がっている綺麗な蜂蜜色の宝石を両手で持ち、宝石を覗き込む。表面にはハルの顔が歪ながらも映し出されていた
そしてパパに言われたとおり宝石に話しかけてみた


「ほ、宝石さん。えっと、どうなってるんですか?ここはどこなんですか…あたしはどうなるんですか…なんでもいいです答えてください…っ!」


疑問に思っていること全てを宝石にぶちまけた。本当に助けてくれるのかは半信半疑なところ。
けど、これまでパパは嘘をついたりはしなかった。だから、今回も大丈夫。きっと、きっと助けてくれるよ
そう思い、目を瞑りギュッと宝石を握しめる力を強くした。

しかし、幾度待ても宝石からの反応は無し。助けも、疑問に思っていることを答えてくれることもなく時間がすぎていった。



「あ……」

あんの腐れじじぃぃいいい!
嘘こきやがったなあああ!さっきパパは嘘ついたこと無いっていったけど、あれ嘘。沢山あったわ!
寧ろ嘘ついて生きてるってレベルだよ!

てか、冷静に考えたら宝石が助けてくれるわけないじゃん。答えてくれるわけないじゃん!だって、これただの宝石だよ?え、なに?あたし思いっきり話しかけちゃったんだけど…はずくね?めっちゃ恥ずいじゃん!

自分の失態に一人恥ずかしがっていると、はたとある可能性が浮き上がる。もしかしてこれはドッキリなんじゃないだろうか。創が大掛かりなドッキリを仕込んだんじゃないだろうか、そしてすぐにドッキリ大成功と書かれたプラカードを持って出てくるじゃないんだろうか……と
微かな期待を持ち、両手で持っていた宝石を胸に当てて辺りをキョロキョロと再度見渡した

「パパ…いるんでしょ?もう出て来てよ…十分驚いたし騙されたからさ…。ねぇ早く、帰ろうよ…ねぇ、パパってば…」


最後の方は声が震えて泣きそうになっていた。否、ハルは既に泣いていた。頬にツゥ…と温かな何が流れる感覚が証拠だ。無意識の内に震える手で宝石をギュッと堅く握りしめた

怖い、とにかく怖い。
いくら自然豊かで素敵な場所であたったとしても、たった一人で周りに誰もいないこの状況は本当に怖くて仕方ない。ハルは宝石を握りしめたまま、しゃがみ込み静かに涙を流しながら


「怖いよ……」

小さくそう呟いた。




『ーーーー……ハル?』



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