「あ〜〜…腫れてる」


鏡に映った自分の顔を見て、うげっと顔を歪ませ、目のあたりを優しく触れる。先ほどアーティさんのアトリエで訳もわからず泣いてしまったことにより、目が腫れてしまった。
これから希色が帰ってくるのに…。はぁ、と溜め息を零す。すると、後ろで夢が手招きしているのが鏡ごしで見えた。


「どうしたの?」


夢の元へ寄ると、彼はハルの顔を両手で掴み、ぐいっと自身の顔と近づけさせる。目の前にウサギのお面が広がり、目をぱちくりとさせる


「うーん、腫れてるねえ」


スッとハルの顔から手を離した。ハルがそうなんだよね…とまた瞼を触ろうとすると、夢があまり触らないの、と言うので手を下に降ろした


「ちょっと待ってね」


それだけ言うと夢はその場を離れる。頭にクエスチョンマークを浮かべていると、キッチンの方からチンッと電子レンジの音が聞こえた。何をやっているのだろうと、さらにクエスチョンマークを飛ばす。電子レンジの音が鳴ってからすぐに夢は姿を現した


「ちょっと熱いと思うけど、これを目に当ててね」


ズイッと出されたのはタオルだった。目をぱちくりとしていると夢が、温かいタオルと冷たいタオルを交互に乗っけると腫れが引くよと言われた。ハルはへぇ〜〜と言って、夢から差し出されたタオルを手にとる


「あっっづっ!」

「もお。だから言ったのに。ほら、椅子に座って」


ガタリと出された椅子にハルはそっと腰をかける。少し顔を上に向ければ、目を覆うように温かいタオルがのった。少し熱かったが、わがままは言ってられない。我慢していれば次第に熱さは無くなり、丁度良い温かさになっていた


「うーん、これは…美容院で頭を洗ってもらう時の感覚ぅ〜〜」

「ふふ、寝ちゃダメだよ」

「はぁーい。…あれ、恋と花火は?」

「買い物ついでに希色くんのお迎え頼んでおいたよ」

「気を使わせちゃってごめんね…」

「おや?ここは謝るんじゃないでしょう?」

「え、あ……ありがとう!」

「どういたしまして」


そう言えば二人して、ふふと笑う。もうそろそろかな、と言って温かいタオルをどけて、次に保冷剤を巻いたタオルがあてられた。じんわり、と染み渡るように冷たさが瞼にひろがる。先ほどの温かさと今の冷たさが混じり合って、丁度良い温度になり、ハルは本格的に睡魔に襲われ始める


「希色くんが来るんだから、寝ないのハルさん」

「うん、大丈夫!眠くない…はず!」


これから希色が来るんだ
ハルたちがアトリエに行ってた間に、希色は診断を受けていた。結果はバトルをしなければ支障は無く、退院しても良いとのことだった。ハルは良かった、と思うと同時に少し緊張した。

進化をしたことによって、希色は変わった気がするのだ。ポケモンにとって進化は成長のようなものだから、変わるのも仕方がないと思う。コリンク時の希色とは少し異なるため、どう接したら良いのかハル自身分からない
しかし、どう変わっても希色は希色だ。いつも通りに、接しよう。それがきっといい。


「時間だね。さあて、どうかな?腫れは引いたかな?」


「どう?どうどう?引いた?」

「あらら、これは…」

「え、だめ?まだ全然?」


夢が難しそうな声を出すため、まだ腫れがひいてないのかと思うハル。むむ、あたしの腫れ、強いなあ。そう思い、手鏡を手に取り、鏡に自分を映して見る


「……引いてるじゃん!騙したなあ!?」

「騙してないよ。僕は一言もひいてない、とは言ってないしね。ハルさんの早とちりだよ」

「……あっ」


やられた、と思いハルは顔を歪める。夢はふふと微笑むが、ハルにとっては微笑ましいことではない。勝手に勘違いし、勝手に騙されたと言ってしまったことが恥ずかしくなり、両手で顔を覆う
すると慰めなのか、夢はハルの頭を優しく撫でた。彼の優しさにプライスレス。しかし、そんな優しさも今は逆効果ではあった。

そんな優しくされると泣きたくなるわ…。でも夢だけで良かった。もしあの二人…特に恋がいたら大ウケだっただろう…
安易に爆笑している恋を思い浮かび、されてもいないが何故かイラッとしたし、ここに居なかったことに安心をした


「さあて、希色くんを迎え入れる準備しようかね」

「はーい!お母さん」

「お母さん…ふふ、僕はハルさんのお母さんか。こんなに手を焼く娘を持つとはね」

「え、酷くない?」


顔を見合わせて、また二人で笑いあう。そして、退院祝いをするために、今までより豪華めに料理を作り始める。ハルは料理はあまり出来ないが、皿出しや調味料を出したりするなどをした。
夢と並んで料理の手伝いをしてると、ふと思う。彼は男性だが、こんな感じなんだろうか。母親の料理の手伝いをするのは。

両親の顔も声も名前も知らない。けれど家族の温かみは知った。父親の威厳も母親の優しさも知ったと思う。

ああ、幸せだな。と感じた。



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