白い部屋の中に窓から日差しが差し込む。白い壁に当たった日差しはキラリと光る。ハルはその光にすこし目を細めてから、病室内へ入る。
ここはポケモンセンター。バトルで負った軽い傷は専用の機械ですぐに治せるが、何日か安静が必要だったりする怪我はこうして入院する。患者は人間とポケモン。一つの病室に人間とポケモンが入院してるわけではない。そこはきっちり、分かれている。

内装は元の世界と一緒なだけに、勘違いを起こしてしまいそうになる。まるで元の世界に戻ってきたみたいだな、と


「タブンネー」


隣から声が聞こえ、ハッと意識を戻す。顔を隣へ向けるとタブンネがそこにいた。頭にナース帽をかぶってるところからポケセンのポケモンなのだろう。
タブンネがどうしたの?と言わんばかりにこちらを見て首をかしげる。ハルはなんでもないよと笑って、入り口で立ち止まってた足を動かし病室の奥へ行く。窓際のところまで行き、後ろを振り返るとタブンネは笑顔で鳴いてから己の仕事へ戻った。ハルは手を振ってからカーテン越しに声をかける


「入るね」


静かにカーテンを開く。ベッドの上には痛々しくも腕や顔、体に包帯が巻かれているルクシオ…希色が体を丸くして寝ていた。ハルは椅子に座り、そっと優しく黒いたてがみを撫でる。すこし硬くて、でもサラリと指を抜けていく。安心してぐっすりと眠っている希色を見て、ハルは静かに微笑む

寝顔は変わらないんだな…

撫でる手を止めずにいると希色が小さく声を零して身をひねるので、ハルは咄嗟に手を引く。すると、動きを止めて、また気持ちよく眠り始めた


イワパレス騒動から2日目。イワパレスたちの動きが止まったことにより、すぐに救急車を呼んだ。アーティさんは腕の骨折、全身打ち身によりすぐ搬送された。タンカーで運ばれて行く際に、ありがとう。と礼を述べられた。ハルはすぐ首を横に振った。


「私は、何もしてないです…本当……」

「そうかな…君は、よく頑張ってくれたと思うよ?」


納得しない顔で視線を泳がせてから、恐る恐る彼をみる。アーティさんはニッコリ笑ったままだった。ハルなんだかいたたまれなくなり、視線を下にずらした。
ちなみに救急車で運ばれる際に、ハハコモリにベシッと腕を叩かれて、すごく痛がっていた。

イワパレスは再度暴れないよう固定し、ジュンサーさんとともに運ばれて行く。ハルは傷だらけの希色を抱き上げ、急いでジョーイさんに診せる


「なんでこんな危ない戦い方したの」


いつもはニッコリと天使のように微笑む顔が、今は閻魔様も尻尾巻いて逃げてしまいそうなほど、怖かった。しかし、その顔は真剣なもので、ポケモンを思ってのことなんだろう
ハルは起こったことを手短く話す。話し終えるとジョーイさんは、ふぅと息を短く吐く。そんな動作にビクリと肩を跳ねらす


「いい?ポケモンはトレーナーのためなら、なんだってするの。行き過ぎた行動もしちゃう。それを止めてあげるのがあなた…トレーナーの役目でもあるの。意志を尊重するのはいいことだけど、それでいいのかちゃんと考えて行動しなさい」

「……は、い。すみません」

「分かってくれたならいいわ。さぁ、救急車に乗って」


しゅんとして謝れば、ジョーイさんはいつも通りの笑顔に戻り、救急車へ乗るよう言ってくれた。ハルはジョーイさんにお辞儀してから、救急車の方へと向かう
救急車の中で待ってた医師によれば、命に別状なく、数日間安静にしていれば大丈夫とのことだった。
ハルはそれを聞いて安堵の息を吐いた。胸に手を当てれば心臓が激しく動いていた。それを見た医師が緩く笑う

「ポケモンたちは人間より丈夫な生き物だ。多少の傷なら数日で治る」


知らなかった。
ポケモンの種類などのことなら知ってるのにポケモンのことについては何も知らなかった。きっとここの世界の住人ならその事は常識なのかもしれない。自分の無知さに改めて嫌気がさした。
やっぱり、もっとポケモンについて勉強するべきなんだろう


「でも、だからこそ…すぐ治るから、丈夫だからって、ポケモンたちが満身創痍になるまで戦わせるトレーナーもいるんだ」


あ、それで希色を見たジョーイさんがあんな険しい顔したのか…。
やはりこの世界にも心を持たない人間もいるのかと悲しい気持ちになったあとに、ハルはこの医師は自分がその人間たちと同じ分類だと思っているのではと思い、焦り、理由を述べようとする

「え、あ、あたし、ちが…」


本当に違うのだろうか。あの戦い方は違うと言えるものだったのだろうか。満身創痍でも戦わせた自分は心の無い者と一緒なんではないだろうか。そう思うとハルは言葉が出なくなってしまった
あのバトルは引っ込めるべきだったのかもしれない、もっと違う戦い方ができたかもしれない。ハルは医師から視線を外し、希色を見る。浅く呼吸して眠る彼は痛々しくて、くしゃりと顔を歪ませる


「でも、このルクシオは違うんだね」

「え」

「この子の顔はとても誇らしげだ。」


ニコリと笑う医師にハルは目を瞬く。もう一度、希色を見る。身体は傷だらけだけど医師が言った通り、彼の顔はどこか満足そうで誇らしげだった


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