前から人が来てそれを避けるがその先にも人がおり、また避けて一息つくがまた前から人が来て……そのような行動を何回も繰り返す。周りを見れば高い建物。草木などの緑は一切見えないここはまさにコンクリートジャングル。それに踏まえ、ここにいる人々は忙しく歩くため、どんなに気をつけても肩と肩がぶつかってしまうこともしばしば。

「あ、すみません」

わざとでは無いが、ぶつかったらまず謝るのは礼儀だと思い、ぶつかった相手に謝っていく。多くの人は此方こそと謝ってくれるが、中には睨んでくる者もいる。
ああ、これが都会か。

ハルは都会の冷たさとちょっとした懐かしさを実感しながら目的地へと足を運ぶ。こんなに人が多い中、みんなを外に出して歩くのは危険だと判断したハルはみんなをモンスターボールの中に入れる。恋は宝石の中はあまり入りたくないようなのでハルの隣を歩いている
あのふわふわコートが邪魔なのか暑いのか知らないが羽織っていなかった。出来るだけ小さく畳み、手に持っていた

「う、人酔いしそう…」

「大丈夫か?」

口を手で隠せば、隣で歩いていた恋がこちらを見て心配してくれた。ハルは大丈夫だと意味を込めて恋にピースサインを出す。その意味を読み取った恋は気持ち悪くなったら言えよと苦笑して頭を撫でた。

身長的にハルの頭に手を乗せるのは丁度いいな…なんて恋が考えてることなどハルは知らず、ただただ彼の優しさに感動していた


「つ、着いた……」

地図を見つつ人混みを歩いて20分ほど、ハルは漸く目的地であるヒウンジムに着いた。異常とも言えるほどの人混みにハルはジムに挑戦する前に疲れ果てていた。チラリと後ろを見ると目の前に広がるのは人。よくこの中を歩けたな…と自分でも思うほどだった。
隣で歩いてた恋の表情も疲労の色が見える。そんな恋によく頑張ったと肩に手を置くが、やはり身長差的に厳しいところがあり、澄ました顔で手を肩に乗っけているハルを見て、恋は思わず吹き出してしまった

それにムッときたハルは恋の肩をバシンと叩くが、微動だにせず笑い続けていた。行き交う人々がチラチラとこちらを見てきて、なんだか無性に恥ずかしくなり、まだ笑い続けている恋の腕を引っ張りジムの中へと入っていく

「う、わぁ……」

ウィーンと開く自動ドアを抜けると二つの像と神秘的な世界が広がっていた
キラキラと輝く白い世界。一見シンプルすぎて地味に見えるが、天井高くから垂れている幾多の白い糸やポツンとある繭が存在感を示していることにより美しさが放たれている。
シンプルだけど、何故か心が惹かれてしまう。それがヒウンジムの感想だった。

ハルは呆然とジムの内装を眺めていた。神秘的な雰囲気に心を惹かれたのもあるが、なにより自分の知っているヒウンジムとかけ離れていたのだ。ハルの知っているヒウンジムは蜜の壁を抜けて行くやつだった。ベトベトになること必須のジム。
あれは相当の覚悟がいるよな…と思い、前日から蜜だらけになる覚悟をしてきたというのに…綺麗さっぱり無くなっている…。
きっとたくさんの苦情を貰ったから改装したのかな…

ほんの少しだけアーティさんに同情したのと蜜だらけにならないことにホッとした

「これ…どう行けばいいんだろ?」

「階段は…無いな」

上を見上げればジムトレーナーや足場があるのが分かる。しかし、その上を行くにはどう行けばいいのか分からず、辺りをウロウロと彷徨っていた。恋はどこかに階段があるかもしれないと壁を叩いたりしていた。だが階段らしきものは見当たらなかった。
てか、壁を叩いて階段が現れるとか…どこの忍者屋敷だよ…カッコいいじゃん

こう言う時に限って、入り口入ってすぐのところに立っているおじさんはいないし…。周りには誰もいないし…完璧に詰んだわ

『あんの繭とかなんかあらへんの?』

「繭〜?」

確かにこの場にあるのはぽつんと置かれた3つの大きい繭。見た所その繭にはあたしが通れそうなくらいの穴が空いている。繭へ近づいて行けば、繭から糸の束が上へと伸びていた。穴に入ったところで移動出来そうにも無かった
束はハルが座れるくらい太く大きい。ふむ、とその糸の束を見つめてから、分かったと言う風に手を叩いた

「この束をよじ登って行くんじゃないかな?」

「…いや、確かに太いから安定はしてるとは思うが…この急斜面を命綱無しで登るのは…」

『足を踏み外せば死ぬね』

「ヒエッ」

足を踏み外して落下していく自分を想像したハルは怖さのあまり身震いをした。すぐに登ろうとしなくてよかった…と心の底から安心する。
さて、糸の束を使って上までよじ登れないことが分かったハルたちはまた頭を悩ます

一体どうやって上に行けばいいんだ。なんなんだこのジムは。アーティさん鬼畜か。
ブツブツと文句を言って繭に寄りかかろうとしたら、後ろは穴のところだった。やばい転ぶと思い、バランスをとろうとする。少し繭の穴の中に入った瞬間

「……えっ」

すごい勢いで引っ張られ、恋に手を伸ばす暇など無く、そのまま繭へ吸い込まれて行った


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