チュンチュンと外からマメパトの声が聞こえる。ハルはカーテンの隙間から入ってきた日差しが目にあたり、眩しさから目が少し覚めてきた。むくりと上半身を起こし、眠い目をこする。大きなあくびを一つして、ボーと壁を見つめる
少しずつ頭が覚醒し、今何時だろうとモンスターボール型の目ざまし時計を手に取る


「……え?」


時計を見たハルは一旦目ざまし時計を元の場所に戻し、もう一度目をこする。頬を軽く叩き、再度目ざまし時計を見る。
ハルたちが起きなければいけないのは、午前9時。11時から船が出航するため早めに起きることになっていた。その船を逃すとあとは夕方か次の日になってしまう。ヒウンシティで行きたいところがあったため、午前に出る船に乗ることになったのだが。
目ざまし時計に表示されているのは、10時45分。

船が出航するまであと15分。行くまでに10分程度。
完全に寝坊した


「ぎゃあああああああああ!」

「?!な、なんだ?!」


「うぇっ?!」


「なんやなんや?!変態が出たんか?!」

「それは花火でしょ」

「朝からひどい!」



ハルの叫び声に寝てたみんなが一斉に飛び起きる。恋は何事かと辺りを忙しく見渡し、希色は体を起こしているが夢と現実世界の狭間を行ったり来たりしており、花火は通常運転である


「違う違う!そうじゃない!!こ、これええ!」


みんなにズイッと目ざまし時計を見せる。みんなは頭にクエスチョンマークを浮かべ目ざまし時計を見ていたが、次第に事の重大さに気づいた恋がマジかよと言いたげな顔になり、花火はありゃ〜と呑気な声を出していた


「ありゃ〜じゃないよ!完全に寝坊だよ!誰だよセットしたやつ!」

「ハルちゃんやで」

「ガッデム!」

「そんなことより、早く準備しろ!急げば間に合うかもしれないだろ!」

「アイアイサー!」

「センセー!希色くんが立ったまま寝てるで!」

「すごい…流石希色ね…!あたし嬉しいわ!」

「急げって言ってるのが聞こえないのか?!あと12分!」


「「ああああああああああ!!」」


ドッタンバッタンと大急ぎで支度をする。ハルは寝癖でボンバーになっている髪の毛を痛がりつつ梳かし、花火は大急ぎで荷物を詰め、恋は未だに寝ぼけている希色を着替えさせていた。

泣き喚きたい気分だったが、泣いていたって時間が止まる訳ではない。嘆きながらも手を動かし、せっせかと支度をして、PCから急いで出て(あ、もちろんジョーイさんにはちゃんと挨拶したよ)、船乗り場まで全力疾走した
希色は全く起きる気配が無かったので恋が抱っこしながら走ってることになった
この時はパニック状態で気がつかなかったけど、モンスターボールに入れれば良かったんじゃね?

全力疾走したおかげで痛む横腹を抑えつつ、隣で息も乱れず涼しい顔で走ってる恋に時間を尋ねた
いや、その前にお前ら…なんでそんなに余裕なの?!恋も花火も全然余裕じゃん!?息乱れてんのあたしだけ?!まじで?!なんか恥ずかしいんだけど!


「あ、あと、何、分?!」

「聞いて驚くな。あと7分」


「ぎゃああああああ!も、間に、合わな、いじゃん!!」


…また予定を立て直すか。
しかし、今日中にどうしてもヒウンシティに行きたかった。ジム戦もそうだが、何よりヒウンシティ名物…ヒウンアイスが食べたいのだ。
営業時間が朝の10時〜夜の7時まで、しかも営業日も毎日では無い。決まった曜日があり、その日にしかやっていないのだ。観光マップに書いてある営業曜日を見ると、今日まさに営業する日であったため、どうしても行きたかったのだ

内心しょぼんとしながらも、仕方ないと自分に言い聞かせて、みんなに夕方まで待とうかと言おうとしたら、ガシッと右手を恋に掴まれた


「…お、お?」


いきなり掴まれたので驚いて恋の顔を見れば、彼はコクリと頷いた。その頷いた意味すら分からなかったので首を傾げれば、グイッと腰を引かれて恋と密着する形になった。
あまりの恥ずかしさにハルは距離を置こうと抵抗していたが、ビクともしなかった。

気がついたら花火も希色もモンスターボールの中に既に入っていた


「え、あ、ちょ…れ、恋…」

「しっかりつかまれよ?」


「………え?」


間抜けた声を合図に恋は背中からはギラティナのあの黒い翼が生えた。翼は実体を持たないのか黒い靄が集まって、翼の形をしているように見えた。そして、ぽかんとする暇などハルに与えず、少し浮いたかと思うと、地面とこんにちわ出来るくらいギリッギリの距離で、ものすごいスピードで低空飛行して船乗り場まで飛んで行った



「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ハルの絶叫は風と共に飛んで行った


***


それからというものの、なんとスーパーミラクルな奇跡が起こり、ハルたちは朝一の船に乗ることができた
それもこれも、恋が素晴らしいくらいに低空飛行して、なおかつ、マッハで飛んでくれたおかげだろう。

いやー、本当に素晴らしい!目の前にコンクリの世界が広がってて、あたしの鼻がすり減るかと思ったよ!うん!



「…ハルちゃーん。大丈夫かいなー?」

「あ…あかん…です」


空も海も青いなー。潮風がとーても気持ちいい!とか言ってられないほど、ハルは今めっちゃグロッキー状態だった
言わずもがな、先ほどの恋の低空飛行のおかげである

タオルを顔に乗せて、潮風を浴びながらベンチに座るハル。希色が横に座って、ハルの肩を優しく摩ってくれている。なにこれ…マジ天使やん
花火もこの時ばかりは爆笑せず、苦笑しながらハルの頭をポンポンと叩いてくる。恋は反省しているのか、ショボンとしながら悪い…と小さく謝ってくる

いや、別に恋のせいじゃないでしょ。恋は良かれと思ってやってくれたことだし、何より朝一の船に乗ることも出来たんだから。むしろ、あたしは感謝したいくらいよ


その意味合いを込めて、乗せていたタオルを少しずらし、ニコッと笑いかけた
すると最初はキョトンとしていたが、ハルの浮かべた笑みの意味が分かったのか、恋も優しく微笑んでくれた


「よし、」


グロッキー状態がだいぶ良くなったのでタオルを取り、復活!と言って皆にガッツポーズをしてみせた


「よか、た!」


「顔色も良くなったな」


「せやけど、あんま無理せーへんようにな〜」


「ふふ、大丈夫大丈夫!!ここ十数年間、風邪をこじらしたことないんだよ…!!」

「それただハルちゃんが馬鹿なだけちゃうん?」



花火のその一言で恋が吹き出し、笑い始めた
やめろ。その一言は深くあたしの心に傷を負わせたぞ。馬鹿野郎。お前は本当に馬鹿野郎だ。ここはあえて言わないのがお約束だろーが!
ぐぬぬぬ、と花火を睨んでいるとぐううううう…と大きな腹の音が聞こえた。みんな一瞬、間を置いたが直ぐに一人に視線を集めた

前にも…こんなことあったよね…。

視線の先は、やはり前と同様希色だった。お腹が大きく鳴ったことに恥じらい、顔を赤く染めて下を俯き、もじもじしていた


「あ、あの、ね、お腹……へ、っちゃた……」



あぁ、そうだよね。朝ごはん食べてないもんね…!お腹空いちゃうよね…!!
希色の頭を軽く撫でてから、食事をとることにした


「確か、食べ放題だったはずだぞ」


「マジでか!?これは行くしかないね…!よし、行くよ希色!」

「う、ん!」



ダッと船の中を全速力で走って行く二人を、花火は元気ええなーとケタケタと笑い、食いもんは逃げないぞ…と苦笑して見つめていた


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