ブオッと吹き荒れる突風から我が身を護るように腕で顔を隠しながら、中心部へと視線をやる
互いに残り少ない体力を出し切った大技。希色のワイルドボルトが勝つのか、はたまたヨーテリーのギガインパクトが勝つのか…。ハルは静かに息を呑む

そして徐々に砂煙が晴れ、フィールドに立っていたのは



『、かった、おれ、勝った!』



希色だった
ハルは一瞬ポカンと呆然としていたが飛び跳ねて喜んでいる希色を見て、じわじわと嬉しさが込み上げ、フィールド場にいる希色のところまで駆け寄り、労いの言葉ともにギュッと抱きしめた
チェレンは目を回しているヨーテリーをボールに入れてから、こちらに向かってきた


「おめでとう。君たちのコンビネーションは素晴らしかったよ」

「あ、ありがとうございます!」


希色と頬をくっつけたままチェレンに礼を述べる。希色はふふんと少し自慢気に笑っていた。その様が横目でも分かり、あまりの可愛さに更にギュッと抱きしめる
チェレンはクスリと笑ってから、審判から箱を受け取る


「さぁ、これを」


ハルたちの前に箱を差し出し、蓋をゆっくりと開けて中身をこちらに見せてくれた。
中身を見た瞬間にハルは目を大きく開かせ、そして、輝かせた


「君たちに贈る、ジムリーダーを勝ち抜いた印。そう、ベーシックバッジだよ」

「わ、わわわ!」


これが本物のジムバッジ...!
ハルはバッジとチェレンを何度か交互に見てから、恐る恐るバッジに手を出す。紺色の布の上に置いてあるベーシックバッジを指で摘み、そのまま自分と希色の顔に近づけさせる。キラキラと光るバッジをキラキラと輝かせている目で眺める

口元がにやけるのがわかる。何度か抑えようとしたが、無理だった。ハルはニヤけたままベーシックバッジを天に掲げて高らかに声を張る


「ベーシックバッジ、ゲットだぜぇ!」

『げ、と!』




一度はやってみたかったサトシのモノマネ。ハルは感動に包まれながら再度バッジを見る。指から伝わるズッシリとした重さ。
本当に勝ったんだ。あたし、本当に勝ったんだ…!

ジム戦で勝った実感がバッジを見ることによってより現実を帯びて沸き上がる。恋が静かに笑ってるってことはきっと顔が大変なことになっているのだろう。でもそんなの気にしてられないほど嬉しい
希色も喜んでいるし、チェレンもニコニコとイケメンスマイルで拍手してくれてるし、あたし幸せ者だね!

感動に浸っていると後ろの方から、おーいと女性の元気な声が聞こえた。そちらを見るとベルがこちらに向かって手を振りながら走って来ていた


「ベル、どうしたんだい?」

「あ、うん。状況を聞きに?ほら、メイちゃんとかどうだったかなって!」

「あぁ、あの子か。うん、なかなか素晴らしいトレーナーだと思うよ」

「そっかそっか、それなら一安心だね…ってそちらは挑戦者さん?」


一通り話し終えたのか、ホッと息をついたベルがこちらに気づき、問いかけてきた。
ハルは何故か分からないけど背筋をピンと伸ばして自己紹介をした


「あっと、ハルです!こっちはコリンクの希色です!」

「え、コリンク!?しかも色違い?!すっごーい!初めてみたよ!」


コリンク+色違いなためベルは鼻息をフンとならし、興味津々に抱き上げている希色を見る
しかし希色は初めて会う人間+人間恐怖症なためビクッと体を震わせて顔をハルの肩に埋めた

しかしベルは相当興奮しているのか、ハルの周りをぐるぐると回り始める。鼻息を荒くして、すごいね!と言ってくるもんだから、ハルも少し引いた。
いや、めちゃくちゃ可愛いんだけどね!迫力が半端ないわけですよ!可愛いんだけどね!

そんなベルを止めたのが幼馴染であるチェレンである


「ベル、ストップ!ハルさんが引いてるし、希色くんが怖がっているだろ」

「え、わわ!ごめんね…興奮しちゃって、つい…」

「あ、いえ、大丈夫です!希色、大丈夫だよ」


しょんぼりと顔を俯かせて謝ってくるベルにハルは慌てて頭を横に振った。
少し怖がっている希色を安心させるため頭を撫でると安心したのか、ん、と言ってハルの肩に希色の頭をグリグリと摩り付けてきた


「希色くんもごめんね…?怖かった、よね…」


希色はチラリとベルを見てはすぐに顔をハルの肩に埋める。そして、小さくだが頷いた。それを見たベルは良かったぁと安心したように笑う。
一つ一つの行動が愛くるしい希色をもう思いっきり抱きしめたい衝動に駆られたがグッと堪えた


「あ、そうだ!ハルちゃん、ライブキャスターの番号交換しよ!ね!」

「え、いいんですか?!」

「うん!あ、自己紹介まだだったよね?私ベル!アララギ博士の助手をやってます!」

「じょ、じょしゅっ?!」


アララギ博士の助手をやっていたことにハルは驚く。ベルはバトルやミュージカルの道に進むわけではなく、ポケモンを研究する道に進んだんだ。チェレンはポケモンを教える側。なんとなく、ふたりぽいなあと思う。


「なら、僕とも交換しようよ」


創から貰ったライブキャスターを上手く操作できず、ベルに教えてもらいながらベルの番号を入力する。番号を追加したところで、今度はチェレンが番号交換を申し出てきた


「え、まじっすか!?」

「マジだけど、嫌だったかな?」

「滅相もございません!」


ハルは勢いよく頭を振り、チェレンのライブキャスターの番号を入力する。未だ抱っこしていた希色が興味津々にライブキャスターを見ている。画面に登録完了の文字が表示されたあとに、アドレス帳を見るとふたりの名前が入っていた。
うへへと締まりのない顔をしていると、チェレンとベルがそれを見て笑う。ハルは恥ずかしさはあったものの、2人につられるように笑った


その瞬間、脳内に何かが過った



「ーーーっ、」


何かは分からない。
でも確かに何かが脳内を過ったのだ
映像なのか声なのか分からないが、ハルの中に一つの違和感があった

チェレンとベルと一緒に笑うこの光景…



ドコカデ、ミタ、?




「…ハルさん?」

「ーーーえ、」


はっと意識を戻せば、心配そうにこちらを見つめてくる二人。抱き上げている希色も心配そうにハルの名前を呟いていた


「急に黙っちゃったけど、どうしたの?大丈夫?」

「…あ、ううん!なんでもありません!ちょっと眠くなっちゃっただけです!」

「そう?それならいいんだけど...」

「はい!えっと、今日はありがとうございました。楽しかったです!また、なにかあったら連絡しますね!それじゃあ失礼します!」


二人にお辞儀をしてその場を後にした。
チェレンとベルは何か言いたそうだったが、ハルが早足でその場を去ってしまったため声をかけることは叶わなかった
ちょっと失礼な態度だったかな、なんて思いつつも考えるのはさっきのこと

さっきの違和感はいわゆるデジャヴと言うものだろう
しかし、ハルは実際に二人と会うのは当選ながら今日が初めてだ。確かにゲームの中で何度も目にしてるが、一緒に笑い合う事なんて出来るはずないから、このデジャヴはおかしい

なら、なんで…?


「うー…」


あー…もう、わけ分からん!
何がどうなってることやら、さっぱり分からん!あたしは頭を使うことが大っ嫌いなのさ!あはは!


『ハル、どうした?』


『…具合、悪い?』



心配そうなったのかズンズンと早足で進んで行くハルに、声をかけてくれた
ハルは、足を止めて宝石と希色をギュッと抱きしめた

ちょっと怖かった
知らない記憶が自分の中にあることに少し戸惑い、怖くなった

無言でギュウギュウと抱きしめていると希色は小さな前足を一生懸命伸ばして背中をポンポンと優しく叩いてくれた


『…大丈夫だ。俺たちがそばにいる。お前はお前だ。だから安心しろ。』



どうして恋はこうも欲しい言葉を言ってくれるんだろう。
ハルは二人の優しさに嬉しくてなってさらにギュッと抱きしめた。さっきと違うのは戸惑いと怖さが吹き飛んで、表情が笑っていることかな


「ありがとう、二人とも!」


ニコッと笑えば希色たちも安心したのかホッと息をついてからニコッと笑い、抱き返してくれた


さて、次の街へ向かいますか!


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