「先手いただくよ。ヨーテリー、体当たり!」
「えっ、えっと、希色避けて!」
始まってしまったバトルにハルは先ほどまで考えてた技構成を一瞬で忘れてしまった。頭の中が真っ白になってしまったことに焦りを覚える。
一体、何を言ったらいいのだろうか。どうしたらいいのだろうか。何がベストな指示なんだろうか。頭の中がごちゃごちゃになり、わけがわからなくて避けるよう指示しかしなかった
「ヨーテリー、逃がすな!かみつく!」
「あっ!」
ハルが指示を出す間も無く、ヨーテリーは希色に噛み付き、そのまま顎の力で希色をぶん投げた。希色は地面に一度は叩きつけられたが、すぐに態勢を持ち直す
痛いのを我慢し、ヨーテリーを睨みつける
「き、希色、スパーク!」
バチバチッと電気を纏い、そのままヨーテリーに突進していく。ヨーテリーは避けようとするが、希色の方が少し早かったのか、スパークは命中した。ヨーテリーはキャンッと高い声を出して、後方へ飛ばされていく。しかし、相手も一度地面を跳ねてからすぐに態勢を整えた。
「よし、ヨーテリーほえる!」
可愛い見た目からは想像もつかないほど低く、耳に突き刺さる鳴き声がフィールド上に響き渡る。体がビリビリと少量の電流が流れたかのように痺れる。
今まで感じたことのない体感にハルは思わず、怖気ついてしまった。ハルだけではない。希色までも冷や汗を掻き、体を震わせた
その隙をチェレンは逃さなかった
「ヨーテリー今だ!ふるいたてるから体当たり!」
「しまっ…!」
ハッと気がついても、もう遅し。ハルと希色は何も出来ずにヨーテリーの体当たりが迫り来るのを見ていた。スローモーションのように感じたが実際はほんの数秒の出来事。ヨーテリーの頭が希色の体に当たった瞬間、希色はハルの後ろまで飛ばされる。
「希色っ!」
一瞬の遅れはバトルにとって決定打となってしまう。現にヨーテリーのほえるに怖気づいたがために、指示を出すことを忘れ、相手の体当たりが命中してしまった。
ヨーテリーはササッとチェレンの前へと戻る。警戒しながらも、どこか勝ったと思っている顔つきだった。ハルは相手のことを見ず、ただ飛ばされた希色を見る。砂煙が酷くて何も見えない。
たらりと冷や汗を掻けば、徐々に薄くなっていく砂煙の中から希色が飛び出してきた。ハルの前までやってきてはピョンピョンと跳ねる。彼から平気だよアピールを受けたハルはホッと息をはく
「良かった…。まだ、いける?」
『う、ん!へい、き』ダメージをくらいつつも、めげることなくヤル気のある目でハルを射抜く。そんな姿勢にハルは口角が上がり、小さく頷いた
「希色っ、じゅうでんしてからスパーク!」
「ヨーテリー、もう一度ふるいたてるから体当たりで迎えうて!」
バチバチッと電気を蓄えてから体に電気を纏い、ヨーテリーに突っ込んでいく。相手も再度己自身をふるいたてて攻撃力をあげてから希色に向かってくる。
ガァンッとすごい音をたてて互いの頭がぶつかり合う。一瞬、両方動きが止まったが、次には砂煙りとともにお互い後方へ飛ばされた
「希色っ大丈夫?!」
『へ、いきっ!』「ヨーテリー平気か?!」
『わんっ!』
己のポケモンの安否を確認する。希色もヨーテリーも全然平気だと鳴いてから睨みつけ合う。互いのおでこは先ほど強くぶつかり合ったせいか、赤くなっていた
「ハルさん、初バトルとしてはなかなかやるね」
「あ、ありがとうございます!……って、え。なんで初バトルって知って…」
「ここにくる子は大体新人トレーナーだしね。バトルの経験は浅い。そのうえ、指示の不慣れさから初バトルとみたんだけど…当たってたみたいだね」
「ひ、ひええ…」
そんなことまで分かってしまうのかよ……とチェレンの鋭い観察眼にハルは度胆を抜かれた。
『わんっ!』
ほのぼのと会話をしていたら、早くバトルを再開しろと言わんばかりにヨーテリーが吠える。ふるいたてるの効果なのか出てきた当初より気性が荒くなっている気がする
チェレンは優しく微笑んでからヨーテリーに、ごめんごめんと謝る。
「バトルを再開するけど、いいかな?」
「あ、はい!大丈夫です!」
首を傾げて聞いてくるチェレンにハルは大きく頷く
「よし、ヨーテリー、かみつく!」
「きっ希色、ジャンプして避けて!」
「ヨーテリー、追え!」
ヨーテリーが来た瞬間に希色は軽やかにジャンプする。予想以上のジャンプの高さにハルは少し驚いた。しかし、相手もやすやすと逃すわけも無く、ヨーテリーもジャンプをして希色に噛みつこうとする
さぁ、どうする。どんな技を出したらいい。コリンクが覚える技は……
「っ…そうだ…希色!アイアンテールで迎えうて!」
「なっ!」
小さくてかわいらしい尻尾を銀色に染め、見た目から鋼のように固くした尻尾をヨーテリーに当てる。アイアンテールが命中したヨーテリーは地面に叩きつけられる
綺麗に着地した希色越しに相手を見る。苦しそうな顔をしているが、ヨーテリーからはまだヤル気が見られる
だが、お互いに傷だらけで体力もほとんど無い。つまり、これは、次で決着がつくのだろう。チェレンもそのことを分かっている。だから、こちらの様子を伺っているのだろう。指示を出さずに目を合わせたまま暫し時間が経つ
ハルはゴクリと固唾を飲み込み、手にギュッと力を込めると同時にチェレンが微笑んだ
「ヨーテリー、この一撃に賭けよう!ギガインパクト!」
「っ?!き、希色、行くよ!わ、ワイルドボルトォッ!」
相手の大技に驚きつつもこちらも指示を出す。正直いけるか不安になったが、希色はちゃんと指示通りの技を繰り出してくれてホッとする
希色は赤い電気を纏い、ヨーテリーは白い光を纏って衝突し合う。その瞬間、さっきのとは比べ物にもならないくらいの爆発が起き、強い突風とともに砂煙が辺りを覆った
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