爽やかな笑みを浮かべて、子どもたちに挨拶しているチェレンを見て、ハルは開いた口が塞がらない。メガネを外しているが、あのアホ毛…あの顔…絶対にチェレンだ…。
え、てことはチェレン…先生になってたの…?ま、まじかよ…立派になりすぎだろ…

先生になっていたチェレンに衝撃を受けていると、一人の生徒が手を挙げた


「先生ー!先生にお客さん来てまーす!」

「お客さん?…あれ?君は…」


チェレンがハルの方を見て、頭にクエスチョンマークを浮かべる。ハルは、ハッと意識を戻して背筋を伸ばして挨拶する


「えっと、ハルです!じ、ジム戦お願いしたいんですけど…」

「ジム戦か、そうか。えーと……今、ジムトレーナーたちがいないから…すぐ僕と戦うことになるけど…それでも大丈夫かな?」

「へ、平気であります!!」

「分かった。じゃあ、ちょっと準備をするから待っててね。準備出来たら放送するよ」

「は、はい!」


にこやかに笑ってから、ハルたちに背を向けて歩きだした。教室を出る前にチェレンは何か思い出したかのように、もう一度黒板の前までに来て、何書き始めた
白いチョークで大きく自習と書いた

「午後は自習にするから、みんな勉強するように」

生徒たちは元気よく返事をした。それに満足したのか、チェレンはニコッと笑ってから教室を出る。チェレンが出た瞬間、教室は歓喜に包まれた。
分かる分かる。自習って言葉いいよね。先生に勉強しろって言われても、実際は遊ぶよね。君たちの喜びは痛いほど分かる。でも、前を見て欲しい…かなって

ハルは少し青ざめた表情で生徒たちをみる。生徒たちは未だ喜んでいるが、ドアには出て行ったはずのチェレンが寄りかかっていた。ものすごくいい笑顔で生徒たちを見ている
一人の生徒がチェレンに気がつき動きを止める。その一人に続くかのように、周りのみんなも前を見て動きを止めた。その様子がウェーブのようで思わず、おおっ…と感心の声を上げそうになった


「……勉強しなかった人には、宿題二倍出すからね…」


その一言で生徒たちはみんな机の上に教科書とノートを取り出し、勉強し始める。その様子をニコリと笑って見てから、再度出て行く。今度は騒ぐ生徒は出なかった。
うん。分かる分かる。宿題二倍は嫌だよね。そんな時に限って宿題の内容難しかったりするよね。ならこの時間勉強するよね。君たちの悲痛な気持ち…痛いほど分かる。

たくましく成長したチェレンにハルは口元をひくつかせた。


「てか、え?僕と戦うってことは…」

『あの人がジムリーダーってことだな』

「え、えええええっ!」


本当…この2年で何が起きたんだよ…



****


みんなが一生懸命勉強している姿を後ろから眺めていると、放送が入った。声の主はチェレン。どうやらジム戦の準備が出来たようだ。ハルは一気に緊張し始めた。手汗がやばい。心臓がすごくうるさい。足が震える。いま、この場から逃げたくなる衝動に駆られる。ハルはそんな自分に喝入れるため、頬を抓る。もう、やるしかない!
ハルは前方のドアに向かって歩き始める。すると、生徒たちが頑張れっと応援をしてくれた。その優しさにハルは涙が出そうになり、みんなにありがとうと笑顔で礼を述べる

教室を出ようとすると、男の子の声で「あいつ弱そうだよな!」と聞こえた。ハルはギャグ漫画のように、ガクッとコケる。その男の子への感謝は消え、代わりに呪いをかけといた。お前の顔は覚えたぞ……


『顔、顔がやばいことになってるぞぶふっ』


前方のドアを通り、廊下をまっすぐ歩いたところに大きな扉があった。そこを開けるとビュオっと風が開いたドアの間から吹き抜ける。ハルはその風によって瞑った瞼を上げると、目の前には晴天の空に広いグラウンドが広がっていた。
グラウンドにはポケモンフィールドの線が書かれており、奥の朝礼台の上にチェレンが立っていた


「ようこそ、ヒオウギジムへ!さあ、そちらに立って」

「は、はい!」


背筋を伸ばして、チェレンに言われた通り、彼と対面するような形でフィールドに立つ。キョロキョロと見渡す。
本当に、これからジム戦が始まる……


「ハルさんは何体ポケモンを持っているのかな?」

「え、えっと、一体…です!」

「じゃあ、君に合わせよう。使用ポケモンは一体。言わずもがな、戦闘不能になった方が負け…で異論は無いかな?」

「は、はい!」


ハルの返事を聞いたあと、チェレンはにっこりと笑って頷く。そして、腰についてるボールをとり、そのまま宙へ放った。ボールはパカリと割れ、その割れた間から赤い光とともにポケモンの姿が現れた


「ヨーテリー。よろしく頼むよ」

『ヨー!』


ふわふわな毛並みのヨーテリーを見て、ハルは抱きしめたい衝動に駆られた。いけないと思い、その邪念を振り払うように軽く頭を振ってから、ポケットにしまってあったボールを取り出す。そして、チェレンと同様に宙へボールを放つ


「希色!頑張ろうね!」

『う、ん!』



色違いのコリンクが出てきて、チェレンは少し驚いた顔をした。だがそれは一瞬のことで、ハルが希色から視線を外した時には先ほどまでの笑みを浮かべていた

チェレンは審判にアイコンタクトをし、言いたいことが伝わったのか審判は赤と緑の旗を両方あげた
そして、チェレンから先ほどまでの柔らかい雰囲気は消えた。口元は笑っているが目が真剣で、彼から放たれる雰囲気は威厳に満ち溢れており、額から冷や汗が垂れた

これが、ジムリーダー…


「さぁ、始めようか」

「っはい!」


バトル開始!この言葉と同時に旗が降ろされ、審判の声がグラウンド上に響き渡った




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