気がついたら、電気は止んでいてハルの腕の中にはコリンクがえっぐえっぐと泣いている声が病室内に響かせていた。
そんなコリンクを安心させるため、ハルは小さなその背中を優しくポンポンとリズミカルに叩いていた
『……う、』
あれから何分経ったのだろうか、腕の中にいたコリンクがもぞりと動き、小さな声をあげた
「ん?」
『本当、何、しな、い?売ら、ない?』
不安そうに見上げてくるコリンクはものすごく可愛くて、可愛いんだよボケぇと言って抱きしめたいところだった。しかし、そんなことしたら恐怖心を与えるだけなのでぐっと堪えて、ニコッと笑顔をみせた
「うん、本当。なーんもしないよ?なんなら指切りする?嘘ついたら針千本飲むよ?」
『……うそ、つかない?本当?』
「本当の本当!ほら、あたしの目を見て?」
コリンクがジッと目を見てきたので嘘言ってるように見えるー?と言ったら、分からないと返された。それに少し苦笑した
『…でも、信じ、る。おれ、あんた、信じる。人間、優しい人いる、信じる』
「本当に?」
『本当、の、本当、』
これじゃあさっきの立場逆転だなーって思いつつも、少しでも信じてくれると言ってくれたコリンクに良かったと呟いて頭を撫でた
コリンクは気持ち良さそうに撫でてもらっていた
「良かったわ、コリンク、安心したのね?」
そこで今まで空気化していたジョーイさんの存在に気づく。ジョーイさんもコリンクの穏やかな雰囲気に胸を撫で下ろしていた
するとコリンクはジョーイさんに体を向けて、ごめ、なさい。と言って頭を下げた。
その行動にジョーイさんとともにビックリしていると、今度はハルに体を向けて頭を下げた
『…ごめ、ん』
「…そう、謝っているのね。優しい子ね。傷口も開いてないみたいだし、今日一日安静してなさい。あなたはどうするの?」
「あ、えっと、一旦家に帰ろうかと思います。コリンクの傷が治ったころにもう一度来て、野生に返そうかと思います」
『?!』
「分かったわ。傷からして2〜3日で完治するはずだから、またその頃に来てちょうだいね?」
「あ、はい。分かりました。それじゃあ、コリンク、またn」
『っっっ!』
「おごすっ」
またね、と言う前にコリンクから腹にタックルを喰らわされた。ハルはその衝撃で横に倒れたが、幸いベッドの上だったので痛い思いをせずにすんだ。腹以外は
そんなことまるで気にしてないコリンクはハルのお腹に頭をグリグリと押し付けていた
『…お別れ、だめ。おれ、いっしょ!』
「ごふっ、あ、それって、仲間に、なりたいってことかな?あたし少しだけ旅に出るんだけど大丈夫?」
『…っ!仲間、なる。一緒、旅、でる!』
お腹の上に乗っているコリンクは顔を輝かせて尻尾を犬のようにブンブンと振っていた。
あまりの可愛さにフリーズしていたが、コリンクの顔が悲しげになり、頭を傾げて、やだ?と聞いてくるもんだから、あたしは思いっきり抱きしめたよ。ええ、そりゃあ思いっきり!
『わっ、』
「これから、よろしくね!希色(きいろ)!」
『…き、いろ?』
「そう、あなたの名前!ダメだったかな?」
『…っ!ちが!おれ、嬉しい。名前、ありがと』ニコッと初めての笑顔を見せてくれた希色があまりにも可愛くて、また思わず抱きしめた。ジョーイさんは気を遣ってくれて、じゃあ今日で退院ね。と言って病室から出ていった
ジョーイさんまじ天使!!!
「あ、そうだ。自己紹介しようか。あたしはハル!こっちは訳ありで宝石に入ってるけど、あたしの相棒の恋だよ!」
『…よろしくな。希色』
『ん!』一つ頷いてから宝石に向かってお辞儀をする希色があまりにも可愛くて、頬をほころばせながら頭を撫でた
それから、ハルたちはPCを後にして家へ戻ることにした。時計をみたら16時近かった。時間的には問題ないのだが、如何せん…希色の電撃を浴びたせいで頭髪も服も少し焦げてボロボロである。こんな格好を見たらパパ怒るんだろうな…と思い、家に入ることを躊躇ったが腹をくくり家に入った。
案の定と言うか、ハルたちの姿を見た創は最初驚いた後に、どういうことか説明出来るよな?と笑顔で怒ってきた
そこからお説教タイムが始まった。なにをしてた!とか希色のことを話すと何無茶なことしてんだ!とか散々怒られ、ゲンコツをいただいたが最終的には無事で何より。と言ってハルと希色の頭を撫でてくれた
「説教タイムもおしまいな。夕飯の支度するからお前は風呂に入ってろ」
「…うん!」
「小僧はそこのソファで寝てろ。安静にしなきゃいけねぇんだろ?」
『は、ぁい』「あ、その前にメイちゃん家行かなきゃ!約束すっぽかしちゃったから…」
「とりあえず着替えてから行けよな!」
はーい!と元気よく返事して、上に上着を羽織って家を出る。すぐ隣のメイちゃんに行き、チャイムを鳴らすとメイちゃんが出てきた。ハルが今日のことで謝れば、メイちゃんは大丈夫ですよと許してくれた。
そんな彼女の優しさはプライスレス
そのあと軽く会話してから、家に帰る。玄関ドアを開けるといい香りが漂う。その匂いに誘われるようリビングに行くと、夕飯は出来上がっていた。ハルは手を急いで洗い、席につく。床にいる希色を見るとすでに食べ始めていた
『…ん、うま、い!』
『希色、食べる前にいただきます、だろ?』
『いた、だ…?』「いただきます!」
恋に叱られ、希色はおどおどとしていた。きっと希色はいただきますを知らないんだろう。だからハルは手本になるよう、ゆっくりとした動作で元気よく言う。それを見た希色はハルを真似するように、小さな手を合わせ、いただきますと言った。恋はよし、と満足気に呟く
きっと彼がここにいたら希色のこと撫でてたのかな〜と思いつつご飯を食べる。すると目の前に座っている創がガタンと勢いよく立ち上がる
「やっぱり恋たんはお父さんの座狙ってるだろ?!やらないぞ!ここは、俺の、座だ!」
『狙ってるわけないだろ…。あとたんってなんだ。やめろ』
「あ、希色ー口の周りについてるよー?ジッとしててね」
『ん、』希色の口の周りをタオルで拭き、お互い顔を合わせてニコと笑ってから、またご飯を食べ始める
うん、美味しいね!
そのあと、希色のブラックホール並みの食べっぷりを目の当たりにすることになる
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