抱きしめあってどれくらいたったのだろうか。チクタクと時計の秒針が動く音が流れていた。涙も引き、気持ちもだいぶ落ち着いてきた。そろそろ離してもらいたいなぁと思っていた矢先、創が「あっ」と声を零した


「ん?どうしたの、パパ」

「あぁ、何故ハルがこの世界に来たのかを話してなかったなぁーって」

「…そうだった!それ、それが聞きたかった!」


バッと勢いよく顔を上げれば、創は別段焦った様子もなくニコニコと笑っていた。無駄にいい笑顔だったのが物凄く腹立たしく殴りたくなったが、どうにか堪えた
早く理由を言ってよ。と言いたげな視線を創に送れば、彼は分かった分かったと言って、ハルの頭を撫でた


「まぁ簡単に言えば、そう……手違いなんですわ」

「そっか手違いか………え?」

真剣な顔で言われたものだからハルも不安気な顔で創の言ったことを繰り返す。
そして気づく。何かおかしなこと言ったぞ


「ご、ごめんパパ…もう一回言ってもらっていい?」

「簡単に言えば手違いなんですわ」

「………はあああああ?!」


思わず叫びながらソファから勢いよく立ち上がる。創は耳に手をあてていた。パパが変なこと言うはずないと自分の耳を疑っていたがどうやら聞き間違えでは無かった
創はハッキリと言ったのだ。手違い、だと


「ちょ、意味わからないんだけど?!手違いって……はあ?!」

「ほらほら落ち着いてハル。可愛い顔が台無しだゾ」

「お黙りなさいっ!パパ!ちゃんと説明してよ!」

ダンっ!と片手で机を叩き、創を問い詰める。手違いとはなんなのか。もしかしてよく読む夢小説みたいに主人公みたいな子と一緒にトリップしてきちゃった…とかそう言うことなのだろうか
色んな疑問は浮いてくる。創は、まぁ落ち着きなさいと言って、ハルにココアを渡す。ハルは渋々と言った感じでココアをちびっと飲む

「この前、一旦この世界に帰ろうと思って時空を繋げてたわけですよ。んで、その時空を繋げるときって…俺の考えてることが反映しちゃうていうか…ね?」

「…あ、嫌な予感」

「それで、そんな時にお前のこと考えちゃったのよ」

「何してんのパパァアア!」

「俺もヤベッて思ったんだけど、その時は特になんも無かったし?大丈夫かと思ったら…これですよ」


いや〜やっちゃったね…てへ!と頭をコツンと可愛らしく拳で叩き、ペロッと舌を出す。その姿がハルを腹立たせた。ハルとりあえず手元にあったクッションをありったけの力で創の顔面に向かって投げつけた。クッションが直撃した創は、グヘッとカエルが潰れたかの声を出して、後ろへ仰け反る

つまりあたしは時間差でここに来たっと言うわけだ。パパの不注意で!
ぷんすかと怒っていると、創が鼻を手でおさえながら上半身を起き上がらせる


「いててて…まぁ、これに関してはパパが悪いからお前を元の世界に帰そうとは思う」

「…え」

「しかし、お前は元の世界に返したら二度とこっちには来れない。ハルが大事そうに持っている宝石の住人とも会えなくなる」

「…じ、じゃあ」

「だからと言ってここに残ることはあまり賛成できかねない」

「なん、で?」


こてりと頭を傾げ、創に問う。そんな姿を表面上真剣な顔をして見ては、今日も娘が可愛くて何よりです。と感動していたことなどハルが知るはずもない
それを誤魔化すかのように一つ、お"お"っほん!と大袈裟気味な咳払いをする。少しばかり怪しんでる顔をしているハルを他所にまた、しゃべりだした


「何故賛成しかねないのか…それは二年前に解散したはずのプラズマ団が動き出してるからだ」

「へぇ〜……え?解散したはずの…プラズマ団とは…?ん?」

頭上にたくさんのクエスチョンマークを浮かべる。ハルは傾げれば、創も何が分からないのか分からなくて同じように頭を傾げる?
女の子と男性が同じ方向に頭を傾げ、見つめあってる様は傍から見たらさぞかし滑稽なことなのだろう。現に恋は何やってんだと思いつつ笑っている

そうして漸く、ハルの疑問が分かった創は左の手のひらを右手の拳でポンっと叩いた。頭上には電球マークが光っている


「そっか。そうか。言ってなかったか!ハル、BWの話の内容は分かるだろ?」

「うん。ポケモンにしてはシリアスに終わったよね…」

「ここはそれの二年後の世界だ」

「え」


ピタリと時間が止まった気がした。
に、二年後って…えっ。Nが消えてから二年経ったイッシュ地方なの?!そう言えばここ、ヒオウギシティとか全然聞いたことないもんね!二年経ってるてのも納得出来るけど!
…じ、じゃあさ、待ってね…ヒュウがポカブ持ってたってことは…まさかヒュウは主人公…?


「あー…あの小僧はライバル的立ち位置だ。小娘の方が主人公な」

「メイちゃんが主人公だったか!」


確かに明日ポケモンを貰うって言ってたな!そっかメイちゃん主人公だったか〜。まぁ、優しいかわいいしスタイルいいから納得出来るよね…。男の子の主人公はどんな容姿なんだろう。すごく気になるなあ。

「そういう事だからプラズマ団が動き出した以上、ここに残るのは危険もあるって事だ」

「う、うう」

「でも」


そこで区切り、ハルの方を見た。そして笑う。その笑みは寂しさ悲しみが含まれていた。その笑みを見て、ハルは胸が締め付けられた。
父さん、そんな顔しないでよ

「パパはね、我儘言うとここに残ってほしい。少しでも目の届くところにいて欲しい。暫くはあっちの世界に帰れないから…少しでも…って」

「うん」

「だがそんなの俺が決めることじゃない。ハル、お前が決めなさい。お前の好きな方を選んでくれ」

「……」


本当の事を言うとあたしは平和に暮らしたい。
それはそうでしょ。誰だって平和を求め暮らしている。自ら危険な場所にはいかない。だから、元の世界に帰るのかって聞かれたら頷けない。あっちはあっちで危険はいっぱいある。どちらを選んでも危険と隣り合わせならば、答えはひとつでしょ。


「ここに残るよ」

「…え」

「帰ってもパパがいないんじゃ寂しいし、なによりここまで育ててくれたパパの手伝いもしたい」

「…ハル」

「何ができるかって言われたら何も出来ないんだけど…それでもやれることは精一杯やりたいかな、って!」


二カッと笑えば、創はキョトンとした顔から優しく微笑み、ありがとう。と言ってハルの頭をわしゃわしゃと撫でた。やめてよーなんて言って抵抗をしたものの、その顔は満更でもなさそうだった

パパはなんだかんだ言ってあたしに選択の余地をくれる。先走った行動だったけど、最終的には選ばせてくれる。あたしのことが心配だけど、でもあたしの意思を尊重してくれる。
こうして改めて思うとあたしは本当に愛されてるんだなって実感している。血は繋がってなくても父さんの子で良かった!


「で、あたしにやれることってある?」

「…あ〜、そうだな〜。家事とか出来ないしな〜」

「うっ!そ、それは…あの…」

「……ハルはさ、旅に出たいと思うか?」

「…え」


そう言えば先ほど恋にも言われた。旅に出たいか、と。さっきは曖昧な返事でその場をやり過ごしたが、今ははっきりとした方がいいだろう。しかし、意見は変わっていない。
旅に出たい気持ちもあるが、出たくない気持ちもある。パパ的にはどっちなんだろう…やはりプラズマ団が動き出してる以上、旅には出させたくないのだろうか…

うーん、頭を悩ませ、どっちにするか考えていると、ポスと創の大きな手がハルの頭の上に乗っかってきた


「悩む気持ちがあるなら、お試し旅に出てみたらどうだ?」

「お試し旅?」

「ああ。ここヒオウギシティを抜けるとサンギタウン、タチワキシティと街があるんだが、その先のヒウンシティは船に乗って行かないと次へ行けないんだ」


テーブルの上に新イッシュ地方の地図を広げ、ハルに分かりやすく指で街を指しつつ教えてくれる。
今、自分がいるヒオウギシティは地図から見て左側にあるんだ…と思いつつ、創の指を目で追っていく。

船に乗ってヒウンシティに行くなんて、なんか豪華だなぁ〜


「で、だ。タチワキシティまで旅に出てはどうだ?距離的にも遠くはないから、ちょっといいかなと思ったら帰って来ればいい。旅を続けたいと思ったらそのままヒウンシティに向かえばいい」


やってみるか?と言って、ハルの顔を伺う。ハルは創の言ったことを理解出来たためなるほどと納得してから少し考える
確かにそれならいいかもしれない。異端者のあたしは少しこの世界をこの目で見ないと分からないと思うから、これはいい機会かも


「…うん。あたし、タチワキシティまで旅に出てみるよ!」

「分かった。出来ればその旅先で何か異変があったら教えて欲しい。それが今のお前に出来ることだ」

「おっけー!」

「あと、旅に出るのは仲間を見つけてからな。その相棒さんじゃ、バトルも出来ねえから」

「…お、おっけー!」

『…悪いな』

「恋のせいじゃないよ!」


恋が悪いわけではないのに謝られたのでハルは宝石を自分の目線に合うところまであげて、否定する
すると隣から、チッチッチッと舌打ちが聞こえた。そちらを見ると創が人差し指を軽く左右に振っていた。ハル曰く、うざい顔だった


「こらこら甘やかしちゃ駄目だぞ〜。時には厳しく!」

「パパ黙って」

「いや、こっちじゃないからね?パパに言うんじゃなくて宝石に言うんだよ?」

『くくっ』

「おまっ、何わらってんだよ!」

「パパうるさいよ」

「ちょ、ハルーー!」



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