突然聞こえた声にハルはびっくりして固く瞑っていた目を開けると、目の前に繰り広げていた光景に驚いた。どこからか飛んできた火がマメパト達に直撃して彼らは『あち、あちち!』と羽を激しく羽ばたかせながら森の奥へと逃げて行った

いきなりのことで頭が追いついていかず、目の前で起きた出来事をポカンと見ていた


「あの…大丈夫ですか?」

「へ、」


後ろを見れば、首を傾げてこちらに手を差し伸べているダブルお団子ヘアーの可愛らしい女の子と、ポカブの頭を撫でてこちらを見る青髪でツンツンヘアーのかっこいい男の子がいた。

まだ頭が今の状況に追いついていないため、2人を見たままそのままフリーズしていた。
そして少しずつ頭の整理が出来たハルはワナワナと小さく震えだした。2人はそんなハルを見て、どこか怪我をしたのかもしれない…と思い、再び声をかけることにした


「どこか怪我され」

「ひ、人だああああああ!」

「えっ」
「は?」


女の子の言葉を遮り、ハルが発した言葉はそれだった。それもそうだろう。誰一人いない森に放り込まれて、しかも出口が見つからないわ、マメパト達に襲われるわで困り果てていたところに、この2人との出会ったのだ。喜ばずにはいれないだろう。
現にハルは、人と出会えてこんなにも感動したことはあっただろうか…いや無いな。人と出会うと言うのはこんなにも感動するモノなのか…!ありがとう出会い!愛してるぞ出会い!と崇拝するように泣きながら感謝していた

そんなハルを見た2人は若干引きつつありながらも、声をかけた


「あ、あの…大丈夫ですか?お怪我は…?」

「えっあ、はい!おかげさまで大丈夫です。ありがとうございます」


深々とお辞儀をしつつお礼を言えば女の子は両手と首を横にブンブンと振りながら、いーですってそんな!と謙虚に応えてくれた。そしてハルに怪我無い事を知った女の子はホッと安堵の息を零して、良かったと満開の笑顔を見せてくれた。なんだ、女神か

男の子から手を差し伸べられたのでハルはその手を取り、男の子に引っ張ってもらうような形で立ち上がった。
服についた土を手ではたき落とし、再度お礼を述べた。すると2人は照れながらも「お礼はいいですって」とやはり謙虚に応えてくれた。なんだ神様かお前達は

あっと何か思い出した女の子は手をポンと叩き、再びニコッと笑いながらハルと向き合った。う、うわ…かわたん…!この子めっちゃ可愛い…!


「私はメイ、よろしくです!」

「俺はヒュウ。こっちはポカブのポーだ」

『よろしくねぇ〜』

「あたしはハル!よろしくね」


ポカブくんのポーは意外にもなんかのんびりとした感じだった。イメージから硬派な感じがあったから、驚きは倍だった。イメージだけでその子の印象を決めつけるのはよくないよね

それよりもハルは本当にポケモンの世界に来たんだなーとしみじみ思う。さっきのマメパトといいポカブといいあの技といい…。
そこで、ふとハルは疑問が浮かぶ。
このイッシュ地方にメイとヒュウなんて子はいたっけな?少なくとも自分の知ってる限りではいなかった気がする。では、この二人は誰なんだろう

なんて考えていたら、メイに名前を呼ばれ、ハルは今まで考えていたことを払うかのように頭を左右に振る。
そんなことどうでもいいか。助けてくれた命の恩人には変わりないし。
差し出された手を見て、ハルは笑顔で握手する

握手をしていたらツンツンヘアーのヒュウは、あ。と何か思い出したかのようにハルに尋ねてきた


「そーいえば、ハルはなんでポケモンを持たずに森の中にいんだ?森の中は野生のポケモンだらけで危ねぇのに」


随分と核心をついてくるヒュウにハルは、うぐっと言葉を詰まらせた。目をめっちゃ泳がせて何かいい理由は無いだろうかと思考を巡りに巡らせてようやく辿り着いた


「あーっと…それはー…ですね。えー…と、さ、散歩がてらに歩いてたら、その、迷っちゃって…」


しん、と静まりかえる。ハルは冷や汗をダラダラとかき、内心不安でいっぱいになってきた

まさかとは思うけど、怪しまれた?やっぱりポケモン持たずに森へ入るのはヤバイ感じ?そうだよね、博士もいってたもんね。ポケモン持たずに森へ入るのは危ないって、めっちゃ怒ってたもんね。
でもさ、ここで異世界から来ましたなんて言ったらどうなると思う?痛い目で見られるだけよ?あたしだって、大丈夫かよこいつ…的な目で見るもん。絶対に見るもん!そんな目を向けられたら、あたし泣くからね!今も泣きそうだけどさ!

表面上めっちゃ笑顔でいるが、内心は言い訳をし、勝手にキレて、挙げ句の果てには泣き始めていた。もうどうにでもなれ…と自棄になっていると、メイがいい笑顔で頷いてきた


「そっか、迷子だったんですね!確か、ハルちゃんってヒオウギに引っ越してきたばっかりですよね?なら、迷子になっても仕方ないですね!」

「えっあ…うん!そうなんだよね!あたしったら来たばっかりなのに散歩なんかしてさーアホだよねー!」


あはは。とお互い笑い合っていた。あたしの笑みは引きつって無いだろうか…大丈夫だろうか。そう思いつつ少し冷や汗をかきながら笑っていた。ヒュウくんは迷子って子どもだな、なんて言っていたけど、あたしは気にしない。
まぁ、迷子なのはあながち間違えではないよね

…って、ちょっと待った。今、メイちゃんはなんて言った?



「ヒオウギに引っ越して、きた…?」

「そうですけど…どうかしました?」

「迷子の次は記憶喪失か?なーんて冗談だ」


はははって笑う顔もイケメンですねヒュウくん。爽やかです。さぞかしモテることでしょう。しかしその笑みはメイちゃんに向けなさい。2人の恋…お姉さん応援しちゃうんだからね!

じゃないよねあたし。話を逸らすのいい加減やめようね!
言いたいことは、あれだ、あたしの家ってこっちにあったの?あたしの家のことなのに初耳だよ。いや元々この世界の住人じゃないしね!
…あ、なるほどね。これがあれですね、トリップしてきた人の特権みたいなもんですね。ポケモンと喋れるしかり、お家がある、てね!

でもヒオウギってどこだろう?イッシュ地方にそんなところあったっけ…?
初めて聞く地名にハルは頭をフル回転させてヒオウギと言うところがどこにあったか思い出そうとしていたら、メイがパンと手を叩いた


「ま、とりあえず帰りましょう!日も暮れちゃいますし…ね?」


コテンと首を傾げるメイ。なんだそんな可愛くされちゃあおじさん黙ってられねえなあ!ええ?!と荒ぶっていると、今まで静かにしていた宝石がガタガタと揺れた。
ハルの心を読み取ったのだろう。めっちゃ笑っていた。ハルはムッとして宝石を軽く叩くが、自分の手が痛むだけなのでやめた

「ハルちゃーん!」

「ハルー!何してんだー、置いてくぞー!」

「え、あわばば、ま、待ってー!」

そんなやりとりをしていたら、いつの間にかメイとヒュウは先を歩いていた。ハルはうわばばばと焦った声を漏らしつつ、二人の元へと走り出す。こっちを手招きしているメイが可愛すぎて、ハルは思わず真顔になっていたことに本人も知らなかった

ちなみに、出口はハルの進んでいた方角とまったくの逆方向だったことはハルと恋だけの秘密である。それを知った恋は笑い出し、再度宝石がカタカタとゆれだした。己ェ…他人事のように笑いやがってえ…!恋だって一緒になって迷ってたくせに…!


「それでね、ポーがね、ヒュウのおやつ食べちゃったんですよ!」

「本当こいつは食い時張ってるからな…困ったもんだぜ」

「とか言って…ヒュウたらポーにすっごく甘いからどんどんおやつあげちゃうんです」

「ヒュウだめじゃん!それ、ポーが太るよ!」

「……今現在太ってるんだよ」

「「まじか!」」


足場の悪い道を三人で歩いていく。他愛もない会話で盛り上がる。ヒュウの相棒ポカブのポーが平均体重より上だと知って、ハルとメイはダイエットさせなよ!と勧める。ヒュウは渋々と頷くが、あれは我慢ならずおやつあげてしまうな…とハルは睨んだ。
それからも色んなことを話した。ハルの方が二つ年上だったこと、メイは明日相棒となるポケモンを貰いに行くこと、夢は各地を回りリーグを目指すこと、などなどたくさん話した。やはりゲームでは知らなかったことなどがあって、2人と話すのはとても楽しかった

そうして話しながら歩いてれば、森を抜けてヒオウギシティに着いた。ハルは目を輝かせて辺りを見渡しながら、2人に連れられ自分の家へと歩いて行く


「あっちが私の家で、あれがヒュウの家。そしてそっちがハルの家ですよ!」

「なるほど…メイちゃん案内ありがとう!」


メイが指さす方を見ればそこには立派な木造建築の家が建っていた。立派と言っても広いとか豪華とかでは無く、普通に暮らすには十二分すぎるほどであった

あれがあたしん家なのか…と見つつ、案内してくれたメイたちに礼を述べた。今日だけで何回2人に礼を述べたのだろう…


「そう言えばハルは旅に出るんですか?」

「んー…分からない。それはこれからじっくり考えようかなって」


そう答えるとメイは少しだけ寂しそうな表情になり、そっか仕方ないもんね…と自分に言い聞かせている。そしてニコッと笑いながらハルと顔を合わせた


「別に一生の別れじゃないですもんね!ハルが旅に出たら何処かで会えると思うし」

「この街に残ったとしてもオレ達は定期的に帰ってきたりして会うことだって出来るしな」

「そうですね!ハル、どっちを選んでも悔いの無いように!」

「うん、分かった!ありがとうね2人とも!」

「いえいえ!じゃあまたねハル!」

「またな」

「メイ!ヒュウ!またねー!」


手を大きく振って2人と別れた。手を降ろしてチラッと横を見ると、立派に建てられている木造建築の家がそこにある。
その家があたしの家だとメイは言った。けど、本当ならこっちにあたしの家なんてあるはずがないんだけどな...

家のドアの前で腕を組み、首を左右に傾げて、うーんと頭を悩ましている。すると今まで静かにしていた恋の入っている宝石がコトリと動いた


『ハル、入らないのか?』


「うーん。なんと言うか…不安で…」

『不安?』


「うん…。だって元々あたしは元々ここの世界の住人じゃないから家なんてあるはずが無いじゃん?だから、なんか、なんていうか、なんだろ…怖いのかなー…」


家があるってのはとても嬉しいことだ。でも、それは家の中に自分を迎え入れてくれる人がいるからだ。
扉を開けて、中をみたら誰もいない。おかえりを言ってくれる人がいない。お疲れ様と労ってくれる人がいない。自分の話を聴いてくれる人がいない……それは寂しいし、なんか取り残された気分になって怖い。ってあたしは思うんだよね…。現に取り残されてるけど

だから、この家に入るのがとても怖いんだ…しんと静まりかえった部屋に入るのが…
気がついたらドアノブに置いておい手が微かに震えていた。


『……ハル、大丈夫だ。俺がそばにいる』


「れ、ん…」


そうだ。あたしは一人じゃない。恋がいる。あたしには恋がいるじゃないか。こんなにも心強い味方がここにいる!大丈夫、きっと大丈夫!!

空いている片方の手で宝石を緩く握りしめ、よし!と気合いを入れてドアノブを捻り、ドアを開けた

電気の光が真っ先に入ってきて、少し眩しかったため目を細めた。中から珈琲なのか…いい匂いが漂ってきた。その匂いを嗅ぎつつ目線を少しずらした瞬間、ハルは目を大きく開けて固まった

ハルの目線の先には腕を組んで壁に寄りかかっている、一人の男性…


あれは…




「遅かったな、ハル」



ハルの父親こと、創がそこにいた


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