宝石から今、この現状について聞くとハルは目をまん丸くして驚いた。いや、驚きを通り越して冷静になっていた


「ぽ、ポケモンの世界?」

『あぁ、ポケモンの世界』

そんな馬鹿な、あり得ない。ハルはそう言いたかった。
ポケモンの世界?しかもイッシュ地方?冗談はもう勘弁してほしい。二次元の世界が実際にあるわけがない。世界には二次元に行きたい人なんて五万といる。けど、行けた人がいるかと聞かれたら答えは否だ。
実際に存在するはずのない世界に行けるわけがない。なんかの漫画ではあるまいし、そんな馬鹿げた話…。と一蹴したいところだったが、この宝石が嘘をついてるなんて到底思えない。

この短時間でハルは宝石のことをかなり信用していた。それはそれはまるで昔からの知り合いのように。自分でも何故こんなに信用してるのか分からないが、声を聞いた瞬間に心はすでに許していた。でもやはり信じ難いことは確かである

どうしたら良いのか、うんうんと頭を左右に傾げては悩み続けるハル。それを見た宝石は優しく、だが促すようにハルに声をかけた


『ーー…ハル、少し森へ入ってみろ』

「え?」

『そうすれば、きっと、ここがどこなのか確実に分かるはずだ』


宝石が言ったことに、うんと素直に頷けなかった。
怖いのだ。もちろん話を信じたわけではない。まだドッキリなんだと思い込んでいる。しかし、万が一、これで森の中に入って宝石の話が事実で、自分がいた世界じゃなかったら?たった一人この世界に放り込まれてしまったとしたら?
そう考えるだけで体が震えあがる。事実が、とても怖い。テストを返却される時よりも…

でも、確かめないとなにも分からない。
こんなところでウダウダしてても仕方ないんだ。ちゃんとこの目でここがどこなのか、ハッキリさせなければいけないんだ。
森へ入って何もなかったら万々歳じゃないか。そこへドッキリ大成功!なんてプラカードを持った創が現れた暁にはキン肉バスターをかけてやろうと意気込む


「よしっ!」


ハルは気持ちを切り替えて、気合いを十二分入れてから森の中へ足を踏み入れる。
どんな事実を突きつけられても、戸惑わないぞ!すべて受け入れてやる…!と強く心に誓った
そして、目の前に入ってきたものとは、



「…ぽ、け、もん…?」

そこにはたくさんのポケモンがいた。
木の上で休んでるマメパト、木の実を食べているチョロネコ、辺りをキョロキョロと見渡すミネズミ。などなど…

よく精密に作られているね、なんて言えなかった。そこにいるポケモンたちはどれも作り物ではなく本物だったから。
作り物と本物は一目見れば分かる。そりゃあ、最近の技術は進歩して見分けが難しいものはあるが、所詮作り物だ。生物の作り物なら尚更分かるだろう。生物そのものを表すのは無理に近い。

しかし、目の前にいるポケモンにはそんな言葉が出ない。
あ、ポケモンだ。としか出てこないのだ
それが…そこにいるのが本物と言う事実を叩きつけられたのだ


「ま、じか……」


ハルはその場にヘナヘナと力なく座り込んだ。呆然としているハルを見た宝石は心配になったのか、『ハル?』と声をかける

本当だったのだ。宝石が言ったことは全て。ここはポケモンの世界で、イッシュ地方なのだと。事実を突きつけられ、体の奥から湧き出てきたのは恐怖だったのか…喜びだったのか…分からない。頭の中は無に近かった


「夢を…みてるみたい…。本当にあたし、ポケモンの世界に来たんだ…」

『怖い、か?』

「…正直分からない。怖いのか嬉しいのか悲しいのか…分からない。でも…ちょっと嬉しいみたい」

『嬉しい?』


事実を見せ付けられたハルの心はほぼ無に近かった。頭の整理がちゃんとついていないのだろう。しかし、そんな無の中にある感情…それは喜び。
ハルの頬は自然と緩んでいた


「うん。なんか分からないんだけどね、ここに来て嬉しいなぁーって感じるんだよね…。もちろん、これからの事を考えると怖さとかあるけど…なんとかなるんじゃないのかなと思うんだよね。あ、でもパパに会えないのは寂しいかも…」

『……そうか。ハルは相変わらず強いんだな』

「相変わらず?」

ハルは頭を傾げて?マークを浮かべた。宝石はクスッと笑って『あぁ』と短く答えた


『お前のことは昔から見て来てたんだ。本当に昔から』

「え、もしかして…あたしが赤ちゃんのころからってこと?と言うことは…おねしょとかラブレターを書いてるところとか見られたってこと?!きゃーっ恥ずかしいーっ!」

『あ、ハルが言うパパってやつには近々会えると思うから安心しろ』

「はいスルーを頂きましたー。って、えぇ!?本当に!?な、なんで…どうやって?!」

『それは…色々とな』

グイッと詰め寄れば何故か言葉を少し濁す宝石。これは聞かない方がいいのかもしれないと思い、ハルは深く聞くことをやめた

しかし、この宝石は本当になんでも知っている。ハルが疑問に思っていることは、ほとんど答えてくれたからね。知らないことないよね?絶対に。


「………宝石さんって何者?」


フッと思った疑問を宝石に問いかければ、宝石は「ん?」と言ってから、少し考え込んでから答えてくれた


『何者って……普通にポケモンだが?』

「ほうほう、ポケモンさんでしたか。それは失礼した」

『おう』


そうかそうか…宝石さんはポケモンだったのか〜…と一人でうんうんと頷き納得していた。そしてピシッと石のように固まり、数秒の間を開けてからハルは大声を発した


「えぇええええ?!!」


本日二回目のお叫びです



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