「ーー…え?」

小さな、本当に小さな声でぽつりとハルの名前を呼ぶ声が聞こえた。ハルは、バッと勢いよく顔をあげて誰かいるのかと思い辺りを見渡した。
だが、周りには先ほどと変わらない景色が広がっており人は誰一人といなかった

怖さや寂しさのあまりに聴いた幻聴なのか、それともーー…。そう考えてしまったハルはさらに怖くなって自分の体を強く抱きしめた。

冗談じゃない。こんな森の中にあたし以外誰一人いないところに放り投げられ、挙げ句の果てには…ゆ、幽霊とご対面だなんて…嫌だ。絶対に嫌だ!

幽霊の可能性を考えてしまったハルは顔を青白くさせて恐怖のあまりか涙は止まったが、体は先ほどより震えあがってしまった。しかし、



『ーー…ハル、こわ……か?』

また、小さな声が聞こえた。それは先ほどよりかはハッキリと聞こえた。しかし自分の名前は聞き取れたものの、そのあと何を言ったのかは聞き取れなかった。
だが、確かに声は聞こえた

そして咄嗟にこの声の主を探そうと俯いてた顔を上げた。やはり先ほど景色は変わらず誰一人いない。
声の主は幽霊の可能性だってあるとさっき知ったはずなのに、何故か、何故か分からないが、この声の主は幽霊では無いとハルはそう直感で感じたのだ。なんの根拠も無い。なのに、この声を聴くと、とても安心する。

ならば自分の直感を信じてみようと思った。結果的に幽霊だとしてもいいじゃないか。家に帰ったら土産話にしてやる!
そう意気込み、ハルは声の主を探し始めた。気づけば体の震えはおさまっていた。


「えっと、あの…どこにいるんですか?出て来てお話ししましょう!」

『ここ…。お、』

「え、ここお?ここおって何語…あ、ここだおって意味ですか!いや、でもここだおって言われても分からないですよ!」

『だ、ら、ここ…!』

「だらここ?なんじゃそりゃあ…そんなナタデココみたいな言葉知らないよ!え、もしかしてナタデココを用意したら出てきてくれるとか?なにそれ結構鬼畜なんですけど?!あたしの手持ちはなんもないのに……あ、泥だんごでいいですか?あたし泥だんご作るのくそ上手いですよ!なんならピカピカの泥だんご作りますけど!」


勝手に解釈しては一人で悩み、悩んでは何か思いつき、子供のようにキャッキャッとはしゃいぐ。いざ泥だんごを作ろうとしたが肝心の水が近場に無いことに気づき、嘘だろ…と言って落ち込む。そんなハルが百面相を繰り返していると首元にぶら下がってるあの蜂蜜色の宝石がカタカタと動いた
ハルは、ん?と思い、視線を宝石に向けた。するとそこには


『ぷ、ぐ…はは…!』


笑い声と共にカタカタと宝石が揺れていた。

これにはハルも目が点にあり、思考も体も石のように硬直していた。そんなことも気にせず、宝石は先ほどよりも少しだけ激しくカタカタと揺れながらも『ふ、はは…!』と笑い続けていた

ハルはすぅ…と空気を深く吸い込み、そしてそれを全部吐き出すかのように大声で叫んだ



「ほ、宝石が…笑ってるぅううううううう?!」


生まれてきて16年。初めてこんなに大きな声を出したと思います。



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