風呂から出たハルは頭をタオルで拭きながらリビングへやってくる。プーンとシチューのいい香りがハルの鼻をかすめる。腹が減ったと思いつつ、皿や箸を並べる

ピンポーン
あらかた準備が終えた頃にインターホンが部屋の中に響いた。ハルは玄関に行くため、急ぎ足で玄関に向かおうとすれば


「あ、ハルちょっと待て」

「えっ?」


創に呼び止められたハルは何事だろうと振り向く。創は鍋に蓋をし、手をエプロンで拭いてからハルと目線をあわせるように中腰になっていた。頭に?マークを浮かべていると、はいコレ。と言われ首に何かがかかる
視線を胸元に向けると綺麗な蜂蜜色のした少し大きめの宝石がついたネックレスが首にぶら下がっていた


「えっと…これは?」

宝石の透き通る綺麗さに思わず見惚れていたが、ハッと意識を戻し、首にかかっているネックレスのことについて創に尋ねる。何故創はネックレスをこのタイミングでくれたのだろうか…。全くもって意味不明であった。しかし彼は優しく微笑んだ


「これを大事に持っとけ。何かあった時はこれに話しかけてみろ。そしたら、きっと…助けてくれるはずだから」

「?」

創は優しく微笑んだままハルの頭をくしゃくしゃと少し乱暴めに撫でた。状況を把握しきれてないハルは、何がなんのことか良く分からないまま大人しく撫でられていた。聞きたかった答えはそれじゃなかったんだけどね…
そして、撫でていた手を止め、まるで赤子をあやすかのように頭をポンポンと軽く叩いてきた


「なーに大丈夫さ。ハルならやっていける。だってハルは俺の娘だからな!」

「んーと…よく分からないんだけど…」

「さぁ、行って来い!」


おずおずともう一回問いかければ創はハルの体を玄関の方向へくるっと回転させ、そして、とん。と軽く背中を押してきた。
ハルはよく分からないままそのままの態勢で首を少し捻り創の顔を見た。優しく微笑んでいた顔は明るい笑顔に代わっていた。

困惑した表情で見つめていたら創に「お客さん待たせていいのかー?」とニヤニヤした顔で聞いてきて、ハルはお客さんの存在を思い出した。
こうしちゃいられない!と思い、ドタバタと短い廊下を走り玄関まで向かう

しかし…本当にパパは何がしたかったのだろうか?何が言いたかったのだろうか?
考えても答えは見つかりそうに無いのでハルはそれを考えるのをやめた


「はーい、どちら様ー?」


いそいそとサンダルを履き、鍵を開けていく。創のせいで外にいるお客さんは待ちくたびれているだろう。
ごめんなさいお客さん!遅かったのはあたしのせいじゃないから全部パパのせいだからね!文句ならパパに言って!アッパーとか技かけても全然OKだから!

そう思いながら玄関の扉をガチャリと音をたてて開けたら



「え………?」



ハルは眩い光に包まれた








鍋がグツグツと煮打てる音以外、何も聞こえなくなり静寂に包まれたリビングには創がコーヒーを淹れ、コンロの火を切ってからソファーへと座った
そして一口啜り、玄関の方を見つめた


また物語は動き出す
思い出すはあの日の出来事
同じ過ちを繰り返してはならない




「ハル、いってらっしゃい」


そして、どうか………

創は不安と悲しみと恐怖と…そして無を混ぜた複雑な表情をしてコーヒーをまた一口飲んだ


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