ガヤガヤと多くの人で賑わうアベニュー内。カフェ、トレーニングジム、射的、占い、お土産屋、花屋などなど様々な種類のお店が並んでいる。どのお店にも興味があるので目を輝かせてあたりをキョロキョロするハル。まるで子どもがおもちゃ屋さんに来たかのようであった。


「すっごい賑わいだね…!こういう、お祭りぽい雰囲気大好き!なんだかテンション上がってくるよ!」


何にしようかなと辺りを見渡していると、服の裾をクイッと引っ張られた。裾を下の方に引っ張られたので背の高い人を抜かすと思い描かれるのはただ一人。ハルの周りで自分より低い者…それは

「どうしたの?希色」

問われた希色は顔を俯かせて少々もじもじと体を動かす。そんな姿にハルは強い尊さに襲われ、心臓あたりの服を強く掴み、下唇を噛んで奇声をあげるのをなんとか防げた。そんなハルの心情など知らず、希色は心配そうに首を傾げる。その姿にさらにダメージを負い、勝手に満身創痍状態に陥っていた
後ろで見ていた花火は笑い、恋は笑いを必死に堪え、藍はニコニコと微笑んで2人のやりとりを静観していた。


「あ、のね、行きたい、ところある、の!」


ふんすふんすと鼻息を荒くして訴える希色まじかわよ…と心の中で合掌し、表面ではにっこりと笑って頷いていた。

「どこ行きたいの?」

「えっ、と、あそこ!」



指をさした方面を見るとそこはトレーニングジム。人もポケモンも己を鍛えあげて強くなれッ!と今にも炎が出てきそうな熱いポスターが掲げられており、体の動かし方、かわし方、筋トレなどを教えてくれる場所であった。
ついていけるかな…と不安な気持ちでポスターを眺めていると、ハルの不安な気持ちを察した希色は手をバタバタと動かし、

「いくの、おれ、ひとりでも、平気!!」

と少し慌てた様子で答えてくれた。気を使わせてしまったことに情けなさを感じつつも、ハルは希色の成長を実感し、涙が溢れ出そうになるのを堪えていた
しかし、出会った時から希色は人間恐怖症だ。最近では少し克服したとはいえ、怖いものは怖いはず。そんな希色を1人で行かせるのは忍びないのでハルも行くことを伝えようとすると「はーーい!」と花火が急に手を挙げてきた


『俺もそこに行きたかったんや!きいくんとちょーっと行くさかい、ハルちゃん達は別の店に行ってもええよ」


「んー、でも…」

「花火もああ言ってるんだ、希色のことはあいつに任せたらどうだ?」

「うーん…そう、だね。うん。じゃあ花火しくよろ!怪我させたら許さんからな」

「まっかせろぉ!ほな、きいくん、一緒に行くで!」

「う、ん!」


ワイワイとトレーニングジムへ向かっていく2人の背中を見て、ハルはなんとも言えない寂しさを覚えていた。男の子同士で通じるものがあるのだろう…仲が良いのは良い事だけど、寂しいものは寂しいのである。しかもこのメンツだと女子は1人なので余計に寂しいのである。女の子と話したい…


「さて、あたし達はどこ見ようか」

「おやおや、随分と切り替えが早いのですね」

「まぁ、いつまでもクヨクヨして仕方ないしね!!」

「底抜けのポジティブさがハルさんの良いところだよね」

「急に褒められると照れる」

「何も考えてないだけだけどな」

「突然のdisりに深く傷ついたわ」

このやろうと言いながら恋の腕あたりをげしげしグーパンチをするハル。痛がる様子も無くケラケラと笑っている姿から、本気では無く軽く殴っているのが分かり、二人の仲の良さが伺えて夢は「ふふふ」と微笑んでいた。

「でしたら、カフェにでも行きませんか?この間行ってみたカフェのケーキがとても美味しかったんです。よろしければ是非」

「!!行く!!行きます!!!!!」

胸に手を当て腰を折り優しく問いかけてくる姿はまさに執事のようであったが、ハルは藍の動作など目にもくれず、出てきたケーキと言う単語で頭がいっぱいになっていた。
ケーキ。久しく食べていなかったことを思い出す。女子にとってケーキとは魅惑なデザートと言っても過言ではない。ハルもカフェで食べるケーキは特別感もあり、是非にも行きたかったのでこのお誘いには食い気味で承諾していた。

その姿はまるで鼻から砂を吐き出すヒポポタス…いや、カバルドンのようだと夢がボソリと呟くと隣で聞いていた恋は耐えきれず腹を抱えて大爆笑していた。
ふんすと鼻息を荒くするハルと大爆笑する恋、その隣で微動だにせず雰囲気的に微笑んでいる夢という、なんともカオスな空間であったが、藍は表情を一切崩さず「では、こちらです」とスマートに案内をした。

「なんのケーキがあるかな?!」

「チョコ系やフルーツ系、タルトなど様々な種類があったと記憶しております」


「マジ?!楽しみすぎる!」

「大丈夫?水飲む?」


「ヒーッ、ちょ、今、水、ンフぐっ、飲んだら、し、死ぬンフフフッ」


ルンルン気分で先頭を歩くハルと藍。その後ろで介抱してるのかしていないのか微妙な夢と窒息死寸前の恋。周りからは変な目で見られていたが本人たちは気にしていなかった。ハルの場合はケーキのことでいっぱいで気づいていなかっただけだが。

少し歩くと花屋の前が見えた。元のいた世界にもあった花や、見たことのない花など色とりどりの花に目を奪われ、ハルは立ち止まった。

「きれい…」

「本当だな。この花の名前は…」


「いらっしゃいませ。そちらはトルコキキョウになります」

綺麗な色合いで丸いフォルムのかわいい花に目を奪われていると店の奥から優しい笑みを浮かべた女性店員が現れ、花の名前を教えてくれた。

「ちなみにですが、こちらとこちらも同じトルコキキョウとなります」

「え?!色も花の形?みたいなのも違うのに!?」

「そうなんですよ」

ニコニコと教えてくれる店員さん。きっとハルが良いリアクションをとってくれたことが嬉しく、微笑ましいのだろう。
キラキラと目を輝かせて花を眺めては、気になる花の名を店員さんに聞くを繰り返す。元の世界でも聞いたことある花や、全く知らない花などさまざまな花のことを知れて楽しくなっていた。

そこでふと思い出す。かけがえのない家族…創のことを。最近は滅多に会わなくなり、寂しさが顔を覗かせる日々。思い出してしまうと無性に会いたくなってしまった。次はいつ会えるのか…もし会えたのならば抱きしめて欲しいなあなどと考えていると、ハッと閃いた。
日頃の感謝を花束で伝えたい。と

「ねぇ、恋。父さんに花を贈ろうかなとおもうんだけど、どれがいいかな?」

「その辺の雑草でいいんじゃないか?」

「さてはお主、父さんのこと嫌いだな?」

「まぁ、否定はしないが…」

あ、否定しないんだ。とその場にいた者は同じ感想を抱いていた。夢は自分の親のことを嫌いと言われていい気分じゃないだろう、とフォローする気満々でハルよ様子を窺うが、ハルは「そっかー。たしかにうざったいよなぁ」と頷いて賛同していたのでこれは二人にとって通常のやり取りなのだと知った。ならばもう突っ込むのはやめようと目の前にあった花を眺めることにした。

「事実、ハルから貰うものは例えケンタロウスの糞でも喜ぶと思うぞ」

「それは、流石に…」


「そうかもだけどさぁ」

「あ、はい。もう突っ込むのやめときますね」


藍も夢と同じように目の前にあった花を眺めたり、夢と綺麗だねなどと他愛のない話をして過ごし始めた

「やっぱり、こう、感謝を伝えるのって花がいいじゃん!?定番だし!」

「でも、いつ会えるか分からないのに花束用意したら枯れるんじゃないか?」


「アッソウデシタ」

ハル自身もつい先ほどまでいつ会えるか分からないと考えていたのに、すっぽりと忘れていた。恥ずかしくなってえへへと笑いながら俯いていると、店員さんが提案してくれた

「でしたら押し花での贈り物はどうですか?」

「押し花…」

「はい。花束より豪華さは欠けてしまうかもしれませんが、色とりどりで華やかさはありますよ。このようにアクリルの置き物や、今ではレジンを使用したアクセサリーなどがありますよ」

「はわわ!きゃ、きゃわいい…っ!」

店員さんが持ってきてくれた品物はどれも可愛らしく上品な物であった。定番の栞にするか…いや本を大量に読む姿見たことないな…置き物は…今家にいないし…そもそもどこにいるの?謎すぎる。アクセサリーかぁ…指輪ネックレスピアス…ううーん?違うような…と悶々と悩むハル。次々と見ていく中でふと目に止まる物があった。
ヘアピンだ。三つのレジンが付いており中には赤や黄色、青など小さい花が入っていた。そういえば父さんもヘアピンみたいなのしてたような…と姿を思い出し、小ぶりのヘアピンなら邪魔にならないだろうと結論を出し、それを購入することに決めた。

店員さんが会計と商品を包みに店内へ入っていくのを見届けてから、みんなの元へと戻る。恋は良かったなと頭を撫でて迎えてくれた。後の二人は花の感想を言い合っていた。
終わったことを告げようとそちらへ向かう途中で、一つの花が視界に入る。
主張が強かったわけではない。ただ、なんとなく、目に入ったその花をハルはただ静かに眺める

「これは…」

「アネモネですね」


「?!?!?!」

耳元で突然呟かれた声にハルは驚きを隠せなかった。呆然としていたから驚きも通常より倍で大袈裟に肩が跳ねたのが自分でもわかる。恋が笑いを堪えているのがその証拠だ。

「び、びっくりしたぁ…」

「突然お声がけしてしまいすみません…」


「い、いやいやいや!あたしがぼーとしてただけだから!気にしないで!」

しゅん…と項垂れる藍にハルは手や頭をブンブンと力の限り振る。そんな姿に藍はそろりと顔を上げて、ニコッと笑ってくれた。ハルは思わず心臓を押さえる。
これがギャップ萌えってやつか…?

「それにしてもハルさん、アネモネをお買いに?」

「え、あ、ううん。そうじゃないんだ。ただなんとなく目に入っただけで」

「そうですか。もしお買い上げになられるのでしたら贈る相手には気をつけた方が良いことをお伝えしようかと思ったので」


「え?なんで?」

「アネモネの花言葉は、はかない恋・恋の苦しみ・見捨てられた・見放された……らしいですからね」


「あ、い…?」

言い終わった瞬間、藍の顔から表情が消えたように見えた。先程の笑顔が嘘のように削ぎ落とされた表情…しかしその目には微かながら感情がこもっているように感じる。あれは…怒り…?と考えている間にも、パッといつもの表情に戻り、何事もなかったかのように話し出す。
見間違えかと思ったが、どうしても藍のあの目が忘れられなかった。

「花に、詳しいんだね…」

「えぇ…はい。そうですね。昔の知人が花に詳しかったもので…その影響でしょうかね」


そう言ってニッコリと微笑む表情を見て、これ以上は話さない踏み込まないで欲しいと感じたハルは笑顔でそうなんだとだけ返してこの話は終えた。

「おまたせしました」

店員の声掛けにより気まずい空気は霧散し、ハルは返事をして店員の方へ駆け寄る。その際にチラリと藍を見るが、にこやかに手を振っており少しホッと安堵した。

「お品物こちらになります」

「素敵!ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそ。お買い上げありがとうございます」

ヘアピンへ加工された品物を見てハルは表情を明るくし、支払いをして礼を述べてからそれを大事そうに抱えて、待っているみんなの元へ駆け寄って行った。
早く創に会えることが待ち遠しくなり紙袋を持つ手に力が入り、くしゃりとシワができていた。





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