ポケモンを探し続けて30分。ハルはゲットに至る前にポケモンにすら遭遇できていない状況に陥っていた。砂漠の中を歩き回ったおかげで靴の中は砂が大量に入っており、このままでは気持ち悪いので休憩をとることにした。
「なんでだ…なんでポケモンに出会えないんだ…」
「それはハル…お前の顔が…ブフッ」「え?なに?あたしの顔?あたしの顔で笑ってんの?なにこいつひどくない?夢えも〜ん!」
肩を震わせながら笑っている恋にいじめだ!と言わんばかりに夢に助けを求めた。夢は、ふふと微笑みながらハルの頭を優しく撫でた。
「でもハルさんの顔、すごかったよ」「まじか」
「鬼みたいやったで」「うっせえ!」
「理不尽!」でも俺めげへん!と目を輝かせながら1人、天にそう告げている花火を無視してハルはそんなに怖かったかなと思いつつ両手で顔をぐにぐに揉む
ちらりと希色を見れば、夢が作ってくれたスイーツを大量に胃の中に収めているところだった。胃の大きさは変わらずなので微笑ましく見つめる。画的には微笑ましくないが。
ハルは後ろのフェンスにガシャンと少し大きな音をたてながら寄りかかる。上を見れば青い空が視界に広がる。なんで出てこないかな〜…なんて項垂れていると恋に肩を揺すられた
「うぇっ、なに?」
「念願のお客様がきたぞ」指をさした方を見れば、こちらに闘争心むき出しのメグロコがいた。鼻息を荒くし、片方の前足で砂を蹴る姿は誰がどう見てもやる気満々だった。
そんなメグロコを見て、ハルの口角が徐々に上がるのがわかった。ちらりと希色を見れば、小さなケーキを食べながらやる気満々のオーラを放っていた。いや、食べるのやめなよ
「えーと、メグロコ…闘う、よね?」
『ロコォ!』
「だよね…だよねだよね!よーし、希色!」
『う、ん!いけるよ!』食べていたケーキを胃におさめた希色は原型に戻ってハルの前に立った。
その瞬間、空気が一気に張り詰めた。バトルが始まる前のこの緊張感…。ハルは未だに少しだけ怖気付くこともあるが、それでも胸が高鳴るのだ。今からバトルが始まるのだ、とワクワクする。
そんな緊張感の中、先に動き出したのはメグロコだった。
メグロコは希色に向かってきて、大きな口を開けてかみつこうとしてきた
「希色、ジャンプして避けて!そのままアイアンテール!」
ジャンプして避けたことにより、メグロコのかみつくは失敗に終わった。そして、その頭上で尻尾を銀色に輝かせて、メグロコの頭にアイアンテールをヒットさせる。
メグロコは痛みに唸りながらも希色から距離をとった。そして、一鳴きしてから地中へと潜っていった
「ゲッあなをほる?!」
効果抜群じゃん!と焦る。希色もどこから現れるのか分からず、あたりを忙しなく見渡す。ハルは必死に思考を巡らせる。
こういう時どうしたらいい?こういう時…あっ!
「希色、音!音に集中してみて!」
『う、ん!やっ、てみる!』そう言って希色は目を閉じ、集中させた。ハルはアニポケのサトシがやっていた戦法を思い出し、同じような指示を出した。しかしよくよく考えれば、あれはアニメであったからできたことで実際はできないんじゃないかと少し不安になる。
しかし、希色はそんな不安を吹き飛ばした。後方から微かに砂が崩れる音を感知し、前方へと避ければ、希色の読み通りメグロコが出てきたのだ。後ろ足を少々掠ったが支障はない。
す、すごい!アニメみたい!と1人興奮するハル
「よーし、決めよう!にらみつけるからのたいあたり!」
普段希色から想像できない睨みからメグロコの防御力を下げた。こんな顔もできるのか…と1人感心するハル。そして、少し怯えたメグロコにたいあたりとは思えないほどの勢いで突撃した。
『ロコォーー!』
勢いよく飛ばされたメグロコは目を回す一本手前だった。ゲットするには瀕死にさせてはいけない。現実でもゲームと同じルールだった
「ハル、今の内だ」恋から投げて渡されたモンスターボールを見事キャッチし、メグロコを見る。
初めてのゲットになるかもしれないこの一瞬…ハルは今までにないくらい緊張していた。手汗もひどく、何度も服で拭った。そして、一息ついてからモンスターボールを片手に持った
「いっけぇええ!ハイパーミラクルデンジャラススーパー無敵モンスターボール!!」
「えっ、なんやその掛け声!?」「最高に意味がわからないね」「ブッフォ!」周りからの声は緊張マックスのハルの耳には入っていかなかった。
意味不明な掛け声とともに投げられたボールはまっすぐメグロコの方へ…
「いや、高すぎないか?」笑いをこらえた声で言ったとおり、ハルが投げたボールは高い位置にいた。これではメグロコにボールが当たらない。ボール投げ失敗したのだ。それに気づいたハルと希色以外のメンバーは、ブッフォと笑い始めた
「わ、笑うな!!」
顔を真っ赤にさせて怒るが、3人はまだ笑い続ける。希色は次頑張ろ?と慰めてくれる。あたしの味方は希色だけだよ…と思って、モンスターボールを手に持った
「…あっ」
先ほど投げたモンスターボールはまだ飛び続けており、しかもその先には男の人が立っていた。
このままでぶつかってしまうと思い、ハルは大きな声で注意を促した
「すっみませーーーん!そっちにあたしが投げたモンスターボールが飛んでますーー!避けてくださー…」
最後まで言い終わらずにボールは男の人の頭に当たった。やばっ、と思い、謝罪のため慌てて駆けよろうとすると
「えっ」
モンスターボールが開き、赤い光に男の人が包まれ、そしてそのままボールの中へと吸い込まれてしまった。
モンスターボールはそのまま地面に二、三回バウンドし、カタカタと揺れてから、ポンッという音がなった。この音は無事ゲットしたというお知らせである。
「えっ………え??」
ハルの目の前にモンスターボールが転がった
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