ライブキャスターを見ながらヒウンシティを歩く。この街は相も変わらず人々が忙しく歩いている。でも、二日前よりかは人が減っている気がする。やはり、あのイワパレスたちが通行を邪魔してたからなのか


「ここ、かな?」


画面に表示されている地図を頼りに歩くこと5分。一つの建物の前にハルたちは辿り着いた。
先ほどベッドの上で眠っている希色を見ていたら、後ろのカーテンがシャっと開いた。その音を聞いたハルは振り向くと、そこに恋が立っていた。


「ヒウンジムのジムリーダーから電話きてるぞ」

「アーティさんから?」

なんの用だろうと思い、立ち上がる。出て行く前に希色の頭をもう一度サラリと撫でてから病室を出る。ロビーに設置されてあるテレビ電話の受話器を受け取る


「もしもし、ハルですけど」


受話器を耳にあてて画面を見る。画面いっぱいに茶色が広がってて、なんじゃこりゃと思っていると、茶色のがなくなり、代わりにアーティの顔が画面いっぱいに広がった。あの茶色はアーティの髪の毛だったようだ…


「あ!ハルちゃん?この後時間ある?」

「え、あ、はい。ありますけど…」


上に飾られている時計をチラリと見てから頷く。するとアーティが本当?と表情が明るくなった。ハルは少し引きつつも再度頷く。


「じゃあ、僕のアトリエに来てね。よろしくね」

「…えっちょ、まっ!」


静止の言葉をかけるが相手は聞く耳を持たずのようで、ガチャリと電話を切られた
ハルは真っ黒の画面を見つめてから、ワナワナと震える。持っている受話器が握り潰されるんじゃないかってくらいに力が入っていた


「アトリエって、どこじゃー!」


思わず叫んでしまい、ジョーイさんに怒られてしまった。これも全部アーティさんのせいだからね。
そのあとはジョーイさんにアトリエはどこにあるのか聞くと、ジョーイさんはハルのライブキャスターに地図を送ってくれた。ハルは礼を述べてから、目的地へと足を運んだのだった。


「入って、いいのかな」


少しばかり静かな場所に建っているここは入っていいのだろうかと悩んでしまう。しかし、彼から来いと言ってきたのだから入っていいんだよね、と自分に言い聞かせる
そして、縦長のドアノブを掴み、手前に引く

建物の中に入って、ハルは目を大きく開ける。アトリエと聞いてたので絵を描くためのところだと思っていたのだが、実際は小さな美術館のような場所だった
壁にたくさんの絵が飾られている。絵の内容は自然の風景や人物などもあるが、殆どはポケモンたちの絵だった


「すっご…」

『へぇ…綺麗な絵だね』


ボールから出てきた夢はゆるりとハルの頭に乗っかる。共に見ているのは2匹のチラーミィが互いに寄りかかりあって眠っている作品。濃い灰色の中に薄いピンクなどが混じっており、また木々の下で眠っているチラーミィの絵はとても可愛い。


「ほえー、たまげたわ〜」

「こっちのクルマユたちもかわいいね」

『このママンボウは美しいね』


いろんな作品を見てはそれぞれ感想を言い合う。どの作品も綺麗で温かみを感じる。それが好きでハルは少しずつテンションが上がっていった。ふと恋を見ると彼は一つの作品を見ていた。
なにを見てるのか気になったハルは彼の方へ行こうとするが、後方から声が聞こえた


「あ、ハルちゃん、来てくれたんだねー」


後ろを見れば、アーティとハハコモリが立っていた。彼の腕はギプスがされており、少しハハコモリに支えられながら歩いていた。まだ完治してないのだろう。彼に負担をかけさせないよう、ハルはアーティの元へ走っていく
それに続き、花火も恋に一声かけてからハルの後ろをついていく。恋は少女が6匹のポケモンに囲まれている絵を目に焼き付けるかのように見てから背を向け、ハルの後を追う


「アーティさん、大丈夫なんですか…その…怪我は」

「あーうん、なんとかねぇ。怪我をしててもジムは運営しなきゃいけないし面倒臭いたらありゃしないよ」


怪我をしていない方の手で頭をガリガリと掻く。ハルがそれに愛想笑いをしてれば、アーティはそうだと言って一つの作品をハハコモリに手伝ってもらいながら取り出す


「今回君たちを呼んだのには2つ理由がある」

「2つ?」

「そう、一つ目はこれ」


ハルたちに見えないよう裏にしていた作品を表に返す。ハルはその作品を見て、驚きのあまり言葉が出なかった
ぱくぱくと口を金魚のように開閉し、絵とアーティを交互に見る


「本当は最初に許可は貰ってから描くものなんだけど、なかなか会う機会も無いし、記憶が新鮮なまま描きたくてね。何も言わずに描いてしまったよ。しかもポケモンたちに手伝ってもらってね」


アハハ、と笑うがハルはそれどころではない。その絵に釘付け状態だった

その作品は周りにオレンジ色や黄色など暖色系の色で普通に塗られていたり、筆のタッチで色をつけてあった。そしてその紙の中心には、女の子とルクシオが抱きしめ合っていた。これは言わずもがな、ハルと希色であった。水彩絵の具で軽く綺麗に塗られているその絵は温かみを感じた


「…よく描けてるでしょ」

「……は、い」

「テーマは絆。君たちの絆に僕の芸術家魂が揺さぶられたよ。おかげさまでこんなに素敵な作品が描けた」


ありがとう。と言われ、ハルは頭を振ることが出来ずにいた。温かな絵を見てハルは泣きそうになった。単に自分を題材に絵を描いてくれたからではない。
絆などはあやふやな感覚でしかなかったが、このように形にしてくれたことで、しかも他者が表現してくれたことで、ちゃんと絆があるものだと確信できた


「……あり、がとうございます」


こんな素敵な作品を、描いてくださって
嬉しそうに微笑むハルにつられて、アーティも軽く微笑む



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