希色がイワパレスに攻撃を仕掛ける。しかし、どんなに攻撃しても相手にはあまり通じていなかった。それでも諦めずに攻撃をする。何度も何度も、同じ技で攻撃する

『きいくん!』

もう一度スパークを仕掛けようとすると、いい加減にうざったくなったのか、イワパレスが希色をハサミで吹き飛ばす
モロにくらった希色は地面を2、3度跳ねてから止まる。ぐったりと横たわった希色にハルが駆け寄る

「希色!希色しっかりして!」

抱きかかえてゆさゆさと揺すれば、希色は薄く目を開ける。ホッと息をつくと、希色はハルの腕から抜け出し、またイワパレス達へ体を向ける。彼の体は満身創痍だ
そんな彼を慌てて止める

「もう、無理だって!そんな体じゃ…」

『で、きる!』

キッとハルを睨みつける。希色がこのように頑固で反抗的な姿を今まで一度も見たこと無い。思わず手を引きそうになる。でも、彼の満身創痍な姿で戦わすわけにはいかない。こちらも食い下がる

「出来ないよ!そんな体じゃ!」

『だい、じょ、ぶ!で、きる!』

「無理だって!戦えないよ!」

『たた、かえ、る!』

「でもっ…!」

『ハル!おれ、を、信じて!!』


頭がクラリとした。信じて、その言葉が頭の中で繰り返し再生させる。希色の言葉と目を、小さく震えている姿を見て、ハルは頭を抱えた

何やっているんだ。馬鹿じゃないのか。決意したじゃないか。どんなことが起きようとみんなを信じる、と
それなのにあたしとしたら、希色を信じてやれなかった。ジム戦の時からだ。彼が傷つく姿を見て、勝手に怖じ気つき、ボールに戻した。まだ戦えると言う目をしていたのに。

結局はあたしは一歩踏み出せていなかった。また彼らが傷ついたらどうしよう?もう怖い目に遭いたくない?バトルが怖くなった?
アホか。あたしより遥かに小さい子が、傷つきながらもバトルしてるというのに。震えている身体で一生懸命戦おうとしているのに、あたしは何を考えているんだ

ハルは俯きながら希色に問う


「本当に大丈夫?」

『う、ん!』

「相手は強いよ」

『わか、てる!』

「痛い目にあうかもよ」

『かくご、のう、え!』

「そんな体で戦えるの」

『たた、かう!』

「なら…」

スッと立ち上がる。息を深く吸って、吐く。胸に手を当てる。動悸が早い。深呼吸をして少し落ち着かせる。そして、ある程度落ち着いたところで、ハルはよしっと呟くと両頬を目一杯の力で両手で叩く
バシィンと大きな音が響く。希色は目をまん丸としていた。そんな希色に、ニッと笑いかける

「一緒に戦おう、希色!」

『っっ!う、ん!』

頬がヒリヒリと痛い。でも、希色の明る返事と笑顔でそんな痛みも吹き飛ぶ。手の震えは少しおさまっていた。未だに暴れているイワパレス達を見る。やはり、怖いものは怖い。それでも、やるときはやらなきゃならないんだ

ちらりと後ろを見る。ハルの後ろには恋がおり、そのさらに後ろにはアーティさんが気絶している。アーティさんを見てから恋に視線を移す


「恋、アーティさんを頼むね」

「ああ、気をつけろよ」

「…うん」

ひとつ頷いてピースサインを送る。恋はフッと笑って、同じようにピースサインをする。ハルはヘラリと笑い、希色を見る。

「さて…と、希色。一丁やりますか!」

そう声をかければ希色は元気よく頷く。そして、イワパレス達に向かって威嚇をする。一匹のイワパレスがこちらに気づき、突進してきた。希色がそんなイワパレスに先ほどと同様に攻撃を仕掛ける
でも、もう誰も止めなかった。ハルも花火も夢も

「希色、そのイワパレスに向かってスパーク!」

バチィと電気を纏いイワパレスに突っ込んで行く。きっとこのままだと通用しないだろう。そんなことは分かっている。
だけど、戦いたい。もう、負けたくない。もう、置いていかれたくない。ハルを護りたい
その一心で相手に突っ込んでいく

『う、お、オオオォオオッ!!』

雄叫びを上げて、イワパレスとぶつかる。辺りにガァンッと音が鳴り響く。イワパレスと希色の頭で押し合う。
力の差では断然に希色が不利である。きっと体の限界はきている。それでも歯を食いしばり、手足に力を入れて踏ん張っている

出来るなら、加勢をしたい。しかし、夢も花火もアーティさんのポケモンたちも自分が相手するイワパレスで手一杯だった。
何よりこれは希色の戦いである。手を出すなど不粋な真似はしてはいけない、とみんなが感じとっていた

『ぐっ……ぅうううっ!』

苦しそうな声がハルの耳に入る。今すぐ助けに行きたい衝動を必死に抑える。ぐっと握った拳は血の気が無くなり白くなっている。
ズリッと希色が後退している。いや、イワパレスに押されていた。もう力が出ないのだろう。必死に堪えようと爪をたてるが、地面には爪で引っ掻いた跡しか残らない。
もう、ダメかもしれない。そう希色が思った時にハルは口を開く


「希色!今、残ってる力で、相手を押して!!」

他人から聞けば、なんて惨いことを言うんだと思うだろう。それもそうだ。ボロボロのコリンクが自分よりはるかに大きいイワパレスに押されているのに、まだ戦えと言ってるのだから

「押して、押して、押しまくれ!!」

でもそんな言葉が希色にとっては何よりの応援の声だった。諦めていた心に喝を入れ、再度手足に力を入れ直す。押されていた小さな体はまたぴたりと止まる

「希色ォッ!」

『オオオオオオオオオオオオッ!!』

ハルが希色の名前を叫び、それに答えるように希色は大声を荒らげる
すると、突然希色の体が眩い光に包み込まれる。その光の眩しさに辺りにいる者は目を眩まし、動きを止める。ハルは光の発信源である希色を見ようとするが、光が強すぎて見ることが出来なかった

途中でガシャーン!と物音が聞こえる。それと同時に光は徐々に収まっていく。光が完全におさまった頃にハルは目を開く。
まず、希色と押し合いをしていたイワパレスが近くのフェンスに体を預けていた。きっと押し合いに負けたのだろう。そして…


「……き、いろ?」

希色のいた場所には山吹色の小さなコリンクはおらず、代わりに黒い立派なたてがみと、コリンク時より一回り大きくなり、目をキリッと釣り上げたポケモン……ルクシオがそこにいた
ハルが名前を呼べば、ルクシオはコクリと頷いた。




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