一斉にこちらを襲ってくるイワパレスたち。負けるな怖くないと自分に言い聞かせて、夢と花火にそれぞれ指示を出す
「花火はほえる!夢はさいみんじゅつ!」
「クルマユとハハコモリ、くさぶえ!」
低い鳴き声で相手に吠えるとイワパレスたちは一瞬たじろいだ。その隙に、相手を眠らせる。さいみんじゅつもくさぶえも命中率がいいものでは無いが、一瞬動きが止まった相手なら当てることも容易くなる。
実際に三体のイワパレスに命中し、眠らせることが出来た
「よし…この調子であと2体も眠らせよう」
「はい!」
また先ほどと同じように吠えてから眠らせようと考えた。でも、現実はそう甘くない
花火に指示を出そうとした瞬間に、ハルの横を何かが吹っ飛んでいく
「……え」
何が起きたか分からない。後ろでガシャーンとけたたましい音が鳴り響く。ゆっくりと横を見るとそこにはアーティさんはおらず、代わりに一体のイワパレスがいた
『ハルちゃんっ!』ギョロリと充血した目と合う。少し視線を上にずらせばイワパレスのハサミが天を向いていた。あ、やばいと思うと後ろから強く引っ張られた。そしてそのまま誰かに抱きしめられたまま、後ろへ倒れる。
ハルがいた場所は既にハサミが振り下ろされており、コンクリートの道路を抉っていた
「チッ…」頭上から舌打ちが聞こえ、そちらを見れば恋の顔があった。彼がハルを助けてくれた。ハルは震える声で礼を述べる。
「れ、恋、あり、がとう…」
「ああ。怪我は無いか?」「だい、じょうぶ」
視線をもう一度前へ戻すと、ハハコモリがハルにハサミを振り下ろしたイワパレスを攻撃していた。ハハコモリだけではない。花火も夢も攻撃に切り替えていた
「…今のあいつらに状態異常の技は効かないらしいな」ほら、と指をさされた方を見れば、先ほどアーティさんと協力して眠らせたイワパレスたちは自力で状態異常を治していた。ねむり状態は自然と目を覚ますが、これはそうじゃ無かった。眠ってすぐに目を覚ましていた。これは本当に尋常じゃなかった
「そ、うだ、アーティさん…アーティさんは?!」
自分の横にいたアーティさんが居なくなっていた事に気がつき、彼の姿を探す
すると後ろから、うう…と呻き声が聞こえた。振り返ればフェンスに体を預けたまま座っているアーティさんがいた。急いで駆け寄れば、彼は腕を強くおさえていた
「あ、アーティさ、大丈夫ですか…?!」
「ハルちゃん…う、んちょっとね…見事に、吹っ飛ばされたよ…お陰様で…ほら」
そう言うと彼はおさえていた腕を見せた。だらんとした腕が見えた。脱力してるのでは無い。彼の腕がさっきのイワパレスの突進によりイカれてしまったのだ
顔をサー…と蒼くする。アーティさんの頭がフラフラしている。きっと頭も強く打ったのだろう
「大変…もうしわけ、ないんだけど…この場を、君に……まか、せ…るね…」
そしてそのままアーティはガクッと気を失った。ハルは声が出ず、ただ呆然とアーティを見る。すると、恋がアーティの腕をその辺に落ちていた鉄の棒で固定し、応急処置をする
手が大袈裟に震えている。冷や汗が止まらない。任せるも何も、こんなの無理だ。あたしに出来るわけ無いじゃないか
「……ハル」「無理だよ…出来っこないよ…こわいよ…」
後ろで花火たちが一生懸命戦っているのは分かる。それでも体は動かない。口を開けば、怖いしか出てこない。そんな震える手を恋が優しく包み込む
「……今すごく、怖いかもしれない。無理だと思うかもしれない。だが、それでもやらなきゃいけない時もある」「でっ、でも!」
言い返そうとしたその時。腰からポンっと音が聞こえた。それはモンスターボールが開く音。腰には3つのボールがついている。そのうち2つは今、イワパレス達と戦っている。つまり、残るひとつは
「き、希色っ!!」
山吹色の小さなポケモンが暴れまわっているイワパレス達へと向かっていく。先ほども述べた通り、希色の傷は癒えていない。ジム戦のダメージが残ったままである。
そんな体でイワパレス達に挑むのは無謀にも程がある
ハルは静止の言葉をかけるがそんなのは一切無視してイワパレス達に飛び込む。これには花火と夢も酷く驚いていた
『きい君!危ないで!はよ、引きぃ!』『希色君、下りな…!』『い、やだ!』二人がどんなに止めても希色はイワパレスたちと戦う。どう見ても希色がおされていることは分かる。実力も図体もイワパレスの方が上だ。今の希色が勝てるわけが無い
「希色!無理だよ!戻っておいで!」
『駄々こねへんで、はよ!』『いい子だから、さ!早く戻りな…っ!』『いやだぁ!!』もう嫌なんだ。負けるのも護られるのも
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