「一丁気合い入れるよ!希色、チャージビーム!」
バトルが開始と共に自分に気合いを入れる。それと同時に事前に本で調べた技の指示を出す。一旦電気を溜めてから相手に放つ。イシズマイへと一本の電撃の道が出来る
「イシズマイ、自分にすなじごく」
ゴォ!と凄まじい音を立ててイシズマイの周りに砂嵐が出来る。地面に電気は通じないため、チャージビームは砂嵐によって相殺されてしまった
「それじゃあ…希色、かみつく!」
「からにこもる」
砂嵐が消えた頃に再度指示を出す。小さな牙をむき出しにしてイシズマイへと向かうが、希色がかみつく前に殻にこもった。そのため、希色は殻にかみついた。やはりと言うべきか殻は硬く、涙目になっていひゃい…と訴えた
「ロックブラスト!」
隙を見逃さなかったアーティさんは近距離で攻撃を仕掛けた。最高五回まで攻撃出来る技はそうそう五回まで当たらない。だが近距離だったせいかイシズマイが繰り出すロックブラストは五回も当たってしまった
『ぐ、ぅう…!』威力はそこまで高くないが最大まで技が当たるのはとても厳しい。希色の苦しそうな声を聞いて、ハルは少し血の気が引いた。
やばい。どうしよう。
ぐるぐる頭が回る感覚がした。次に出す指示が思いつかない。また、なのか
「イシズマイ、れんぞくぎり!」
「っ!き、希色、避けて!」
ハッと意識を戻し、咄嗟に避ける指示を出す。希色はイシズマイのれんぞくぎりをジャンプして避ける。地面に着地し、そのまま後退してイシズマイと距離をとる
希色の息遣いが荒くなっている。先ほどのロックブラストが効いているようだった
「希色、スパーク!」
「いわなだれ!」
電気を纏い相手に突っ込んで行くが、空から岩が降ってくる。希色は降ってくる岩を横へジャンプして回避した。だが、回避した先にイシズマイが待ち構えていた
「なっ、き、いろ、よけっ」
「イシズマイ、きりさくだ」
避けようにも希色は今、地に足がついていなかった。宙を浮かぶポケモンでない限りこの状況で避けることは不可。その結果、希色はイシズマイのきりさくが直撃し、後方へと飛ぶ
「希色!」
限界が近い希色は起き上がるのにも精一杯だった。そんな苦しそうな希色を見て冷や汗を掻く。アーティさんはイシズマイに指示を出さない。今ここで攻撃をすれば希色は戦闘不能になるだろう。それはこの場にいる者なら誰でも分かる事だった。しかしアーティさんは何も言わなかった。
ただ静かに此方を伺っている。さて君はどうする?と目で訴えかけてくる
「ご、ごめん、希色…。戻って!」
『…えっ』初めて一匹も倒せずに交代をした。なんだか、すごく申し訳なくなった。上手く指示出せなくてごめんね…。そう希色の入ったボールに言えば、コトリと静かに動いた
もう一度ごめんと謝ってから、もう片方の手で花火のボールを持つ
『ハルちゃん、大丈夫かいな?』「?なんで…?」
『なんでって…手、震えてるで?』「え……?」
花火の言う通り、手が震えていた。気がつかなかった。自分の手なのに震えていることにさえ気がつかないほど動揺していた
何に?何に動揺した?アーティさんの強さに?それもあるだろう。けれど違う。他に何か…
「チャレンジャー?早くポケモンを…」
「えっ、あっはい!すみません!」
審判に声を掛けられ、肩が跳ねた。審判とアーティさんに謝り、気持ちを切り替える。手の震えも少しずつおさまっていく。
よし、と意を決して、ボールを宙に放とうとした時。ドタバタとジムトレーナーがフィールドに現れた
「どうしたんだい?今はバトル中だけど」
「バトル中にすみません!でもアーティさん、緊急事態です!」
「緊急事態?」
「はいっ!四番道路で、イワパレス達が、暴れているんです!」
「…分かった。ごめん、ハルちゃん。バトルを中止してもいいかな」
ジムトレーナーの慌てようから本当に緊急事態なんだと察したハルは、返事と共に頷いた。アーティさんはありがとうとお辞儀をしたのでハルも慌てて首を横に振った
『なーんや。バトル中止かいな〜』「しょうがないよ、大変そうだし」
眉を下げて笑うハルは花火の入ったボールを静かに戻す。未だに不満の声を上げる花火に少し笑みがこぼれる。ふー…と息を吐くと恋が後ろからやってくる。振り向こうとすれば、頭を恋によっておさえられた。
「れ、恋…?」
「…落ち着け」そう言ってから頭を優しく撫でてきた。
たった一言だ。だがその一言がハルにとって救いの言葉だった。
バトルの最中に脳裏に浮かんでくる赤髪の女性…アカネ。今回のジム戦が彼女と戦ったバトルを思い出させた。全く違うのに。怖くて仕方なかった
ハルは唇を噛み締め、弱々しく頷いた
「ごめん、ハルちゃん」
頭上から名前を呼ばれ、顔を上げる。そこには困ったように笑うアーティさんがいた。そう言えば、困った笑いしか見てない気がするなー
「ちょっと着いてきてくれないかな?」
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