呆然と壁を見つめるハル。へたりと脱力して座っていた。モンスターボールから心配する声が聞こえるが、それに答えられないほど頭の中は真っ白だった

「は、はへ…?」

先ほどから出てくる声は気抜けたものだった。言葉など何一つ出てこない。人間は本当に吃驚すると思考が停止し、反応が鈍るのか。今日いいことを知った、などと考えられなかった。
一体全体あたしに何が起こったと言うの。あの時、あたしは繭に寄りかかった。すると、すごい力で引っ張られた。それから、いつの間にかこの様に座っている。なるほど。分からん

「よっ…と」

「!れ、れれれ、れんんんん!」

「お、おお…」

「い、いまままま!!あああああの、ままままゆ!でででっ!」

背後から恋の声が聞こえ、すごい勢いで振り返った。その際に少し恋が引いたが、そんなの気にしてられない。とりあえず恋に状況説明しようとする。だが、吃驚しすぎて何を言っても吃り、上手く言えない。

「あー…ほら、落ち着けって。な?」

『ハルちゃん!深呼吸や!はい、ヒッヒッフーヒッヒッフー』

『それラマーズ法ね』

『すっ、て!はい、て!』

「ゲホゴホッみんなありがとう」

深く息を吸ったら逆に噎せたハルだが、みんなにお礼を言う。苦笑を浮かべながら恋は背中をさすってくれた。深呼吸と咳をしたことによって落ち着いてきたハルは辺りをキョロキョロと見渡した
先ほどの場所とは明らかに違った。確かに周りは白いが…繭が増えていた。何がどうなってるんだと思い、視線を下に逸らす。そこで、目を大きく開く。

「ゆ、床が浮いている…?!」

「違う違う。上に来たんだよ」


「えっ」

そろりと下を覗けば、下には確かに先ほどまで自分たちがいた場所が広がっていた。上にこれたのは嬉しいが、どうやって上に行けたのか。その疑問が頭の中を占める。
そんな疑問に答えるように恋はコンコンと繭を叩いた

「こいつさ」

「ま、繭?」

「そっ。この繭のなかに入ると吸い込まれ、ワープ的な感じで上へと行ける仕組みだったんだ」

「お、おっふ」

あまり分かっていないが、ハルはとりあえず頷いておく。しかし恋はハルが理解してないことぐらい見て分かった。現実味ないのは仕方ないことだ。と笑ってくれた

まぁ、この世界に来たことでさえ現実味の無い話だ。けれどそれはそれ。これはこれと一旦置いておこう。
繭に吸い込まれてそのまま上へワープなんて…。少し…いやかなり疑いの目を向けたくなる。しかし、よく考えて見れば悪の組織のアジトにクルクル回ってワープする装置もあるのだから、これもありなんだろう。

どっちにしろ自分がいた世界ではあり得ない話だ


「とりあえずこの繭を通じて上に行けばいいってことだね?」

「そういうことになるな」


よーし。
さっきは心の準備も出来ずに吸い込まれて呆然としたが、もうこのジムの仕組みも分かった。次からはさっきみたいなことにはならないだろう。もう一度気合を入れ直す。上で待っているジムリーダーのアーティさんを目指し、歩みを進める


よいしょと繭から出てきたハルは綺麗に着地をする。最初は意識してなかったが、繭から出てくる時に意外と勢いがあるため着地が難しかった。気合い入れて繭に入ったのに出てくるときは予想だにしなかった勢いのせいで、出てきた瞬間に顔面から転んでしまった。
しかも、トレーナーの真ん前で、だ。
すごく気まずい空気が流れた。後ろでは恋が笑っている。ハルはこれほど恥ずかしさで死にたいと思ったことはないだろう。トレーナーは少し吃りつつも空気を読んでか控えめに、バトルする?と聞いてきた。
ハルは控えめに頷いてジムトレーナーとバトルをしたのだった


「おっとっと……お、今の綺麗じゃね?」

「最初よりかは良くなってるな…ぶふ」


「思い出し笑いやめろ」

『いや〜!あの見事な転び方…すごかったで〜!』

『なかなか見れないもんね』

「もうやめて!!」

聞きたくないと言わんばかりに両耳を手で塞ぐ。無かったことにしたかったのに奴らはそうはさせてくれなかった。いつかお返ししてやると密かに決意をする。
未だに耳を塞いだまま上を見る。視界に広がるのは高い天井のみ。ここが最上階らしい。
ならばアーティさんがいるよね、と思い辺りを見渡そうとした。すると背後から、ハァ〜と深い溜め息が聞こえた。

後ろを見ればアーティさんがキャンパスを目の前にして、うーんうーんと唸っていた。これは声を掛けていいのだろうかと恋と目を合わせた。
暫くしてアーティさんがハルたちのことに気がつき、キャンパスから視線を逸らした

「待たせちゃってごめんねー。」

「あ、いえ、大丈夫です!」

あははと笑いながらこちらへ寄ってくるアーティさんは高身長だった。恋よりかは低めだと思うが、ハルからしてみれば巨人だった。なんだか、巨人に囲まれている気分になった。
チラリとアーティさんの後ろにあるキャンパスを見た。何か描いてあるのだろうかと好奇心で見たが、そこにはただただ壁や床と同様に白かった

アーティさんはハルの視線に気づいたのか、困ったように笑う

「ボク芸術家でもあるんだけどさー…次の作品が思いつかなくて…」

はぁ…と深くため息をつく。芸術の世界はよく分からないが、アイディアがポンポンと浮かばないものなんだな…と思った。芸術家の皆さんは常にアイディアが湧き上がっているイメージがあったので少し驚いた

「あ、それよりバトルだよね?」

「は、はい!差し支えなければ…」

「大丈夫大丈夫。これ以上考えても出てこないし…気分転換しなきゃね」

そう言ってモンスターボールを持つとギラリと目つきが変わった。これまで二人のジムリーダーと戦ってきたがやはりみんな凄い。オンオフの切り替えが早すぎて、こっちが戸惑いそうになる。
ハルは花火が入ったモンスターボールを持ち、よろしくお願いしますと言って、アーティさんと対峙した

「ボクの自慢の虫ポケモンを見せてあげるよ!」

アーティさんの手から放たれたモンスターボールは宙で弧を描く。頂点に達したところでボールが二つに割れて赤い光が飛び出してきた。赤い光と共に現れたのはヤドカリのようなポケモン、イシズマイだった
意外と小さくてつぶらな瞳をしており、なかなか可愛かった

「希色、お願い!」

『まか、せて!』


希色とイシズマイが向かい合う。二匹の間には見えない火花を散らしている。きっと、あたしとアーティさんの間にも火花があるのだろう

「チャレンジャーハル対ジムリーダーアーティのジムバトルを始める!」

審判はあたしとアーティさんを交互に見て、バトル開始!と高らかに声を出し、旗をあげる。



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