ブオー
辺りに響き渡る汽笛に甲板にいたハルは徐々に見えてくるヒウンシティに気分が上昇した。あれが、ヒウンシティ。ここからでも高くそびえるビルがよく見える。早く着かないかなと心の中で急かすが船の速度は変わらない
「着いたら、まず何するん?」今まで女性にナンパしてた花火がひょっこりと帰ってきてハルにそう質問した。まだナンパに出かけて十分程度なのにもう帰ってくるなんて珍しい…と目を張るが花火の後ろに夢がおり、夢の背中に隠されている釘バットがチラリと見え、あぁ。なるほど。と納得した
夢に言われたのだろう。ナンパをいい加減にやめろ、と。その証拠に花火の顔が薄っすらと蒼くなっている。
夢と出会った一時間前までは彼はおっとりとしててハルたちのお母さん存在だった。しかし、彼はすごかった。なにが凄いのかと言うと、怒ると凄かった。おっとりしてる人が怒ると怖い、なんて話はよく聞くが、彼はそんなレベルで収まるものでなかった。
彼は怒ると大魔王に変身する。
怒ると何処から出すのか不明の釘バットを片手に説教してくるのだ。有無を言わせない雰囲気、しかも喋る速度が少しゆっくりになり声のトーンがそのままと言うのがまた怖い。逆らった先には死があるのみ。そう感じたハルたちは夢に逆らっては駄目だと決意した
ちなみに怒られてたのは花火である。正直初めてあんな恐ろしいモノに自分が遭遇したらちびる自信がある。だから、初が花火で良かったとハルは心の中でホッとしていた
そんなわけで釘バットをチラつかせば花火は顔を蒼くしてナンパをやめるのだ。うむ、これからもその方法でいくか
「ヒウンシティに着いたら…念願のヒウンアイスを食べるんだ!」
本屋で買ったヒウンシティの観光マップを広げる。雑誌の端が折られており、その紙面には大人気ヒウンアイスと書かれていた。フレーバーが何種類か用意してあり、今だけダブルが150円という驚きの価格で売られている。ハルはこれをみた瞬間に買わなくちゃと使命感に駆られたそうだ。
「あんれ…ヒウンアイスって、今人気あらへんよな?」「えっ」
「うん。二年ほど前までは大人気だったらしいけど今はそうでもないって聞いたよ」何という事だ。あの大人気で売れ切れ必須のヒウンアイスが、今では人気無い…だと?これが流行過ぎたモノの行き着く結末なのか…。そう思うとハルは悲しい気持ちになった。でも、それならヒウンアイス並ばなくても買えるじゃないか。売れ切れとか考えなくてもいいのか、と思うと先ほどまで急がせてた心がスー…と落ち着いた
「恋にぃっ、み、て!ママ、ンボ!」「あっちにはキャモメの群れが飛んでるな」「ほん、とだ!」海を見てはしゃぐ希色と、そんな希色を抱っこしている恋を見て、ハルも海に住むポケモン達が見たいなと思い、自分も恋達の近くへ寄った。ハルがその場を去ったあと、花火がそのバット出したらアカンと夢に訴えるが、夢の黒いオーラに花火は汗を滝のように流し、ナンデモアリマセンとあまりの恐怖に片言になりつつそう返した
「わ、あっちにバスラオいる!」
「そ、ち、ホエル、オーい、る!」
「はしゃぎすぎて落ちるなよ」はーい、と返事をして柵にしっかり捕まる。やはり本物のポケモン達を見るとテンションが一気に上がる。耳を澄ませば、波の音と共に聞こえてくる鳥ポケモンたちの鳴き声。潮風に揺れる髪の毛を手で抑えて、視線を海からヒウンシティに移す。先ほどよりもより近くなっており、また汽笛が鳴る。どうやらもうすぐで着くらしい。覚悟を決めてから初めて行く街。気を引き締めて行かないとね、と心の中で呟き、気合を入れる
前 | 次