持ってきた料理を3人でモグモグと美味しく食べていると、船内にアナウンスが入って来た
ー さぁ、みなさん!お待ちかねのポケモンバトルの時間です!トレーナーの皆さん!積極的にバトルをしましょう! ー
そんなアナウンスが流れれば、ホール上は歓喜に包まれた。
どうやらこの船ではポケモンバトルはショーの一貫として行われるらしい。辺りを見渡せば、みんなイキイキとポケモンバトルをしていた。どのトレーナーも、どのポケモンも、とっても楽しそうだった。
「ほっほー、こりゃ盛り上がっとるなー!」「あ、花火」
ハル達の横からヒューと口笛を吹きながら花火が現れた。名前を呼べば、ニカッと笑ってからピースサインを送ってきた。ハルもそれに応えるようにピースサインを送り、花火に料理が乗ったお皿を渡す
「花火、さっきはありがとうな……あの手の女性はどうも苦手…でな」「んー、まぁ、苦手ならしゃーないわ。また絡まれとったら、助けたるからな」バチコーンとウィンクを飛ばしてくるが、これはただ単にナンパしたいだけだろう…とハルは思いつつ、肉を頬張る。
ああ、美味しい。あまりの美味しさにハルは自然と頬を緩ませた
そして目の前で起こっているポケモンバトルを観戦する
勝っても負けても、最後は握手をして笑い合う光景を見て、ハルはなんだか感動した。ポケモンバトルを通じてポケモンとも、相手とも繋がりを得るなんて…すごいよ、この世界は
染み染みと感動して周りを見ていれば、短パン小僧と目があった。その瞬間短パン小僧はニヤリと笑い、こちらに近づいてきた。ハルは頭の中で、あ、と呟く。これは…まさか
「なあ!バトルしよーぜ!」
やはりな、と思う。目と目が合えばバトルの合図…アニメだったかゲームだったか…はたまたどちらもだったか忘れたが、確かポケモンの世界ではそれが常識だと言っていた。短パン小僧に勝負を仕掛けられ、うーんと悩む。ちらりと短パン小僧に視線を向けると彼はイキイキとしており、ハルは口角が上がるのを感じた
「売られたバトルは買うのが礼儀…だよね。みんな、一丁やりますか!」
『う、ん!』
『っしゃあ、特訓の成果見せたるわ!』残りの料理を急いで腹におさめてからボンボンの原型に戻り、短パン小僧と対峙した。彼は人がポケモンになったことを驚かなかったので、創が言ってた通り擬人化はみんな知っているんだな〜とハルは思った
相手もボールからミネズミを出し、バトル開始の合図が鳴った
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それからと言うものの、たくさんのトレーナーとバトルし、一応全て勝ち進んでいった。負けた相手は最初悔しそうに嘆いていたが、それも一瞬で握手する際には笑顔で「またしようね!」と言ってくれた
ハルもそれを笑顔で頷いた
流石にたくさんバトルをして疲れたので、また壁際によってみんなでモグモグと料理を食べていた。動いたら腹減ったんだもん!
料理を食べつつ、他人のバトルを見ているとズシッと頭に何かが乗っかってきた。ハルは驚いて噎せた。
みんなそんなハルに気づき、心配してから恋がハルの頭に乗っているやつにヒョイと持ち上げた。ハルは顔を上げて、恋が持っている物体を見た
「……ムン、ナ?」
そこには顔にお面を付けたムンナがいた
お面はうさぎの形をした可愛らしい物で、ムンナも可愛らしい容姿をしているのでそれはそれは似合っているのだけど、何故お面?
『君、噎せてたけど大丈夫?』
「え、あ、うん。平気です…?」
『そう?なら良かった』
絶対に笑った。お面のせいで表情は分からなかったが、絶対に優しい笑みを浮かべたと思われる。その証拠にムンナの纏ってる雰囲気が優しくて、お花が舞ってるように感じた
あまりの可愛さに手がワナワナと震えていれば、ムンナはふわりと恋の手から脱出して、またハルの頭の上に乗っかって来た
「なんでお面付けてるん?」おま、直球だな花火。
もし深い理由だったらどうしてくれんだよオイ。
『んー?特に意味は無いかな』
ないんかーい!
もしすごいトラウマ持ちだったら…とか考えてたあたしが馬鹿みたいじゃん!まぁ、ない事にこしたことはないけどさ…
「お、面、かっ、こいい…」
純粋な目でムンナを見つめる希色。その純粋さや可愛さにハルは、はわわとなり思わず抱き締めたくなった。そのあと希色は恋に自分も欲しいと言う目を向けたが、恋は苦笑し、頭をくしゃりと撫でた
これは買ってくれないと分かったのか、希色は頬を膨らませた
「てか、ムンナはどうしてあたし達のとこにいるの?トレーナーは?」
『トレーナーはいないよ。僕は野生なんだ』
「単身でこの船に乗って来たのか…?」『うん。そうだよ』
「それまた、どうして…?」
理由を尋ねれば、ムンナはハルの頭から離れて、ふわふわと宙を浮き、ハルの目の前に浮いた
『君達が面白そうだから着いてきたの』
「……ん?」
『僕を仲間に入れてくれないかな?』
「……お?」
ムンナが言った事に頭が追いついていけず、頭の中はこんがらっていた
えっと?なに?ムンナはなんて言った?ん?面白そう?仲間に入れて?仲間に?誰の?あたしたちの?なんで?面白そうだから?
「マジでか」
やっと絞り出せた言葉はたったそれだけ
しかし、おかげで頭の中で整理が出来た。そして、ムンナが言ったことの意味も理解した。オーケー、もう大丈夫だ。心配するな
未だ目の前でふよふよと浮遊しているムンナは『マジだよ』と優しい声色で答えてくれた
『あ、無理なら断ってね?僕はそれでも構わないから』
「いえいえいえ!滅相も御座いません!あたし達は大歓迎ですとも!ね、みんな!」
そう問いかければ、みんなは勿論!と言った顔で元気良く頷いてくれた
やっぱり素敵な家族を持ったな〜と染み染みと思い、みんなに向けていた顔をムンナに向ける
「じゃあ、ムンナはこれからあたし達の家族ね!」
『…家族?』
「そ。あたしはみんなのこと仲間じゃなくて、家族だと思ってるの。だから、ムンナも家族の仲間入りだからね!」
『………なるほど、そっか、僕も家族の仲間入りか、嬉しいよ』
またふわりと笑っただろうと思う。
お面を付けているから表情は分からないけど、ムンナは雰囲気などで今どんな表情をしてるのか、どんな感情なのかがなんとなく分かる
さて、ムンナの名前どうしようかなー
「なぁ、なぁ、自分はなんか夢かなんかあるん?」『…夢?』
「せや。野生のポケモンが自ら近づくんのは何かしら目標があるからやろ?」『……うん、そうだね。僕には夢があるよ。どうしても、叶えたい夢が』
どうしても…叶えたい、夢
そう語ったムンナに、ハルは何か違和感を感じた。その違和感の正体はよく分からないけど…それでも、何か変な感じがした。
しかし、それも一瞬でムンナは再び優しいオーラを放っていた
『あ、君達を利用したくて入ったワケじゃないからね?そこは勘違いしないでくれると助かるかな』
「大丈夫やって!な、きいたん!」
「う、ん!勘違、い、しない!」『ふふ、ありがと』
そんな微笑ましい光景にハルはいつの間にか微笑んでいた。チラリと恋を見れば彼も同じみたいで、優しい顔をして花火たちを見ていた
「よし、決まったよ!」
「?なに、が?」
「ムンナの名前!」
『僕の…?』
「そう!ムンナ、あなたの名前は…夢」
『ゆ、め?』
両手をポンと叩いて笑顔で頷いた
「単純かもしれないけど、あなたの夢が叶いますように…って意味で夢って付けたんだけど…嫌かな?」
何か考えているムンナに不安になりつつ、顔を覗き込むような形でムンナの顔…まぁ、お面を見れば、ムンナは少し下に向けていた顔を上げて、またムンナの周りにお花が舞ってるかのような優しい雰囲気を纏った
『…うん、とても気に入ったよ。ありがとう』「〜っ!うん、良かった気にいって貰えて。これからもよろしくね、夢!」
『うん、こちらこそよろしくね、ハルさんに恋さんに花火さんに希色くん』さん付けになんだか余所余所しい感じがしたが、彼がそう呼びたいなら仕方ないよねと自分に言い聞かせて、彼の頭を撫でた
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