『行くできいくん!』『う、ん!』PCにあるバトルフィールド所でハルたちはいる。花火と希色は強くなるためにハルの指示は無しで手加減無しのバトルをしている。
希色は花火に比べてバトル経験はあまり無い。だから、花火の攻撃を避けているが、完全には避けきれず当たってしまう。そのため、開始から数十分経っているが希色は既にボロボロだった
花火が休憩いるちゃうん?と聞くたびに希色は頑なにそれを拒否し続けてバトルをしている
ハルはそんな様子を見つつ、ライブキャスターでチェレンにポケモンのことについて、バトルの仕方について一から教えて貰っている
《ハルさんが言ったのもあるけど、コリンクは他にも炎の牙氷の牙スピードスター辻斬りとかも覚えているよ》
「え、そうなんですか!?メモメモ…っと」
《ガーディは朝の日差し逆鱗にどけりとかだね》
「ほうほう…」
なるほどなるほどと小さく零しつつ、小さいメモ帳にチェレンから教えてもらったことを記していく。
まだ怪我が完全に完治した訳では無いので少しでも体を動かす度に痛みが走る。
でも、それは花火も希色も同じ。二人もまだ怪我が完全に完治していない。それでも二人は強くなる為にああやってバトルしている。
トレーナーのハルがベッドの上で寝てるだけってのも変だから、ハルが今出来ること…ポケモンについて勉強をし直してるところだ。
《…ねぇ、ハルさん》
ハルがチェレンから学んだことをメモしていると名前を呼ばれたのでハルはライブキャスターに視線をやった
そこに写っていたチェレンはとても真剣で少し怪訝な顔をしていた
《…君は、どうしてそんなに強さにこだわってるんだい?》
「………」
《どうしてそんなに強くなりたいと思っているのか…僕はその理由を聞きたい》
ハルはゲームしてたから分かる。彼がハルにどうして強くなりたい理由を聞いてくるのか。
彼もまた二年前に強さだけを求めていた。でも最終的には強さだけがすべてじゃないと分かった。
そう本当の強さを知ったからこそ、彼はハルに理由を聞きたいのだろう
「…チェレンさん。ジム戦の時に言いましたよね。信頼こそ真の強さだ…って」
《あぁ…》
「あたしもそう思います。ポケモンとトレーナー。互いに信頼し合ってこそ真の強さがそこに現る。ただ単に力を求めてる奴に信頼し合っている奴には勝てない。って思ってます。あたしは、そんなトレーナーになりたいんです」
《?君たちは十分信頼し合ってただろ?》
チェレンの言葉にハルは軽く首を横に振り、バトルフィールドで未だに戦い続けている二人の姿を見た
「あたし…一瞬、信じてやれなかったんです。誰よりも信じてやらなきゃいけないあたしが…一生懸命戦ってくれているあの子たちが負けるって…。信じて、やれなかった…」
本当ならどんな場面に出会おうが、トレーナーはポケモンを最後まで信じてやらなきゃいけない。
この子なら勝てる!絶対に!って。そう信じるからこそ、トレーナーもポケモンも互いに頑張れる。勝とうって同じ意思を持つ。
お互いに強く成長し合う
だけど、ハルは強敵…アカネを目の前にして、一瞬でもあの子たちが負けるって思ってしまった。自分のために戦ってくれてるあの子たちを、一瞬でも信じてあげることが出来なかった。
信じてあげなきゃいけない所で、一緒に頑張らなきゃいけない所で、一緒に踏ん張らなきゃいけない所で、ハルは圧倒的な力の差と恐怖に負けて逃げようとした…
「本当…最低な、トレーナーだよ」
話を一旦そこで区切るとハルもチェレンも何も喋らず、しんと静かになった。
横からは希色と花火が戦っている音や二人の声がフィールド場に響く。一生懸命戦っている二人を見て、ハルはペンを握っている手に力を込めた。
「だから…だから、強く、なりたいんです…」
力を求めてるわけでも
スーパーマンになりたいわけでも
絶対的な強さを求めてるわけでもない
あたしはただ強くなりたいの
すぐに調子に乗ったこの心を、恐怖に屈したこの心を、彼らを一瞬でも信じてやれなかったこの心を、強くしたい
心を強くして、もう二度と彼らを信じてやれなかったなんてコトを無くしたい
どんな恐怖が迫り来ても、どんな危機的状況に陥っても、あたしは彼らを最後まで信じたい。いや、信じるんだ
そして…あの子たちを護りたい
「信じるため、護りたいため、あたしは強くなりたいんです」
そう揺るぎない意志を持った声で、目でチェレンに伝えれば、数秒間何か考えてから、フー…と息を吐き、なるほどねと言って優しい笑みを浮かべているチェレンが画面に映った
「ハルさんの強さを求める理由が分かったよ。ありがとうね」
「あ、いえ、そんな…」
さっきまで真剣モードに入ってたのでさほどあれだったが、今正気に戻れば、ハルがどれだけ恥ずかしいことをチェレンに言ったのか、あとあとになって思い出しては、恥ずかしくなってチェレンに見えないよう俯いて顔を赤らめた
「ハルさん。君はさっき言ったよね、最低なトレーナーだ…って」
「…はい」
「でもね、それは逆だと思うんだ。」
え?と思い、俯いてた顔を上げてキョトンとした顔で画面越しのチェレンをみれば、彼はクスクスと爽やかに笑った
「確かに最低だったかもしれない。でも、君は自分の身を犠牲にしてまでポケモンを護った。それは、最低なことかな?」
「……いいえ、」
「ね?誰だって最初は最低なトレーナーだ。最初っから心が通じあってる者はいないよ。最初は互いのことを知らなきゃいけないんだ。この人はどんな人でこのポケモンはどんなポケモンなのか。一緒にいることによってお互いがどんな者なのか分かった時に、心が通じ合う」
のしのしとチェレンの側に寄り添って来たムーランドを、彼は優しい顔で優しい笑みで見て、優しくムーランドの頭を撫でた
すると、ムーランドはとても気持ち良さそうに目を細めては、もっともっとと言ってるかのように頭をズイッと寄せて来た。チェレンはそんなムーランドに笑い、優しく撫で続けた
そんな二人を画面越しで見て、ハルはなんて微笑ましい光景なんだろう。と思うと同時に、彼らがどれだけ信頼し合っているのかが分かった
例え、言葉が通じなくとも彼らはああやって意思を疎通し、誰にも負けない強い絆がそこにあるのだ…と思った
ハルも花火や希色、恋とも強い絆を持っていると思っている。
けど、それ以上に彼らの絆は深い。時間を得て、彼らはあんなにも深い絆を得ているのかな…
一通りムーランドの頭を撫でたチェレンは、視線をムーランドからハルに移して、だからね?と言って来た
「焦らないで。ゆっくりと彼らと共に強くなればいい。自信を持って。君は、彼らにとってもう最高なトレーナーかもしれないんだから」
チェレンの言葉にハルの心が揺さぶられた。
確かにハルは少し焦り過ぎたのかもしれない。強くなることを決意してから、一刻も早く強くならなきゃいけないと思っていたのかもしれない。
でも焦っていても強くはなれない。彼らと共にゆっくりとでもいいから成長して行けばいいんだ。
それはきっと無駄なことにならない。ひとつひとつが積み重なって、あたしは、あたし達は強くなれるんだよね…
「チェレンさん…ありがとうございます。あたし…焦らず頑張ります!」
「うん、頑張ってね。それじゃあ僕そろそろ用事があるから切るね。また聞きたいことがあればいつでも連絡してくれ」
「はい!それじゃあまた!」
元気に挨拶をしてチェレンとの通話を切った。ライブキャスターはザーザーと砂嵐が流れている。
そんな画面を見てから、ハルはいつの間にかバトルを終えてお互いの前足をガッと交差させて合わせている二人を見ては優しく微笑んだ
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