スッと目が覚めれば、真っ先に目に入って来たのは真っ白い天井
ハルはここがどこか分からないので、辺りを見渡そうと少し首を動かせば、左の方から、ハル…?と名前を呼ばれた

声のした方を見れば、そこには黒いファーコートを羽織った金髪の美形がいた
普通ならきっと、誰?!とか思いパニックになるだろうが…何故かハルはパニックにならなかった。

声を聞いて、容姿を見て、雰囲気を感じて、ハルは彼が誰なのか分かった


「……恋?」


宝石にいた相棒の名前を呼べば、彼はクシャッと顔を歪めて、ギュッと優しくハルを抱き締めてきた
いきなりのことで反応が遅れたが、抱き締めてもらってると言うことに気がつき、恥ずかしくなって行き場のない手を上下に振ってワタワタとしていた

とりあえず深呼吸をして、抱きついている(仮)相棒に確認をとる


「…恋、だよね?」


チラッと彼の頭部を見れば、コクリと頷いてから、あぁと小さく肯定した
しかし彼は離れるワケでもなく、いまだにギュッと抱きしめている。そんな恋を見て、どうしようかな…と考えてこんでいれば



「……ごめんな、」


彼は耳元でそう囁いた
声は震え、抱きしめる腕の力も少し強くなっていた。彼の謝罪が、何に対しての謝罪なのか分からなかった

必死に頭を動かせ、彼が謝っている理由を探すが、よく分からない
そんなハルの思考が読めたのか、また小さく耳元で囁きはじめた


「早く、外に出れたら、お前たちが怪我を…お前が、あんな顔をしなくて済んだのに…!」



怪我?あんな顔?

そういえば、あたしはなんで怪我をしているんだ?あれ?なんでだろ?どこかで転んだっけ?事故った?

…違う。もっと、もっと、怖い思いをした

いつ?どこで?誰に?誰を?


ぐるぐると頭の中で駆け巡らせていれば、病室のドアがガララと開いた
そちらの方を見れば、ハルと同じように身体中に包帯を巻いている希色と花火がいた

彼らはハルを見るなり、目を開かせ少し驚いてから、ハル!と言ってドタバタとこちらに向かってきた

そこで、思い出した。
この怪我は、この恐怖感は、全て、あのプラズマ団の幹部…アカネにやられたものだと


思い出した瞬間、身体が震えた
彼女の冷たい目と声、圧倒的な強さ、不敵な笑み、大声で笑う姿、容赦無い攻撃、威圧感による吐き気……先ほどまで起こったことが頭の中を一気に駆け巡り、あの時に感じた恐怖感を思い出しては震えた

そんなハルをあやすかのように、恋は抱きしめる力をさらにこめて、大丈夫。大丈夫。と優しい声色で囁き背中を優しく叩く。
それのおかげでハルは震えが少しずつ止まる


「ごめ、んね…ハル」

「え…?」

「おれ、ハル、たち、護、れなか、た…!おれ、おれ…!」

「…ちゃうで、きいくん。きいくんはよう頑張った。なのに、俺はなんも出来へんかった…バトル経験はきいくんと比べ豊富なのに、みんなを…護れへんかった…!」

「花く、ん、おれ、だ、て…」


希色はボロボロと涙を零し、花火は顔を下に向き拳をギュッと握りしめて、ハルに謝ってきた

なんで…なんで、希色たちが謝るの?
ごめん?護れなかった?怪我をさせた?

違う、違う違う違う違う!
希色たちのせいじゃない…!相手に怖気付いて、焦って、的確な指示を出せなかった…あたしのせいなんだから、だから、だから…


「謝らない、でよ…」


声が震えた

ソッと恋が離れて、ハルの顔を見る。ハルも恋、希色、花火、と一人ずつの顔を見て行く
一人一人見終わってから、ハルは乾いた笑いをこぼした


「…馬鹿、みたいだよね。ジムバッジを二個ゲットしたからってさ…なんか自分が強くなった気がしてさ、調子乗ってさ。正直、アカネに勝てると思ってた」


そうだ思ってたいたんだ
これがゲームの世界だと言うのであれば、ストーリー上、どんな幹部がこようと主人公サイドの人が勝てるのだと、ハルは思い込んでた。だから、これも勝てる。しかもジムバッジを二個もゲットしているのだから、あたしもそれなりに実力がついたんだ。って調子に乗っていた

乗っていた結果がこれだ
みんなをボロボロに怪我をさせ、身体的にでは無く彼らの心まで傷を負わしてしまった。あたしが、勘違いしたから、調子に乗ったから


彼らにあんな怪我を負わせたのは誰?
彼らにあんな辛い思いをさせたのは誰?
彼らにこんな顔をさせているのは誰?

紛れもない…あたしだ


「ごめん…ごめん…ごめん…ごめ、ん…うあ…ふぇっく…」


謝って許される問題では無い
あたしの弱さから招いたことなんだ…
謝っても意味は、無い

それでもハルは涙を流しながら謝り続けた。何に対して謝罪なのか分からない。ただ壊れた人形のように泣きながら、みんなに謝り続けている


「ハル、ハル、謝、らない、で…ふぇ…」

「なんでハルちゃんが謝るんや…俺らが、俺が、強かったら…っ!」


希色がハルの手をギュッと握り、泣き止むよう催促したが、希色も花火も泣きはじめた


弱いんだ
あのアカネが言ってた通り、あたしは弱い。ポケモンの知識はそれなりにあるとは思う。技もタイプも特性も…それなりに知っている。

だけど知っているだけじゃダメなんだ
あたしは画面越しのポケモンバトルしか知らない。ターン制のバトルしか、あたしは知らない。
アニメのように目の前で実際にいるポケモンに指示を出していくポケモンバトルは知らない。そう、そのポケモンバトルは知らないんだ

どれだけゲームをやりこんでいようが、この世界では通用しない。ゲームと本物ではバトルの仕方も違う
天候、そのポケモンならではの性質、フィールドの活用…などなどそれらを使って、ここの世界の人たちはバトルしている

あたしはこの世界ではあまりにも無知過ぎたのだ
無知は罪、なんて良く言うけれど確かにその通りだ。知っていないことは誰かを傷つけてしまう。今回のように…


だから今回のことで知ったんだ。あたしはこの世界では無知なトレーナー。実力も知識もない無力なトレーナー。頼りない、トレーナー。
そして、ゲームの世界では無い。ここは現実の世界なんだ…と



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