ドン、とアカネと対峙しているギラティナを見て、ハルは呆然としていた
何故シンオウ地方の、伝説のポケモンがここにいるのか?
ギラティナは味方なのだろうか?
あの聞き慣れた声の主はどこにいるのだろうか?
などなど幾つかの疑問が頭の中に浮かび上がってくる。
でも声が出なかった。驚きのあまりか、それとも…ここの空気の重さなのか分からないが、声を発しようと喉を震わせるが口からは空気が漏れるだけだった
「…火炎放射」
静かに、ただ静かにアカネはそう指示を出せばヘルガーの口から凄まじい火炎放射がこちらに向かって発射される
ハルは慌てて目を瞑るが、熱さも、痛みもこなかった。ソッと目を開ければ、また黒い靄状のモノがハルたちを包み、あの火炎放射から護ってくれていた
靄の元を辿っていけば、視線の先はギラティナ。
この子が…護ってくれた…?
味方あのか敵なのか未だに分からない状況だが、確かにギラティナはハルたちを護ってくれた。
その事を知るとハルは、知らずの内に、ホッと安堵の息を吐いた
何故だろう?ギラティナのそばにいるのが、とても…安心する。
そう思いながら、チラッとヘルガーを見れば、フラフラとし、怪我をしていた。その様子を見れば、ヘルガーは攻撃をくらったことが一目瞭然だが…あの一瞬で?あんなボロボロにさせるほどの攻撃を繰り出したの…?
伝説ってだけでこんなにも力の差が出るのか…としみじみと実感した
「……は、」
顔を俯き、表情が伺えなかったが、アカネは今、肩を震わせていた
どうしたんだろ?と思い、アカネをジッと見ていれば、グワンとすごい勢いで顔をあげて
「あはははははははは!」
盛大に笑い始めた
そんな様子を見て、ハルは今までにもう恐怖感を抱いていたが、それ以上に恐怖し、身体がゾクゾクと鳥肌が立ち、ガタガタと震え始めた
そんなハルを安心させるかのように、黒い靄状のモノがハルを優しく包み込む。それのおかげで、身体の震えは少しおさまった
「すごい、すごいよ!あの一瞬で僕の焔をこんなにズタボロにするなんて!はは!いいね、強い子は好きだよ。強い子とバトルするのは好きだ大好きだ。うん…そうだ、とても楽しい、すごく楽しいよ」
両手を広げ、空を見上げ、そう高々に語り始めるアカネ。その顔は笑顔ではなく、すごく…恍惚とした表情だった
しかし、こちらを見る時には口元が弧を描いた表情に戻り、スッとギラティナに指をさした
「僕はこのまま君と戦いたい…が、僕の負けが見えている。僕は負け戦は嫌いだからね。無駄なバトルはしないよ。けど…なるほどね」
コツコツとギラティナに向かい歩く。ヘルガーが危ない!と忠告するが、そんなこと耳にせず、遠慮無しに近づく。
ギラティナも特に何かするわけでもなく、ただ近づいてくるアカネを静かに…冷えた目で見下ろしていた
そして、お互いの距離が1メートルぐらいになった時、アカネは歩みを止めた
「僕のこの違和感…デジャヴ感がなんなのか、君を見て分かった。そう、全てを思い出した…と言ってもいい。それだけは感謝するよ」
『……どーいたしまして。さっさと消えろ』
「はは、相も変わらず怖いね君は。まぁ、今日は退却するよ」
パチンと指を鳴らせば、モンスターボールからバルジーナが出てきて、アカネはそのまま背中に飛び乗った。
ヘルガーをボールに戻し、バルジーナが足で気絶していたプラズマ団を掴み、空へ飛んだ
「弱きトレーナーさん。君が強くなることを僕は少しだけ期待しとくよ。次会った時はせいぜい僕を楽しませてね」
それだけ言い残すとアカネは飛び去ってしまった。
彼女が見えなくなった瞬間、頭がグワングワンと揺れ始めた。
もう限界がきていたのか、朦朧としていた意識が少しずつ沈んでいくのがわかる。目の前が徐々に暗くなっていき、倒れる際に、名前を呼ばれたんだ。
『…っ、ハル!』
ああ、この聞き慣れた声…やっぱり…ギラティナは…あなただったんだね…
恋……
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