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暗がりの中、カーテンの向こうの夜空がやけに明るく見えた。暗さに慣れた目は明かりを必要としなくても周囲を映して、これじゃあ電気を消した意味がないなといつも思う。けれどそれを言ったところでどうにもならないし、雰囲気があると言えばある気もするので言うつもりもない。執拗に弱い部分を撫ぜる指先に身体をくねらせながら、ぼうっとそんなことを考えていると、見透かされたように「別の事考えてない?」と聞かれて嶺二の整った顔がひょっこり私の前に現れた。なんでわかっちゃうかなぁと彼の聡さに呆れながらも、これだけ目が慣れた暗闇の中では表情を窺うことなんて容易で、私の表情のひとつひとつが、羞恥にまみれた顔までもが全部見られているんだろうなあと思うとちょっと悔しい。


「そうじゃないよ。月が綺麗だなって」

「わぉ。ナマエちゃんってば詩人!愛の言葉?」


一瞬きょとんとした嶺二が、嬉しそうに言って、鼻先を擦り付けるようにして近づいてきた。互いの鼻先は触れ合っているというのに唇同士には若干の距離があって、それがちょっともどかしい。じっと見つめてくるその目が、キスをねだるのを待っていることを伝えている。「それをすぐに思いつく嶺二の方が詩人だよ」と言いながら顔の位置をずらし軽く口づけると、そう?なんて声の後にもう一度深く唇が重ねられた。そのまま嶺二の掌が身体を弄って、上がった息が熱くなった頃、いよいよとでも言いたげに微かな金属音が響いた。カチャカチャ。熱い吐息が首筋にかかって、待ちきれなさげな音を聞くと、ああそろそろ嶺二も余裕ないんだなと分かって少しだけ優越感に浸る。いつもは私の余裕がなくなって音を上げる程に満足させてくれようとする彼だけれど、その大人の余裕さとでも言うべきものが、ここにきて剥がれてくるのだ。それを感じるのがたまらなく嬉しいし、いつも啼かされている分、ちょっとだけ意地悪をしたくなってくる。


「ね、嶺二」


意味もなく名前を呼んで、ベルトを外そうとする手をやんわりと止めると、その指先を弄ぶようにしながら反対の手をベルトへと伸ばす。本当に余裕ないんだろうなぁと思うくらいにそこは膨張していて、撫ぜるようにしたら軽く息を呑む音が耳元で響いた。それに気を良くしながら意味もなくベルトを弄りカチャカチャと音を立てていると、困ったような嶺二の声が響く。それが堪らなく脳髄を刺激して、興奮してしまうのだから私はよっぽどの馬鹿なのかもしれない。


「ちょ、ナマエちゃんギブ…れいちゃんもうはじけそうなんだけど」

「いつもの大人の余裕は?」

「それをはぎ取ろうとしてる子が言う?イケナイ子だね」


瞼に熱いキスが落とされて視界が途切れると、ベルトにやっていた手を絡め取られて、あれよあれよという間にそれが外され、ご丁寧なジップ音が響く。熱い吐息にほだされながら、あーあ終わっちゃった、なんて思っていたら、耳朶をやわく噛まれて背筋が粟立った。


「ぼくちんちょっと余裕ないから…今夜は手加減できないよ?」

「ちょっと待って、嶺二、っあ」

「だーめ。待てなくしたのはナマエちゃんだよ?そのナマエちゃんは余裕みたいだしね?」

「違…!」


にんまりと笑って言う言葉には少しだけ意地悪さが見え隠れしている。ちょっと調子に乗りすぎたのかもしれない、けれど悪い気はしていなくて、そのまま嶺二が覆いかぶさるのを感じながら恍惚とした一体感に身を任せた。



130623
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