第2回 | ナノ
「ーーー俺、幸せですよ?」

彼は、自分は幸福であると言う。幸福とは、心が満ち足りていることを指す。けれど、とてもじゃないが彼を人は幸福であるとは言わないだろう。
なまえは執行官だ。犯罪係数も基準値よりも遥かにオーバー。生い立ちも幸せとは言い難いようなものであった。
望まれてこの世に生を授かった訳ではない、両親からは愛されたことがない。そんな状況下で生きてきた彼の色相はクリアカラーには程遠く。
だが、両親から愛されずに育った彼は愛を知っていた。

「愛を俺は知ってますよ?……ほら、ニュースの特集とかでやってて。まあ、見よう見真似なので合ってるかどうかは定かではないんですが」

苦笑してそう答えたなまえはニュース等と言った情報だけで学び、補おうとしていたのだ。最早それが当たり前となっている彼を征陸は否定出来ない。否定してしまったら、なまえが行ってきたこと全てを否定することとなるから。
そんななまえを、周囲の人間は放って置くことが出来なかった。親から愛されなかった彼を甘やかそうと決めたのは果たして、誰であっただろうか。そして、征陸は最早自分の息子のように思ってしまっている。それくらい、いとおしかった。

「あ、コウちゃんおかえり」
「ただいま、なまえ。とっつあんを困らせたりはしていないな?」
「してないよ!……ねえ、征陸さん?俺、良い子にしていましたよね?」
「ああ、していたさ」

狡噛が帰ってきて、なまえは駆け寄る。困らせたりはしていないな、という狡噛の言葉に不貞腐れ気味の彼だが、狡噛が帰ってきたことが嬉しくて堪らない様子であった。二人は端から見れば仲の良い兄弟のようにも見えるが一課の人間は知っている、二人は恋人関係であることを。征陸はそれでもいいと思っている。彼が幸せであるならと。

「俺にとっての一番の幸せは、皆がいることだよ」

幸福とは、裕福だとか、そういったことではないとなまえは言う。そうだな、征陸はそう言って彼の頭を撫でた。なまえは一課で、幸福を知ったのだ。

「だからね、いなくなっちゃ駄目だよ?コウちゃん」
「お前を置いてはいかない。その時はなまえが嫌だと言っても連れて行く」
「はは、違いないな」
「コウちゃんだけじゃなくて、みんなだよ!」

彼は、幸福に満ちていた。



最大幸福のこたえ

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