寒いな。風が冷たくなってきた。
そう思いながらも、私はその場から動くことができず、ただただ、ぼんやりと景色を眺めていた。
「じゃあね、ばいばい。」
「また、明日。」
眼の前で遊んでいた子供たちは暗くなってきたのか、それぞれの家に帰って行く。
バイバイか。
無邪気に笑う子供たちを見ながら、この子たちもいつか、本当のさよならを知る時がくるのだろうか。
そんな事をふと思う。
そして握りしめていた便箋に目を向ける。
残酷な人。
誰もいない公園で私はひとつ呟いた。
今から思い返しても、当時の私は本当に可愛げがなかったように感じる。
本当はすごく好きだった。
そう、口にすることがひどく恥ずかしく怖かった。
言葉にしてしまうとあまりにも嘘のようで陳腐な言葉のように感じていた。
でも、私は確かに好きだった。
慎也のことが。
「なまえ、今日終わったら暇か?」
「うん。」
「そうか。じゃあ、部屋で待ってる。」
「わかった。」
いつもの様な何気ない会話。でも嬉しかった。
どうしてもっと可愛い顔ができなかったのだろう。
そんな事を慎也は特に気にせず、私を純粋に愛してくれていた。
穏やかで緩やかな時間だった。
特に何か話すこともなかったけれど、2人でいる時間は愛おしかった。
慎也に抱きしめられるとそれ意外何も考えられなかった。
そんな日常に甘んじていた自分が悪かったのかもしれない。
私は慎也の変化に気づいていなかった。
自分の事しか見えていなかった。
「……慎也…慎也…いないの…?」
いつもの様に無機質な部屋。
静まり返った部屋。
いつも扉が閉まっていてはいる事がなかった部屋の扉が今日は開いていた。
恐る恐る部屋の中に入る。
テーブルの上には手紙が置いてある。
嫌な予感しかしない。
震える手で開けると、なまえへ。そう書き始められていた。
◆◇◆
すっかり外が暗くなった。
もう、帰ろう。
あの時の手紙を時々私は無性に読みたくなって一人で読む。
慎也に無性に会いたくなった今日の様なこんな日に。
そして、いつも思う。
インクが滲んでいる筆跡を見ると戸惑っているようにみえる。
やっぱり私と離れるのが辛かったのだろうか?
私の事を本当に愛してくれていたのだろうか?
自分の選択に関して悩んでいたのだろうか?
色々と問いただしてみたいが、問いただす相手はいない。
もう、慎也の心の中には私はいないかもしれない。
そんな事を思いながらも、私はまだこの手紙を捨てきれずにいる。
「馬鹿…。」
そう一言呟くことで今の自分を保っている。
大人になればさよならくらい簡単だと思ってた