第2回 | ナノ
※近親相姦


 屈んだ体勢の槙島はベッドに腰掛けるなまえを見つめると、惚れ惚れとした様子で息を吐いた。そんな彼の姿も芸術品めいて美しいのだが、彼の視線はただ一点に釘付けである。
「…やっぱり、姉さんの目は綺麗だね。まるで血で染めたみたいだ」
「聖護…血で染めたって怖くない…?」
「どこが怖いの?こんなに美しいのに…」
 するりとなまえの頬を滑らせる槙島の手には、今さっきまでなまえの目を覆っていた真白い包帯が握られている。槙島は自分以外がなまえの目を見ることを好まない。柘榴石のようなこの目を見ることが出来るのは自分だけでいいのだと言って、なまえの目を覆ってしまったのだ。
 槙島となまえは血の繋がった姉弟だ。しかし二人が持つ感情は家族愛や兄弟愛ではなく、もはや恋人同士のそれである。当然、それらが禁忌とされる感情であるということも理解していた。
 しかし槙島はこう考えていた。シビュラシステムに選択を委ねるこの社会で、自分の意思で選択を行ったものは全て正しく尊いものであると。禁忌が何だ。シビュラに運命の相手を決定してもらう時点で、それは本当の愛とは呼べるだろうか。相手を心底思い焦がれ、愛おしく思い、時には感情を抑制できないほどの思いに駆られる、それが本当の愛なのではないのか。そうして槙島のそんな存在が、なまえなのであった。
「……姉さん、体を拭いてあげようか」
「ふふ、聖護が言うならお願いしようかな」
 槙島は湯で濡らしたタオルをしっかりと絞ると、優しい手付きでなまえの体を拭き始める。先ずは首から。なまえはにこにこと嬉しそうに笑って、槙島のするがままに身を任せていた。首元を拭き終わると、槙島はなまえの肩を掴んで後ろを向かせた。
「姉さん、シャツ脱いで」
「…んー……」
 槙島が優しく拭くために眠くなってきたのか、ぼんやりと返答をしたなまえはゆっくりとした手付きでシャツのボタンを外す。露わになった白い背中に笑みを浮かべた槙島は、ちゅ、と態とリップ音を立てながら肩甲骨や項に唇を落とした。途端になまえの肩が跳ねる。突然の槙島の行動に眠気も飛んでしまったようだ。
「ッ、聖護…!」
「何だい?姉さん」
 くすくすと笑う槙島はなまえの言いたいことも気がついている。耳を赤く染めて黙り込むなまえにまた一つ笑みを零すと、槙島は先ほどと同じように優しい手付きでなまえの背を拭き始める。
「…ねぇ、聖護。好きよ、大好き」
「僕も好きだよ。愛してる」
「ふふ、嬉しいなぁ……ずっと一緒に居てね」
 突然、自分の体を壊れ物を扱うように拭いてくれる弟の腕に触れてなまえは呟いた。槙島が柔らかな声で応えると、なまえはゆるりと振り返って槙島を見つめ、猫のように目を細めて笑った。
「…あぁ。永遠に一緒に居よう、なまえ」
「うん、ずーっと、一緒ね…」
「僕は、死んでも姉さんを離しはしないよ」
 二人は永久の愛を誓うように唇を交わして微笑みあった。何人たりとも二人の仲を裂くことはかなわない。それが例え、死であったとしても。



盲目と肌を頼りに

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