※監視官夢主設定
「今日はもうあがりなのか?」
「そう。久し振りに早く帰れる。」
「そうか。」
じゃあね、と私が言いかけた所で再び呼び止められる。
「何か、なまえ、雰囲気変わったな。」
「そうかな。」
「綺麗になったな。」
私の頬に熱が帯びてくる。
呼吸も浅くなってうまく呼吸ができなくなりそうになる。
じゃあね、と再び同じ言葉を話す。
喉はカラカラだったが、動揺は彼にはわからなかったと少なくとも思う。
いつからだろうか。
狡噛とは学生の頃からの知り合いだった。
気づいたら傍にいて話したり勉強を一緒にしたり学生時代のほとんどが狡噛で占められている。
そして職業適性の時期が過ぎ、運がよく、私は狡噛と同じ監視官になった。
素直に嬉しかった。
学生の頃の延長で彼の傍にいられることが。
でもその時間はそんなに長くは続かなかった。
私にとっては憧れでもあり、初めて好きになった狡噛が執行官になった。
どうしていいか私は分からなかった。
そして私は逃げてしまった。
自分のキモチにも狡噛からも。
◆◇◆
「なんだか、今日は気分がいいみたいだね。」
「そうかな。ちょっとね。」
ふうんと言いながら、彼は本を片手に紅茶を飲んでいる。
私が狡噛から逃げだした直後に現れた男が今目の前にいる男だ。
突然自分の家の前に座り込んで本を読んでいた男を怪しいとは思わずに私は部屋へと招き入れた。
名前はマキシマと言っているが本当の所はそうなのかどうなのか疑わしい。
でも私は不思議とこのマキシマといると居心地が良かった。
「君は僕の事を知りたいと思わないのかい?」
「聞いたら教えてくれるの?」
「それはどうかな。」
そうでしょ…という言葉は口づけによって遮られる。
私は静かに眼を閉じて流れに身を任せる。
私はその瞬間、思考が止まり、何も考えられなくなる。
この感覚が好きだ。ざわざわと心が揺さぶられる感覚。
「なまえはどうして僕の事を部屋にいれたんだい?」
情事後の気だるさが残るベッドで私は髪の毛をいじっているとマキシマが私を優しく語り掛ける。
「なんでだろうね…。強いているなら知り合いに少し似てたからかな。」
「ふうん。そうかい。それより最近、綺麗になった。」
えっ…と思わず驚いた声が出た。
少し大きく出た声にマキシマは少し驚いた顔をしてそれから私を覗き込むように見る。
見透かされているような気がする。
「もう一回…しよ…。」
そういって私はマキシマをそっと抱きしめる。やれやれと彼は言いながらも首筋に甘く噛み付いてくる。
動揺していた事がバレテいないだろうか。
そんな事を思いながらも、私は今日も嘘を重ねながら夜の海へと落ちていく。
謎があるほうが燃えるでしょ