第1回 | ナノ
London Bridge is broken down,
Broken down, broken down.
London Bridge is broken down,
My fair lady.


白い影は歌う。
黒い百合の花を一本携えて遥か遠い国に伝う古い民謡を歌っていた。
頭に被さったマリアベールは海風にゆらゆらと揺れながら波打ち際を歩いていた。




弱者に力を与えるその姿は誰もが救いの神に見えただろう。
しかし、強者に刃向かえる剣を与えたとしても所詮弱者は強い力に耐えきれず狂って消えてしまうか、誰かに消されるか。
僅かに期待を心の底に抱いたとしても予想通りの結末。
目的は達成されたが楽しくはなかった。
「つまらない」とまるで子供のように飽きる素振りをするがその瞳には失望と寂しさを映していた。
初めて“槙島聖護”を見た時、全てが神々しい程に神秘的で真っ白い男だった。
残虐さを除けば理想の人間。シュビラが望む安全な構成員に見えるが、彼は人の命を奪う事に躊躇いは無いし、どんな罪を犯しても色相は濁らない。
いや、犯罪に限らず彼の心はどんな事にも白紙のように真っ白く“無”に近いようだ。
他者とは違う存在として、この世に生まれた槙島の孤独感は彼を強くさせた。

まず、槙島聖護と出逢った詳細については省いておく。
彼には資金を調達できるパトロンが存在し、都内に数ヶ所のセーフハウスを所有しており、その一つに私は住まわせてもらっている。海と港に水平線の向こうで貨物船が見える場所。朝になると反射した海は白く染まってキラキラと輝いていて綺麗だった。
冬も近づき、これからさらに寒くなるというのに日の光が強くて暖かい。しばらくこのままでいたかったが目蓋が重くなってくる。

「もう眠ろう」

なまえは海の底に沈んだように深い眠りに落ちていた。

彼女が眠りから覚めたのは午後8時。指でスナップすると表れるタッチスクリーンがそれを示した。
今日も夜まで深く眠りについてしまったと息を吐いては身体を伸ばそうと右腕を動かすが肘が何かにぶつかった。
顔を右に向けると綺麗な長い睫毛が下を向いて寝息をたてながら眠っている男の顔があった。

「………………」

この隣で眠っているのが上記に述べた槙島聖護である。
彼女は彼を見ても驚く事はなかった。二人にとってこれが日常だからだ。
どんなに近くにいても二人の間はプラトニックだった。
互いに深く求めるわけではなく、ただ傍にいるだけ。
変化のないこの日々を彼女は安心であったが槙島にとっては退屈だった。
だから、彼は何も告げつに消えてしまった。
いくら待っても此処に来ることはなかった。




London Bridge is broken down,
Broken down, broken down.
London Bridge is broken down,
My fair lady.


白い影は歌う。
海沿いをもう何日歩いただろう。
あの場所に留まれば安全だったかもしれない。
でもなまえにとって、もうあの場所にいる必要はないのだ。
足が痛くなるほど疲労がたまり、その場に座り込んだ。
視線の先には海に沈んでいく太陽とオレンジ色の空は美しい。
痛くて辛いはずなのに、何故か心は晴れやかだ。

「あの人がいなくならなければ、この景色は見れなかったかもしれない」

彼女はそう呟くと砂浜の上で仰向けになって倒れた。
この状況は長くもたないだろう。当てもなく消えた彼を探しているのだから。
例え見つからなくても構わない。
だって…だって…

「何もしないで死ぬよりはマシだもん」

限界まで足掻いて死のう。
それが私にとっての美しい死に方。
彼がいなかったら、私の前から消えなかったら、そんな考えはしなかっただろう。
もしや彼がそうさせるようにしたのか?そう考えると笑みが浮かんで来る。

「本当にあなたは美しい人」



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