7 | ナノ
監視官に向いてないと思われた彼女は、喜怒哀楽のはっきりした性格の子だ。ころころと表情の変わる彼女は見ていても面白い、感情豊かな一人の女の子なんだと思う。
けれども彼女にしてはあまり顔をださない負の感情というものが何かのきっかけで芽生え、ある一定ラインを越えると彼女は泣き虫ちゃんへと化してしまう。その中でも一番よく泣くのは身内が傷付いた時。物理的でも精神的でも。自分ではなく、仲間が傷を負った時というのだから、お人よしというかなんというか。
しかもそれは同僚である監視官様達だけでなく、俺達執行官相手でも発動される。任務後、肌に傷ひとつでもつけて彼女の元へ戻るものならそれはもう、泣く。くりくりとした大きな瞳に水の膜を張ったかと思えば一瞬の間に、ぼろぼろと大粒の雫が頬をつたわせる。無言でのこの訴えは中々効き目があるのだ。証拠に皆は彼女のこの顔に弱い。ギノさんやらコウちゃんですら弱いのだから、彼女は本当にすごいと思う。

けれど俺は、そんな彼女の泣き顔が好きなのだ。


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「なまえちゃん、」

はらはらと、雫が頬を滑り落ちる。少し色付いたほっぺたがおいしそうだなあとか宝石みたいな涙だとか、思うのはいつもの事。俺はこの瞬間が至福だった。

「なまえちゃん、泣かないでよ」

心にも思ってない事を言う。俺の胸の奥底で燻る本音は"泣かないでよ"なんかではなく"もっと泣いて"だろう。そんな自分に自嘲を零しながらもそっと手を伸ばす先にあるのは華奢な肩。ふるふると震えるそれが愛おしい。だから、俺は

「こんな怪我、どうって事ないから。ね?」

毎度毎度、懲りずにしなくてもいい怪我をする。けれど今回ばかりはうっかりも祟って、予想より深い傷を負ってしまった。痛みだした脇腹にすこし顔を顰めながらも、彼女へ向かって微笑みかければ、くしゃりと顔が歪み、さらに泣かれた。それがいつも以上に可愛いと思うなんて、俺以外で誰がこの歪な思考を知るのだろう。

「もー、なまえちゃーんってばー」

軽い口調で呼びかければぴくりと肩が跳ねて、漸く目があった。大きな目が水の膜を張って、そこから零れる雫なんて舐め取ってあげたくなるわ、赤いほっぺたは相変わらずおいしそうだわ…うー、あーやばい、興奮する。決して彼女の前では口には出せないであろう事を胸の内で思いながら、慰めるように彼女の横髪を耳にかけてやった。心中に似合わない明るい笑みを零し、彼女を見返す。

「俺は、大丈夫だって」

心優しいあんたが、考え付かないような思いを抱えながらいまこの言葉を口にする俺は、なんて卑劣な男か。


title by joy
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