7 | ナノ
良い女である事は誰より俺が良く知っている。
実際、この職場では割りと長い付き合いだ。
しかしながら、良い女である事は自他共に理解していたのである。
本当に獣のような、しなやかさを持ち、且つ、本能のままに生きている女だ。
そして妙に色っぽい。
俺は彼女が嫌いだった、しかしながら愛していた。
彼女の誘惑に易々当てられる俺もどうかしている。

「質問なんだけどさー」

シャワーから上がってきた彼女は薄手のネグリジェを身に纏い、俺の隣に腰掛けた。
黒塗りのソファは広いはずなのに、身を寄せる彼女の所為で、急に狭さを感じる。

「何だ?」
「監視官って執行官と夜の営みでも犯罪係数って上下するの?一般的に多少のストレスは人体に良いとされている訳だし。大体、セックスでサイコパス濁るって不毛なんだけど」
「それは、部屋に俺を招き入れた奴の台詞か」

すると、彼女の口は弧を描いた。
この笑みだけは、俺も嫌いではない。

「……測った事はない」
「あら?怠惰に扱って、係数上がっても私は責任取れないわよ」

そうだ、彼女に責任は無い。
何故なら、俺が彼女を拒絶すれば済む話なのだ。
大体、相手は執行官だ。
猟犬と言えど犬は犬、圧倒的に優勢な俺が捩じ伏せれば問題無いのだ。
彼女との関係を止められない俺も俺なのだ。

「慎也君、可愛い」

詰め寄った彼女は俺の耳を舌でなぞり、唇を寄せた。
項が粟立つような感覚を覚える。
それを合図に彼女をソファに押し倒す。
先程狭く感じたソファは大の大人が横たわれる広さなのに、やはり狭く感じる。
俺も餓鬼だな、早急に彼女の意味があるのか分からない程薄い衣服に手を掛ける。
彼女の肌は白く滑らかで美しい。
――故に、良く映えるのだ。

「昨日は、佐々山か?」

彼女からの口付けを拒んで、尋ねる。
普通ならば、何の話かと質問を質問で返してくるだろう。
だが、彼女は違う。

「何で分かったの?」

おまけにニヒルな笑みまで浮かべやがる。
そりゃあ分かるさ、佐々山は実に犬みたいな奴だ、マーキングか何か知らないが、無数に散らばった鬱血痕を見れば分かる。
俺はそれらとは別の所、鎖骨のすぐ下に噛み付いた。
微かな痛みに顔を歪める彼女。

「まぁ、昨日では無いんだけどね」
「は?」
「うん、さっきなんだよね」
「……佐々山は今日宿直だろう」
「だから、宿直行く前に」
「……」
「いや、だから、シャワー浴びてきたから」

悪びれもなく言い放つ彼女にはもう慣れた。
彼女が片手で数えられる程度の性行為には満足出来ない事は、この関係に到る前から知っている。
嫉妬しない事は無いが、彼女を縛ってはならないと理由もなく思う。

「お前は明日宿直だろう」
「身体気にしてくれるんだ?真っ先にそれが出てくる辺りが慎也君だよね。大丈夫、そんな事で仕事に支障をきたした事無いでしょ、私」

そうは言っても私が気絶するまで止めない癖に、と彼女は笑う。
それはお前が仕掛けてくるからだ。

「生真面目な狡噛慎也君も色仕掛けには弱い訳だ?」
「お前くらい良い女だったらな」
「口説いてるの?」
「さぁな」

知っているさ、お前を満足させられるのは、佐々山ぐらいだと。
だが、合間を埋める事くらいは俺にも出来る。
所詮、彼女にとっては暇潰しでしかないのだ。
しかし、止める事は出来ない。

「悪い女だな」
「自覚しているつもりよ」

彼女は俺の首に腕を絡めた。
――2日後だった、彼女が自殺したのは。
夢を見ていたのかもしれない。
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