安っぽいベッドがギシギシと鳴る。ベッドと同じように安っぽいシーツは白くてかたい。
きっと黒だと洗濯が大変だから白なのね。そんな馬鹿なことを考えて私は前髪にはりつく汗をぬぐった。
腰に手をかけて激しく律動する男の腕に手を添えると冷たい。途端に気分が冷めた。
私は男がシャワーを浴びてるうちに枕の下に仕込んでおいたハンティングナイフを掴んでから逆の手で甘えるように腕を細い首に絡め引き寄せた。
男は気をよくしたかのように唇を寄せてくる。ああ、気持ち悪い。
ガッ、とナイフを持った手をスライドさせて舞う鮮血。中に入ったものはびくびくとしていて急いで抜き離れると白いものが残っている。くそ。
シャワーを急いで浴びて血を流し、ベッドの下に落ちているワンピースを拾い上げ着る。
黒いシンプルなそれは質がよく私がここにいる原因である彼が贈ってよこしたものだった。
「グソン、開けて」
衣服とは反対に白い端末をこれもまた質の良い革のカバンから出して電話を掛ける。
電話先からは呆れたような声が聞こえてきた。
それを無視してせかすと会計しないと開かないはずの扉のロックは簡単に開く。
まったく末恐ろしい男と手を組んだものだな、そうつぶやきつつ私はヒールの音をカツンカツン、と響かせた。
「全然、だめ。」
屋敷の中を探しても見当たらない彼を探すとロココ調に統一された私の部屋のベッドに座りこんでまた小難しそうな本を読んでいる。
私は鞄を置いてからベッドに座っている彼の肩に手を置いた。
「槙島」
「血の臭いがするね」
「嫌?」
「いや、」
力を加えて押し倒そうと思っていた手を逆にとられてベッドへなぎ倒されるかのように落とされる。気持ち悪い、とは思っていたが最後までいかず焦らされていた体はすぐに熱くなり期待するかのように気持ちとともにとろり、と溢れ出る。
いつもと同じベーシックな白いシャツを脱がせ胸に唇を寄せる。
いくつもの細胞がどくんどくんと息をしていて私を迎え入れる。その熱い胸板と腕に頬が高揚した。
「僕は刺激さえ与えられば女はそれでいいと思っていたけどね」
いままで見てきた女とは君は違うようだ。笑わずに言う彼の痩せているのに筋肉はしっかりとついた太ももに手を添えると、ベッドのスプリングが少し動き彼が上に乗ってくる。
「ふぁ…んっ、あっ…」
期待した実が弾けるかのような快楽が襲ってきて私は槙島の腕にすがりつくかのようにそれに耐える。そのまた白いのに太い腕が堪らなくて私はそれに唇を寄せた。
「手は尊敬というのと同じように、腕にするのは欲望のキスというね。」
早くなる律動に息を吐くように漏れる声はさっきのものとは大違いで自分でも考えれないくらい甲高くて切羽詰まっている。もう無理。
「ゃ、ぁあっ…はっ、イっちゃぁ…!」
びくん、しなるように動く体。首に回した手をきつく結ぶ。ふっ、と笑う様子が首の筋肉越しに伝わってきて私は目をつむった。