7 | ナノ
「おや、槙島くんは随分と良いのをお持ちのようだ」

槙島の知り合いの或る男は、なまえを見るなり遠慮もなしにそう言った。
槙島が目をかけているこのなまえという少女は、幼いながらも、どうしようもなく人を惹き付ける魅力を欲しいままにしていた。元からそういった性癖があるのであろう男は猥らな熱の篭った視線をなまえへ注ぎ、情欲に頬を紅潮させる。男のあからさまな下心にはとうに気が付いているなまえは内心で男へ嫌悪と軽蔑を向けた。しかしそれを面には出さず、幼さの残る顔に愛らしい笑みを湛える。なまえの動作から洗練された優雅さや美しさは殆ど感じられないが、自らの容姿や幼さという特性を上手く引き立てていた。どんな風に振る舞えば自分がいっとう良く他よりも可愛らしく見えるのかを、十二分に理解しているが故だった。無邪気そうに見えてあざとく、何よりも愛らしい。零れそうな瞳には常に他者を魅惑する悪戯な光が宿っている。それが なまえという少女を魅力的なものとする所以であった。

槙島は慈愛の滲む目をなまえに向けると細く柔らかい髪を撫ぜ、「向こうの部屋で本でも読んでいるといい」と言ってなまえをこの場から退場させようとした。男の視線を未だ全身に浴びているなまえを不憫に思ってのことだったが、槙島に除者扱いされたように勘違いをして気を悪くしたなまえは、いかにも不満そうに唇を尖らせると、ふいと踵を返しすたすたと部屋から出て行く。その小さな後姿を下卑た顔で見送る男に、槙島はたっぷりと侮蔑を含んだ目線をくれてやる。少女のさらさらと揺れる後ろ髪やスカートの裾からのぞく膝裏しか眼中にない男は、その棘のような視線に全く気が付かない様子だ。

なまえが廊下の奥へ消えてしまうと、男は早速といったように口を開く。

「是非とも私に売っていただけませんかねえ、あの娘」
「残念ながら、あの子にそういったことをさせるつもりはないので」

間髪入れずに拒否を示した槙島に男はひどく不服そうな顔をした。槙島はそんなことなど気にも留めないと言うように、なまえとはまた違った魅力を持つ優雅な動作で腰掛けると、何やら滔々と語り始めた。





「ねえ槙島さん、あの後、あの男の人はどうしたんですか?」

槙島が部屋に入ってくると、なまえはすぐさま駆け寄ってそう問うた。「気になるのかい」と槙島が問えば、こくりと頷く。

「槙島さんは知らないかもしれないけれど、この部屋にいると、お客さまがあれば直ぐに分かるんですよ。この部屋からは、家に車がや人が出入りするのがようく見えますから。だから、さっきの人が、ふしぎなくらいいつまでも帰らないことだって」

なまえは興味深げに細められた槙島の目を見詰める。咎めるような目でも怖じるような目でもなく、ただ、面白いとでもいうような目をしていた。凡そ子供らしいが子供にはできない目だと、槙島は頬を緩める。なまえは初等学校を卒業しておらず未だ知識の引き出しは少ないが、それでも同年代の子らと比較してみれば大分頭の良い方であったし、文学にもよく親しんでいる。そして槙島の傍に置かれているだけあって、思考や発言に槙島の考えや発言に影響された節があった。槙島はそういったところを非常に愛おしく感じていた。

「情欲に身を燃やすだけの豚はいらないですものね」

なまえは目を伏せる。おや、と槙島は内心それを訝しんだ。普段のなまえは決してそんな表情をしてみせなかったからである。今日のように槙島が玩具に飽きて壊したときであっても、なまえは面白そうに笑っていたくらいだったのだ。

「わたしも大きくなったら、あの男の人と同じ、不要な玩具になってしまうのでしょうね。槙島さんは、子どものわたしが物珍しいから、こうやって傍に置いているんでしょう。成長すればわたしは詰まらない人間になってしまいますから、きっと」

翳りのある表情をするなまえは普段とは違った方向から槙島を魅せた。槙島はなまえの体を引き寄せると、すっぽりと腕の中に包み込んだ。片手で肩を抱きもう片方の手を小さい頭へ乗せる。時々思い出したように、頭に乗せた手を撫でるように動かした。
女児特有のか細さと柔らかさ、相対するふたつの感触と子供体温というものの温かさを槙島は好ましく思っていた。未だ膨らみの窺えない薄い胸が静かに鼓動し、上下している。大人しく腕に収まるなまえの旋毛や額に唇を落としていくと、小さな体は遠慮がちにぴくりと肩を跳ね上げる。あの子にそういったことはさせないつもりですので、槙島の脳裏を先程自らが口にした台詞が過ったが、それに見て見ぬ振りをして、なまえの未発達な体に唇を這わせるのであった。
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